10. 予感
◆英◆
俺は異世界転生救済課に勤めはじめて四年目になるが、いまだに丸一日の休日を取れたことがない。異世界転生救済課は常に人手不足なのだ。ここは労働基準監督署も真っ青になるレベルでブラックなんだ。
昨日、桔梗に怪我を診てもらった後も報告書の作成と、次回の救出対象者の事前調査に追われ、結局帰宅したのは日付が変わる頃だった。
それでも、翌朝には遅れず出勤した。俺は千代草と一緒に、同じ班の先輩である鉄線さんが運転する車に乗り込んだ。車はとある調査場所に向かっている。
昨日、施覆花さん達が松代から聞き出した情報を、移動しながら教えてもらった。
松代は三ヶ月ほど前、ある匿名掲示板で知り合った人物から異世界転生できるアプリの存在を教えてもらっていた。
最初はそんな話を信じていなかった松代だったが、実際にその人物と接触して、一度異世界へ連れて行かれたそうだ。
そして、その異世界でさんざん肉欲に溺れた松代は、その人物からのアプリの購入を決意。親と消費者金融から金を借り、二百万をソイツに支払ってネペンテスを手に入れたそうだ。
ネペンテスを使用した時点でアプリ入手時の記憶は消されるはずなのだが、何故か松代は覚えている。
今は松代の証言から判明した人物を、諜報部が捜索している段階だそうだ。
「松代のスマホには、その時のやり取りが残っていた。相手はログを辿ればすぐに特定できるだろう。その件もふまえて今日、緊急の班長会議があるそうだ」
鉄線さんはハンドルを握ったまま俺と千代草に、そう教えてくれた。
「ふまえてとは? 他に何か重要な事案が発生したんですか?」
後部座席に座っている千代草が、運転席と助手席の間から顔をのぞかせて聞いた。
「あぁ、それがな、紫雲英班の榛。お前達も知ってるだろ? アイツがあ《・》る単独任務の最中に姿をくらませたらしいぜ。今も行方はわからないが、諜報部も動いている。今回の会議はどうやらその件も含まれているようだ」
助手席に座る俺は、ぼんやりと流れる景色を眺めながら考えを巡らせていた。
榛は俺と南天の同期だ。双剣の使い手で腕は相当立つ。そして、俺たちと班は違うが、鉄線さんからよく稽古をつけてもらっていたのを覚えている。
アイツは紫雲英さんの班でペアを組んでいたはずだが、単独での任務? その最中に消えたとは……榛のバディは一体何をやっていたんだ?
それに今日、曲者揃いの三人の班長が一同に集まる。九鬼班長に関しては心配ないのだが……他の二人は少し厄介な奴らだ。
俺達を乗せた車は、調査現場に向かって走り続ける。
*次回、『班長会議 1』




