魔王と猫耳
◇ 英
「俺に宿る十三の穢悪よ!力を貸せ!」
英は体内の血流に魔力を流し込む。
これにより身体能力が異常に向上する。
全身が赤らみ、体温が急上昇すると英から赤い蒸気が立ち上がった。
英も千代草と同じく元異世界転生者である。
二人はお土産の能力を持ち合わせている希少種。
英は、かつて魔王として異世界に転生していた。十二人の部下を従えて世界を滅ぼした厄災。
その世界の唯一の希望であった勇者を殺す寸前で、今の上司である九鬼に救出された経緯を持つ。
虎の獣人が鋭い爪で英へと襲いかかる。
驚異的なスピードに翻弄された英は、スーツを少し引き裂かれてしまった。
このスーツは異世界転生救済課の為に作られた特別な物だ。伸縮性があり、耐刃、防弾性能にも優れている。
英はジャケットの内ポケットから専用武器を取り出して両手に待って構えた。
先端に『返し』の刃が取り付けてあるアンカー。
二本のアンカーは柄の部分で鎖で繋がっている。
穢悪の力で身体能力が爆発的に向上している英と互角に闘う獣人を見て、先に追跡者を仕留めた施覆花は声を掛けた。
「今回いちばんの強敵を引いたんは英やな」
施覆花は余裕ありげに電子タバコを咥えている。
「手伝わないなら黙っててください」
英はムッとした表情で獣人の攻撃をいなし続ける。
しかしこのまま戦っていても、事態は好転しないのは明白だった。
英は、敵の尋常ではない速度の元を断つ戦法を組み上げ、現状において最適な穢悪を選択した。
獣人の鋭い爪をアンカーで受け止め、ガラ空きの腹部に蹴りを入れて距離を取る。獣人が空中で身をひるがえして地面に着地する瞬間を狙う。
「淕の穢悪!愚者の沼」
英はアンカーを一本地面に突き刺して魔力を流す。
すると忽ち地面がブヨブヨと柔らかく変化した。
獣人が地面に足をつけ、頑強な脚力で地面を蹴って英へ向かおうとするが、突然柔らかい地面を蹴った獣人は一気に失速。不恰好に対空する形となった。
機を見るに敏。英はもう一本のアンカーを獣人に投げて肩口あたりに突き刺す。
「十壱の穢悪!柄を握る騎士!」
英が両手をパンと合わせると、獣人の背後から、鉄甲を装着した巨大な両手が出現して空中の獣人を捕らえる。
そしてその直後、巨大な手は掌握した獣人を、雑巾を絞るように握り潰した。
ベキバキゴキッ!と骨を砕く音と、獣人の断末魔の叫びが響き渡り、すべての戦闘は終わりを迎えた。
穢悪を納めた英は軽い目眩に襲われる。
「ホンマ、とんでもない能力やな」
施覆花は拍手しながら英の功を労う。
英は、ほんのり漂ってきた電子タバコの見えない煙を、手で払った。
*次回、『ウツボカズラの代償』




