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第十一話_最強の戦術

「あの人が半蔵さんです。」


笑顔で清十郎が振り返ると、ユウジとシンジはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

二人ともまさに狂人、というかどこか脳のネジが数本まとめて吹き飛んだような顔をしている。


「なんや、妙なトコに閉じ込められてんじゃねぇか?まあそんな事ぁどうでもいいがなぁ、シンジィ!」


「何か前に見た半蔵と違うような気がするけぇ、ワシの心はBIGじゃけぇ気にしませんぜアニキィ!」


気にすべきことを片っ端から気にしない。

ユウジとシンジだからこそ成せる芸当である。


「そう簡単に騙されないかと思いましたが…わりと簡単でしたね。」


清十郎が二人には聞こえない小声で松乃信に囁き、手に持っていた牢の鍵をユウジに渡した。


「半蔵さんは最近気が立っているので、地下牢で気を鎮めているんですよ。あなた達が半蔵さんを倒せるなんて思っていないから、案内させていただきました。」


いかにも棒読みで嘘くさい説明だが、いきり立っている二人にそんな理屈はどうでもいい。

目をギラつかせて息を荒げている。

ハァハァ言い過ぎて、清十郎の声はほぼ聞こえていなさそうだ。


「ワイに半蔵が倒せねぇやと?頭悪すぎだぜボウズゥ!」


「アニキにかかりゃ半蔵なんぞただの赤ちゃんじゃけぇのぉ!」


爆笑するユウジに、それをおだてるシンジ。

この久々のコンビネーションが炸裂する中、牢屋の中の男――猪助が口を開いた。


「テメェはあの時の小僧…。」


小さく呟いたかと思うと目を見開き、一気に鉄格子まで距離を詰める。

凄まじい衝突音と叫びが地下牢に響き渡った。


「こんなトコに…閉じ込めやがってぇぇぇ!殺しができない、殺しができないじゃないかぁ!!」


通常の人間なら腰を抜かすような台詞&行動だが、あいにくこの二人は普通じゃなかった。

猪助が半蔵であると信じ込み、「気が立っている」という説明を自分たちに都合よく解釈している。


「おうおう、弱ぇ犬コロほどギャンギャン鳴きわめくわい!!」


「フヘへ…アニキィ、ワシにやらせてくだせぇ!もう辛抱たまらん!!」


「待っとれぃ!ワイがクチャクチャにした後に遊んだらええ!!」


狂犬とキチガイ二人。

どうやらユウジだけが牢で猪助とりあう予定のようだ。

そんな光景を見ながら、清十郎は冷静に地下牢の鍵をユウジに手渡した。


「中に入ったらすぐ鍵を渡してくださいね?半蔵さんが逃げちゃいますから。」


違和感しかない台詞だが、もちろんユウジさんは気にしない。

そのまま、余裕たっぷりにユウジが牢の鍵を開ける。

目の前の男が、偽物でありながら本物よりよっぽど手がつけられない「狂犬」だとも知らずに…。


「はぶぁ!」


牢屋に入った瞬間、ユウジの頬に猪助の拳がめり込んだ。

もし猪助が武器を持っていたなら、ユウジの首はこの瞬間に飛んでいただろう。


「アニキィ!」


牢の中で倒れるユウジを見て、シンジが悲鳴を上げる。

猪助は倒れたユウジを見下し、凶悪に顔を歪ませた。


「殺す殺す殺すぅ!!久々に殺してぇぇぇぇ!!」


清十郎に狙いを定めていたはずだが、狂犬は目の前の獲物に反応する。

そんな狂犬の足元で白目を剥いているユウジ。

まさに絶望的状況であった。


◆◆◆


「立てぃ!立つんじゃユウジィェァ!!」


真っ暗な意識の中に、聞き覚えのある懐かしい声が響いた。

ユウジがゆっくり目を開けると、そこには大きな滝、そして亡き師匠の姿があった。


「し、師匠…?」


「呆けた顔をしとらんで、ワシの話を聞けぃ!」


仙人が持ってそうな先の丸まった杖をビシッとユウジに向ける師匠。

見た目も相まって堂に入っている。


「簡単に敵を殺るにはどうしたらいいか分かるか?」


いつもは「自分は宇宙人だ」などと意味不明なことしか言わない師匠が、やけにまともなことを言い始めた。

そもそもなぜコイツが師匠なのかは永遠の謎だ。


「ワイが強くなるしかねぇんじゃ?」


直後、ユウジの頭部に激痛が走る。


「この豚がッ!三ヶ月山に篭って山菜採って魚釣って、たまに畑荒らしてただけで何を学んだんじゃ!」


三か月間何をやっていたのか…。

そもそもこの師匠、武士でも浪人でもなく、ただの百姓である。


「師匠、ワイの頭を殴った罪は重いでぇ?」


殺気立つユウジに、師匠は不敵に笑った。


「ホレ、この崖の下を見てみそ?答えはそこにあるぞユウジ!」


意味深に杖で滝の下を指す師匠。

ユウジがワケも分からず身を乗り出して崖下を覗き込んだ瞬間、背中に衝撃が走った。


「そこじゃぁぁぁぁ!」


悲鳴を上げながら岩だらけの川へ落ちていくユウジの耳に、師匠の声が響く。


「不意打ちじゃ!不意打ちこそ最強の戦術じゃぁぁぁ!」


◆◆◆


薄く目を開けると、目の前に猪助の背中が見えた。

猪助はユウジが気絶していると思い込み、鉄格子を掴んで清十郎に吠えている。

鍵はユウジが殴られた衝撃で牢の外に出たのか、清十郎によって改めて閉じられているようだ。


「刀ぁ!刀渡せぇ!コイツを斬る刀をよこせぇぇぇ!!」


(不意打ちこそ最強の戦術…)


師匠の最低な教えがユウジの脳裏に蘇り、彼はニヤリと口元を緩ませた。

そっと腰の刀を抜く。


「アニキィ!目ぇ覚ましてくだせぇぇぇ!!」


シンジが叫んだ瞬間、ユウジは猪助の背後で音もなく起き上がった。


「はいぃぃぃぃぃ!!」


頭の悪い掛け声とともに、ユウジの刀が振り下ろされる。

首を狙ったはずが大幅にズレて背中を斬ったのはユウジらしいが、それでも猪助の背から血が噴き出した。


「ひゃあああああああ!!」


不意打ちを受けた猪助が叫び声を上げ、地面に転がる。


「あ~はっはっはっはっはっはっは!ワイは最強じゃあああ!」


悶える相手を見下して高笑いするユウジ。

まさに外道、まさに悪役である。

清十郎は呆気に取られているが、シンジと松乃信は目を輝かせている。


「流石ユウジさん…。敵を欺き、最低限の力で相手を倒したのねん。」


勝手に美学を感じて感心する松乃信。


「泣け!叫べ!これでワイ等は…無罪放免じゃああああ!」


叫びとともに、ユウジのトドメの刀が振り下ろされた。


そして…。

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