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異世界転生救済課─「お前をこの異世界から排除する……」  作者: ねず ただひま
同始異終(どうしいしゅう)の章

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延寿

えんじゅ



 ワシはすみれを心臓外科の名医である四十雀しじゅうからが勤務する病院へ転院させた。そこにはすみれと似た病の同世代のこども達がいた。カケル、サキ、ショウ……みんな同じ疾患を抱えた子どもだ。


 年齢の近い子と初めて接したすみれは、最初は戸惑ったものの、すぐに打ち解けて仲良くなった。

同じ病室で過ごす子ども達は、まるで兄妹のようにも見えた。


 医療機器メーカーでも働くワシは、部下の坂口と共に仕事のかたわら、何度もすみれ達の部屋に足を運ぶようになった。

 坂口は若いながらも優秀で信頼できる部下だ。本業は伏せてあったが、ワシが救済課の仕事が忙しく、子ども達と会えない時は代わりに様子を見に行って知らせてくれた。


 数ヶ月が経ったある日、ニュースサイトにこんな見出しの記事を見つけた。


【今年度国内の心臓移植手術年間件数、大幅減少。】


 2020年代には年間100件以上行われていた手術は、人口の減少とドナー不足により、この20年で三分の一程度に減っていた。その内、すみれのような子どもが手術を受けられたのは年間二人……待機児童60人に対してたったの二人だけだった。


 これでは間に合わない……ワシは焦った。何か方法はないのかと。



 ──とある任務で中世の欧州風の異世界に行った時のことだった。そこは魔女狩りとして老若問わず女達が次々と虐殺される世界だった。


 この世界を創造した救済対象者ドリーマーは、国の権力者に転生し、現実世界での鬱憤うっぷんを晴らす為に適当な理由を付けては女を蹂躙するクズだった。


 人々が行き交う街の広場では、地面に突き立てられた尖った棒に、尻から串刺しにされて死んでいる女達が、まるでそこにいるのが当たり前のように放置されている。


 さらに城壁から首を吊される者、牢獄で人間の尊厳を破壊されるほど嬲られて息絶える者までいる。

 街中には血と腐敗臭が充満している。人々が絶望するかおからワシは目を背けた。


 城下町を流れる川の先で、ウジの湧いた死体の山が積み上げられている。埋められず、燃やされず、ただそこに放置されているだけだ。

 死体の山を黒鳥の群れがついばんでいる。


 どこの世界でも、死にゆく者は何者かの糧になるのだ……

 

 おびただしい量の死体の中から、首の無い小さな体が転がり落ちてきた。その体の中には臓物が無かった。黒鳥がすでに腹を突き破って食い荒らしたあとなのだろう。


 こんな殺され方をして、最後は食われてお終い……


 ワシはその小さな死体に近づき、手を持ち上げて両手でそっと包んで呟いた。


「せめて、誰かの役に立って死ねたら良かったのにな……現実世界の人間が造ったお前達だって、きっとその方がいいだろう?」


 救出対象者ドリーマーが居る城へ乗り込むと、ソイツは女を抱いていた。縛った女の上にぶくぶくと太った体でのしかかり、必死に腰を打ちつけていた。


 気がつくと、ワシは救出対象者ソイツを殺していた……


 この一件はワシの単独行動、故にこの所業は誰にも知られていない。



 ──────


 数日後、ワシは開発部で歪み(ストレイン)の研究をしているという女の存在を耳にした。

 開発部の中で、ほとんど誰とも会話をしない少し変わった女。ワシは足がつかない方法で異世界を往復できる手段として、歪み(ストレイン)の活用法を模索している最中だった。この女を利用しない手はない。


 深夜、一人で研究室に篭る鳶尾いちはつに接触した。かなり驚かれはしたが、興味がありそうな話題を出して気を引こうとした。普段あまり人と会話してないのだろうか、声は小さく、くぐもっており、喋りは下手だと感じた。


 鳶尾いちはつと何度か会うちに、いつの間にかワシは自分の事をベラベラと話すようになっていた。彼女は嫌な顔をせず相槌あいづちをうってくれる。すみれの事、坂口の事、山蘭さんらんの事……


 異世界での過ちは伝えられなかったが、ワシはただ鳶尾いちはつと会話をするだけで気持ちが穏やかになるのを感じた。こんなことは初めてだった。



 ────すみれの心臓移植手術が決まった。

 望んでいた国内での手術ではなく、海外での手術になるが、その知らせを受けたワシは飛び跳ねて喜んだ。一番最初に鳶尾いちはつに電話で知らせると、電話の向こうで彼女は、普段出さないような大きな声で喜んでくれた。そして、ワシのための食事会を開いてくれた。


 嬉しかった……今まで耐えてきた事に意味はあったんだと。ほどなく山蘭さんらんの墓にすみれの手術の決定を報告した。


「なぁ、山蘭さんらん……お前はワシにすみれとはもう関わるなっちゅーたが、それは出来んかったわい。手術が成功するようにそっちから祈ってくれんか? 頼むわ……それとな、ワシ、気になる女が出来たんじゃが、そっちも上手くいくように祈ってくれんかのぅ?…………なんてな……」



 ────意外にも告白は鳶尾いちはつからだった。その日、特別にめかし込んだ彼女は、照れながらワシの事が好きだと伝えてくれた……


 心が抉られるような毎日を過ごしながら、すみれのドナーを待ち続けた。今思えばワシはとうに限界だったのだろう。鳶尾いちはつは小さな体でボロボロのワシを抱いてくれた。


「貴方は今までがんばってきたんだネ……」


 その一言で全てが報われた気がした。これから全てが上手くいくと思った。しかし……



 ────渡米する直前、すみれの心臓移植手術の中止が伝えられた。ワシはすぐに海を渡り、医療チームを問い詰める。彼らは他国の権力者に、ワシが出す費用の十倍近くの金額で心臓を売ったのだった。


 すみれの健康状態を考えると、また何年も待つことはできないだろう……


 その事を鳶尾いちはつに伝えると、しばらく考え込んでこう言った。


臓器提供者ドナーは異世界から調達すればいい……」

 


 ワシは初めて救出対象者ドリーマーを手にかけた時の事を思い出していた。そして、ソイツに無惨に殺された異世界の住人達の事を。

 ワシにはもう、この手しか残されていない。答えは出たのだ。現実世界には存在しない彼らを利用する。

 

 すぐ準備に取り掛かろうとしたが、思っていたよりも早くその時は来てしまった。


 すみれは天国へと旅立った。


「わたしのパパになってくれて、ありがとう。……わたしとママのためにがんばってくれてありがとう……うれしかったよ……」


 そして最後にすみれはこう言った。


「カケルとサキちゃんとショウをたすけてあげて」


 ワシはいつも見送る側だった。山蘭さんらんを、さらにその娘も……



 二人が生きた意味と証を残したい、すみれの最後の願いを叶えたい。そのためには、ワシは外道に堕ちても構わなかった。



*次回、『ともだち』

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