諍(いさか)い
◇九鬼班
九鬼が洋館の扉を開けて部屋に入ると、荒れた室内では施覆花と合歓が、お互いの剣先を突き合わせる形で立っていた。
「お前たち、何をしている!?」
肩で息をしている施覆花の額からは少量の出血が見られる。
一方で白髪の少年、合歓は涼しげな顔で目を細めて施覆花をじっと見ている。
「双方、刀を納めなさい……」
先に九鬼の言葉に反応したのは合歓だった。
「くきさん、おひさしぶりですね」
合歓は左手に持っている鞘に刀身を納めると、悪びれる様子もなく九鬼に向かってにっこりと微笑む。
「そんなこわいかおしないで、おぐるまさんにけいこをつけてもらっていただけですよ」
施覆花はまだ、合歓に見えない刀を突きつけて険しい顔をしている。
「そうだ、つぎは、くきさんがけいこをつけてよ。つよいんでしょ?」
合歓が悪意を感じさせない笑顔でそう言うと、施覆花が感情を抑えつつ、怒りを露わにした。
「調子のんなよガキ、コラ…」
室内の緊張を打ち破ったのは槐だった。
「ほいほい!解散じゃ!終わり終わり、合歓!飯じゃ!飯食いにいくぞ!」
両手をパンパンと叩きながらズカズカと入室してきた槐は、真っ直ぐに合歓に向かって行き、肩を抱き寄せる。
「施覆花くん、ウチの若いのがすまんかったの〜、今度一杯奢るわ〜」
そう言い残して、合歓を半ば強引に連れて足早に部屋を出て行った。
二人が部屋を出た後、施覆花は、ふーっと大きく息を吐き出して刀をおろし、力を抜いて安堵する。
「何をしているのだ馬鹿者!」
九鬼の叱責を受けた施覆花は俯く。
「すんません…ガキの挑発に乗ってまいました…」
「まったく、お前という奴は……傷、みせてみろ」
九鬼は施覆花の顔を両手で掴んで自分の方に向ける。まじまじと傷口を確認すると、ポケットからハンカチを取り出して額に当ててやった。
施覆花は九鬼の顔があまりに近く、思わず赤面して目を逸らした。お互いの呼吸が聞こえるほどの距離に耐えられなくなった施覆花は、後ずさりをする。
「くくく、車とってきます!」
そう言って、慌てふためいて部屋を飛び出した。途中で何かにつまずいたのたろうか、ガシャンという音と、施覆花の「いてッ!」という声が廊下から聞こえた。
「あ、おい!……まったく、せわしない奴だな」
九鬼がそう呟いて、血のついたハンカチをポケットに戻した時、庭園側の扉から紫雲英も部屋に入ってきた。
「血の気の多い若者は、扱いに困るな」
紫雲英は九鬼の前に静かに立つ。九鬼は何も言わず、感情のない顔で、ただ紫雲英の目を見ている。
「昔のお前も、そうだったな……澄香」
紫雲英は、先ほどの会議の時とは違う穏やかな微笑みを見せながら九鬼の横髪を撫でると、九鬼はその手をそっと払いのけた。
「ここに、そんな名前の女はいませんよ……失礼します」
九鬼は一礼すると、足早に部屋を出た。
ただひとり部屋に残された紫雲英は髪を撫でた手をじっと見つめた。
*次回、『茫漠』




