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第八話_感動の再開

「もう時間切れよ半蔵さん…。誰をアナタの身代わりにするのかしらん?」


階段を下りてゆく刺客たちの背中を見送りながら、松乃信はその場を動かない半蔵へと振り返った。

半蔵は口元を歪め、獲物を待つ獣のような不気味な笑みを浮かべていた。


「ハッ、駒ってのは最後まで取っておくもんだな…。清十郎!」


その言葉を受け、松乃信の隣に座っていた清十郎が音もなく立ち上がる。


「僕が、ユウジさんを『案内』しますよ」


清十郎は松乃信へ小さく笑いかけ、下階へ向かうよう促した。

階段を下りてゆく二人の足音が遠のく中、半蔵は横に置かれた愛刀を、ゆっくりと自分の顔の前まで持ち上げた。


「面白ぇ…。奉行の野郎、最高に狂った舞台を用意しやがったぜ。」


誰もいなくなった二階に、半蔵の低い独白が冷たく響き渡った。


◇◇◇


「…どっかで見た風景じゃねぇか、ここ?」


辺りをキョロキョロと見回しながら、ユウジは眉間に深い皺を刻んでいた。

もちろん、自分の足元で白目を剥いてのびている下っ端の存在には一ミリも気づいていない。


「ユウジ!」


その時、階段から聞き覚えのある声が響いた。

振り向くユウジの視界に、小太りの男と、物騒な得物を持った二人組が飛び込んでくる。


「誰だテメェ等?」


ユウジの放った冷徹な(ただ忘れているだけの)第一声に、三人の表情が凍りつく。


「アナタを襲った刺客の顔を忘れたんですか!?」


「ゆ…誘拐の恨みを、忘れたとは言わせないよ!?」


義彦と義吉がほぼ同時に絶叫するが、ユウジはさらに眉をひそめるだけだ。


「知らねぇ。テメェ等の存在自体、ワイの記憶にねぇ。」


刹那、義彦と義吉の瞳がどす黒い殺意に染まった。

義彦の左足からは仕込み刃が飛び出し、義吉の両手には不気味な蝋燭が構えられる。


「これを見ても…まだシラを切るつもりですか!」


今にも爆発しそうな震え声でユウジを睨みつける二人。

だが、ユウジは顔色一つ変えない。


「待ってください、義彦さんに義吉さん」


今にも飛び掛かりそうな勢いの二名に割って入ったのは、階段から下りてきた清十郎だった。


「なんや、前の坊主じゃねぇか。こんなトコで何してんのや?」


ユウジが問いかけた直後、その後ろから姿を現した「異形」に、彼の表情が劇的に変わった。


「ユウジさん、こんにちはん♪」


裏返った嬌声で挨拶し、パチンとウインクを放つ松乃信。


「おまつ!?なんでこんなトコにいんのや?」


首を傾げるユウジに、清十郎が爽やかな笑顔で告げる。


「ここは伊田陀鬼屋ですよ、ユウジさん。」


「アタシ、ユウジさんが心配で様子を見に来たら捕まってしまったのん…。(嘘)」


その言葉を聞いた瞬間、ユウジの表情が一変する。

血管をブチブチと浮き出させ、足元に転がっていたボロボロの刀を鷲掴みにする。


「…そうかい、そうかい。ここが伊田陀鬼屋やったんか…。」


地を這うような低い声で呟き、ユウジは清十郎の襟首を掴み上げた。


「半蔵の首はどこじゃあああああああ!」


抜刀し、咆哮するユウジ。

血走ったその眼光は、完全に一線を越えた狂人のそれだ。


「坊主…ワイは今、最高に『HIGH』じゃけぇのぉ…。吐かんかったら、どうなってもしらんで?」


「安心してくださいユウジさん。半蔵さんの下へ僕が案内しますよ。」


優しくユウジの手を振りほどくと、清十郎が笑顔を向ける。

心配そうに見ていた松乃信もホッと胸を撫でおろしており、殺気に満ちた義吉&義彦もグッとこらえている。


◇◇◇


「あんだ?帰って来ねぇじゃねえか、あの野郎…。」


上で空前の大騒動が起きているなど露知らず、シンジは鼻をほじりながら下っ端の帰りを待っていた。


「そろそろ飯時じゃけぇ。カツ丼か? 今日はカツ丼が食い……」


牢から身を乗り出して叫んだシンジ。だったが、階段を下りてきた「その男」を見た瞬間、言葉を失った。


「アニ…アニ…アニ…!」


震える声。

両目からは、ダムが決壊したように涙が溢れ出す。


「アニキィィィィィィィ!!」


その絶叫は、清十郎のすぐ後ろにいたユウジの鼓膜を震わせた。


「シ、シンジ!?」


「えっ、シンちゃん捕まってたの!?」


驚くユウジと松乃信の前に、牢から顔を突き出して必死に手を振る男が現れる。


「ここじゃぁ!ワシはここにおるけぇ、アニキィ!」


ユウジはその瞳に涙を浮かべ、清十郎を跳ね除けて走り寄った。


「ア、アニキ…信じてやした!ワシゃ、アニキが絶対助けに来てくれるって、信じてたッス!」


泣き崩れるシンジ。

その時、ユウジは何を思ったか、ゆっくりと自分の頬をシンジの方へ向けた。


「シンジ…寂しい思いをさせたのぉ。これは、せめてものお返しや。ワイの頬を、思いっきり殴ってやってくれぃ…。」


酒に溺れ、路上で寝込み、飛脚に撥ねられていた自分を恥じたのか。

ユウジは、兄弟分の信頼に応えられなかった罪滅ぼしとして、その「鉄拳」を自ら求めたのだ。


「ア、アニキ…。」


「殴るんや!殴ってくれ、シンジェァ!」


「…分かりやしたッ!受け取ってくだせぇ、アニキ!」


シンジは決意を込め、その右拳を限界まで引き絞った。


そして…。

物語初のシンジからユウジへの「愛の鉄拳」がクリーンヒットした。

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