小宴会とあの日の貴女……
◆英
このオフィスを利用して、九鬼班全員プラス一人で小宴会を行うの初めての事だ。
とはいってもここは職場だ。アルコールの類は一切無い。そもそも呑むような空気でもない。
突然この事務所に立ち寄った桔梗も、流石にそこまでアホではなかった。
…
俺たちが外科医、四十雀の経歴と、迷子との関係を確認を調べていた時だった。
オフィスの引き戸をカラカラとゆっくり開け、軽快なノリで顔をひょっこり出した桔梗を、千代草が室内に招き入れたのだ。
春の風に吹かれ、地面に落ちた桜の花びらと共に桔梗がオフィスに入る。両手にはジュースやお菓子や惣菜などの食品が入ったスーパーの袋を抱えていた。
「迷子の居場所は、クラッシュしたアプリから判明している。後はポイントRの選定だけだ。それが決まれば作戦はすぐに実行となる。それまで、今は少しばかり余暇を与える。全員、桔梗の心遣いに感謝するように」
九鬼班長の音頭で、オフィスでささやな食事会が行われた。
南天は鉄線さんから徒手空拳の型を習いながら菓子をつまむ。
途中で、一九八〇年代に流行した香港映画の俳優の動きを取り入れつつ談笑している。
施覆花さんは、エナジードリンク片手に好きな野球選手の話を、俺に話すばかりだ。春の甲子園の話題もしてくれる。有望な高校生選手の事も、ユーモアたっぷりに教えてくれる。
俺はあまり野球には詳しくないが、こんな風に自分の好きな物や、人を楽しそうに語る姿を見るのは嫌いじゃない。俺は興味のある事を、気軽に喋ることは恥ずかしくて全然出来ない。
ふと、女性陣の方を見と、千代草と桔梗に挟まれた形で座っている九鬼班長が目に入った。二人の会話を、首を振りながら交互に聞いて相槌を打っている。
そして一瞬だけ、班長が顔をくしゃっとさせて笑った……。その笑顔に思わず見惚れてしまっていた。
班長も、あんな風に笑う事もあるんだな……
思えば俺と九鬼班長との出会いは最悪だった。
この世界に絶望し、生きる意味を見失った俺は、異世界に逃げ込んだ。そして魔王となって十二人の悪魔を従えて世界中を蹂躙した。
だが、最後に残った勢力のリーダーの勇者を倒す寸前で、俺は九鬼班長班長に無理矢理現実世界に連れ戻されたんだ。
俺は目を細め、四年前のあの日を回顧する。
◇英 十六歳
………
*次回、『昔日の記憶 一』




