最終話_最後のサムライ
「アニキィ! 本気でやる気なんスか!?」
不安げに問いかけるシンジだったが、ユウジの横顔を見た瞬間に言葉を飲み込んだ。
何かを悟り、すべてを諦めたような顔でシンジは小さく首を振る。
「へへっ…分かってやすよ。ワシぁどこまでもアニキに着いて行くッス。」
鼻を鳴らし、シンジもまたユウジと同じ方向を見据えた。
賑わう町並みの更に向こう側。
赤々と燃える夕日に照らされた、江戸城の威容を。
「シンジ、ワイは思うんや…。」
ユウジが少し間を置いて、静かに告げた。
「無罪放免になったワイらは…無敵や。」
勝ち誇ったような笑みを浮かべるユウジ。
横に立つシンジの顔もつられて満面の笑みへと変わる。
無罪放免になったからといって、なぜ無敵になるのかは全くもって不明だが、二人の笑みは本物だ。
自分たちが最強であると、一ミリの疑いもなく思い込んでいる。
「お待ちになって、ユウジさん!!」
江戸城へ向かって踏み出そうとした時、聞き覚えのある野太い声が響いた。
振り返った先にいたのは、怪物―――もとい、松乃信である。
全力で走ってきたせいか、もともと酷かった顔が白粉が汗でドロドロに溶け、キモさが三倍増しくらいになっている。
「お…おまつさん!?」
驚きの声を上げるシンジを余所に、ユウジは振り向きもしない。
夕日に赤く照らされた背中が、どこか哀愁を漂わせている。
「シンちゃん、ユウジさん!本当にやる気なのん!?」
松乃信の叫びが終わるのを待たず、ユウジが口を開いた。
「おまつ。今のワイは…何者に見える?」
意味深な問い掛けに、松乃信は一瞬眉をひそめた。
だが、ゆっくりと振り返ったユウジの、血走った眼光を確認した瞬間、彼女(彼)はすべてを悟ったように微笑んだ。
「シンジェェァァ!」
ユウジが空高く吠える。
シンジが呼応する。
「国盗りじゃあああああ!!!」
「漢じゃあ!アニキは本物じゃああああ!!!」
刀を抜き放ち、ユウジとシンジは猛然と駆け出した。
せっかく手に入れた無罪放免をドブに捨て、再び罪を犯しに向かう彼らの行く末は…。
――今のワイは何者に見える?
遠ざかっていく二人の背中を見守りながら、松乃信はその台詞を反芻していた。
普通の人なら「ただの馬鹿」だと即答しただろう。
だが、松乃信の出した答えは違った。
「ユウジさん…アナタはアタシの見込み通り、本物の漢だわ。」
逆光の中に二人の姿が消えると、松乃信は静かに背を向けた。
江戸に新たな嵐が吹く。
彼女(彼)もまた忙しくなるだろう。
今はその羽を休めるために、『め組』へと帰るのだ。
何歩か進んだところで、松乃信はふと思い出したように、小さく言葉を付け加えた。
「…漢なんかじゃなかったわ。アナタは本物の――」
――サムライだわ。
完結です。
最後までお付き合い頂いたみなさん、ありがとうございました。
最後にエピローグだけ書く予定です。




