11. 班長会議 1
◇班長達・洋館◇
都内某所には、大正時代から残された古風な白い洋館がある。当時では珍しかったであろう異国情緒漂う外観は、今でも美しく保たれており、洋館の敷地内には、手入れの行き届いた広い庭園があった。
その庭の中央の芝の上に、三組のテーブルセットが少し離れて並んで用意されている。
晴れ渡る空の下、そこには丸レンズのサングラスをかけた派手なジャケットの男、槐と、手にした文庫本に視線を落とした男、紫雲英の二人が同じ方向を向いて離れて座っている。庭園に吹く柔らかな風は、紫雲英の後ろに撫でつけた長髪をなびかせた。
二人の元にクラシカルなメイド服姿の女性が近づくと、テーブルの上に置かれたティーカップに温かい紅茶を注いだ。
芳醇な茶葉の香りが、ふわりと風にのる。
メイドが一礼してその場を去ると、槐はティーカップを親指と中指で摘み上げ、口に運ぶと、じゅるじゅると音を立てながら飲みはじめた。
離れて座っている紫雲英が、視線を本に落としたまま口を開く。
「なぁ槐……ハダカデバネズミを知っているか?」
「んあ?」
突然の紫雲英の問いかけに、槐は戸惑う反応をした。持っていたティーカップを、中身をこぼさないようにゆっくりソーサーに戻す。
カチリと陶器が合わさる音がした。
「だんまりしとる思うとったら、いきなりネズミの話しか?」
紫雲英は足を組み、テーブルからティーカップとソーサーを持ち上げて、紅茶をいただく。一口飲んで言葉を続けた。
「ハダカデバネズミは集団の中に真社会性を形成している生き物だ。これは人間以外の哺乳類では非常に珍しい。蟻なんかとよく似ていてな、頂点に君臨する女王が繁殖を担い。その相手を二、三匹の雄が務める。そしてその下には兵隊役のネズミと労働役のネズミがいる。いわば、コミュニティの中にカースト制度が存在しているのだ」
紫雲英は、槐の方を一切見ずに、ずっと本を見たまま喋り続ける。
「ほぉ、ネズミの癖に人間様のマネでもしとるんか? ただの動物なんじゃけぇ、もっと好き勝手に生きりゃあええのに」
槐は小指を耳の穴に突っ込んで垢をほじり出している。
「ただ……面白いことに、ハダカデバネズミ社会の下層の者は、他者の『足を引っ張る』習性があるんだ。これは他の仲間の成功を邪魔する行動だといわれている」
槐の動きがピタリと止まった。
ここでようやく紫雲英が本をパタンと閉じ、槐の方へ顔を向ける、鋭い目つきだが、その表情には少しだけ笑みが浮かんでいた。
「これも、人間社会の模範だと思うか?」
「なんじゃそれ? お前さんが公安におった時の取り調べのテクニックか?」
お互いが視線をぶつけ合い、庭園を異様な重圧が包み込んだが、一人の人物の登場により、その空気はたちまち霧散した。
「遅れて申し訳ない! 九鬼、ただいま到着いたしました」
*次回、『班長会議 2』




