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第六話_知らない天井

「アニキィィィィッ!」


断末魔のような叫びと共に、シンジはガバッとはね起きた。

視界を支配していたのは荒れ狂う泥水でも、夕日に黄昏れるアニキの背中でもなかった。


「あんだ、ここはぁ!?」


目に飛び込んできたのは、すすがこびりついた汚い天井と、頼りなく揺れる行灯あんどんの火影。

四畳半ほどしか無い狭く湿った部屋で、シンジは戦慄した。


「ここはどこじゃあぁぁぁ!?」


何故か全身ミイラのように包帯を巻かれた体を起こそうとしてシンジは絶叫した。


「ぎえええええ!」


包帯の隙間から、激痛が全身を駆け抜ける。

見れば、真っ白だったはずの布地にじわりとどす黒い血が滲みだしていた。


「なんじゃあ!?どうなってんのやぁ!!」


血に染まる包帯を眺め、シンジはさらに叫ぶ。

アニキに殴られた傷か、川で岩にぶつかった傷か、あるいはユウジの愛の重みか。

もはや原因は不明だがとにかく痛い。

そして何より、状況がさっぱり分からない。


「あんら?もうお気づきになって?」


部屋の襖の向こうから甘ったるい、けれど地鳴りのように低い声が聞こえてきた。

女のような口調だが、その声の「質量」が明らかに異常だ。

シンジの叫びがピタリと止まる。


「誰だテメェ…?」


シンジは、枕元に律儀に置かれていた刀(竹光)を、震える手で抜き放つ。


「あんらぁ、勇ましい事ぉ。アタシ、そんな風に見つめられると惚れちゃうかもん?」


やたらと艶かしい、粘り気のある声。

その直後、襖がゆっくりと、まるで獲物を追い詰める蛇のように開かれた。

逆光と行灯の薄明かりのせいで、正体はよく見えない。

だが、鮮やかな着物を着た「女」の輪郭が、ぬらりと部屋の中に滑り込んできた。


「女ぁ!テメェ何者だ? 奉行の回しモンか!?」


シンジは必死に竹光を構え、女へ向ける。

怪我のせいか、それとも本能的な恐怖のせいか、刀先は生まれたての小鹿のようにガタガタと震えている。


「おほっ!おほほほほほ!アタシが女ですってん?お上手ねぇ、このボウヤったら!」


鼓膜を突き刺すような、奇妙で豪快な笑い声。

シンジはさらに眉を潜め、背筋に走る冷たい汗を感じた。


「な、何笑ってんだコノヤロウ!答えねぇと、この名刀(竹)が血を吸うぜぇ!?」


その瞬間だった。

「女」が重力を無視したようなスピードで、シンジの鼻先まで顔を突き出してきた。

あまりの速さに、抜いた刀で応戦する暇さえない。


「!?」


至近距離。

行灯の火に照らされたその正体を見た瞬間、シンジの心臓は一時停止した。

彫りのやたらと深い濃密な顔立ち。

壁の塗り替え工事でもしたのかというほど分厚く塗りたくられた白粉おしろい

そして、それらを全て台無しにするほど主張の強い、鼻の下と顎にうっすらと生えた「青々としたヒゲ」。

女だと思っていたそれは、着物を着た「体格のいい男」であった。


「ひっ!?」


喉の奥で、魂がひっくり返るような音がする。

死んだ方がマシだ。

シンジは本気でそう思った。


そして…。

シンジの意識は、深い闇へと急降下(失神)した。

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