エピローグ
「まいどっ! 縁起物だよ!」
威勢の良い声に見送られ、凛は手にした団子を二つ掲げながら、先を行く清十郎を軽い足取りで追いかけた。
「ほら清君、これがあの『侍アニキの黄金団子』! ネーミングはアレだけど、味は本物みたいよ♪」
かつて江戸で商売に失敗し、死を覚悟した店主。
その前に現れた「黄金の如き輝きを放つ侍」が、見返りも求めず一分金を投げ与えたという――。
そんな奇跡のような夢物語が、今や街道筋の語り草だ。
「うん、おいしい♪」
ひと口頬張り、満面の笑みを浮かべると清十郎にもう一本を手渡す。
「ねぇ清君、京に着いたらまずは何を食べようかしら?生麩に湯葉、八ツ橋も捨てがたいわね。」
箱根の険を越え、京へと続く街道を歩きながら凛は上機嫌で指を折っていく。
その姿はどう見ても、物騒な任務を帯びた始末屋には見えない。
ただの華やかな物見遊山の娘だ。
「凛さん、一応これ『偵察』ですよ?旅行じゃないんですから。」
隣を歩く清十郎が、苦笑いを浮かべながら宥める
「いいじゃない、江戸では死んだことになってるんだもの。今は羽を伸ばさなきゃ損よ。…それに、どうせすぐ『お仕事』になっちゃうんだし。」
凛が袖に隠した小刀の重さを確かめるように、ふと目を細めた。
その刹那、朗らかな娘の瞳の奥に、凍りついた刃の冷たさが宿る。
「…それで?御奉行様、なんて言ってたの?」
清十郎は、懐に忍ばせた半蔵からの「命」を思い出す。
御奉行から下された幕府公認の印――だが、それを手渡した半蔵の指先には、常にどす黒い野心が滲んでいた。
『…清十郎、幕府の看板なんざ利用できる間は利用すりゃいい。』
あの傲岸不遜な笑みが、陽光の中に重なる。
「御奉行は『京都の不穏分子を排除せよ』と仰っていますが…、半蔵様はその先を見ておいでです。伊多田鬼屋が、ただの江戸の殺し屋で終わる器ではないことを、京の連中に教え込んでこい…とね。」
清十郎の言葉に、凛が「あはっ」と短く、だが鋭く笑った。
「やっぱりね。あの人が、ただ幕府の言いなりになるわけないもの♪」
二人の視線の先、遥か彼方に古都の影が見え始める。
西日に照らされた京の街並みは、美しく、そして深く濁っている。
「幕府の期待なんてどうでもいいけど、半蔵さんの顔に泥を塗るわけにはいかないわね。」
凛の口調から熱が消え、始末屋の冷徹な響きが混じる。
「ええ…京の始末屋の皆さんには、少し『格の違い』というものを学んでいただきましょう。」
清十郎がいつもの調子で微笑んだ。
これで最後のサムライは完結です。
哀れみでもなんでもいいので評価、感想、レビュー頂けたら狂喜乱舞します。
ユウジとシンジのその後は…想像にお任せしますが、まだ時代劇?は書き足りないので、次は伊多田鬼屋のメンツが主役の番外編考えてます。
需要は…ほぼ皆無だと思いますが、書きたいからいいんです!
すこしでも興味持っていただけたら、またこの続き読んでやって下さい。




