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第五話_御奉行の計画

「しかし…まさか、そんな計画が裏で進んでいようとは。」


義彦が、苦虫を噛み潰したような顔で低く呟いた。

その横で兄の義吉もまた、いつもの軽薄な笑みを消して深刻な表情で座っている。


「これは極秘事項だ。今頃、私の友人が伊田陀鬼屋へ赴き、半蔵殿にも同じ話を伝えているはずだ。」


二人の正面に座り、静かに、しかし抗いようのない威圧感をもって告げる男。

それは紛れもなく江戸の法を司る最高権力者、御奉行その人であった。

決して広いとは言えない密室で、三人の視線が交錯する。


「こんな面白い話…あの半蔵様が乗らないはずないね。」


俯いていた義吉が、確信に満ちた声で漏らした。

それに続くように義彦が御奉行の双眸を真っ向から見据える。


「一つ疑問があるのですが…聞いても?」


御奉行が小さく頷くのを確認し、義彦は言葉を継いだ。


「貴方が、あの『ユウジ』という男を我ら伊田陀鬼屋へ差し向けた真意は何でしょうか?」


御奉行は視線をわずかに外し、口角を微かに上げた。

その微笑には、言葉以上の含みがある。


「お前たちが今、なぜ拷問も受けず五体満足でここにいるのかを考えれば分かるだろう?」


その一言に、義彦と義吉の目が一瞬だけ大きく見開かれた。


「…なるほど。すべては、御奉行様の思惑通りというわけだね。」


喉を鳴らすように呟いたのは義吉だ。


「半蔵様にこの話を信用させるには、伊田陀鬼屋の幹部であるボクちゃんたちの『生身の進言』が不可欠だった。そのために、わざとユウジを使ってボクちゃんたちをここに追い込んだ…。」


「いくら魅力的な話でも、半蔵は馬鹿ではない。だからこそ、側近であるお前たちの言葉が必要だったというわけですか…。」


義彦の問いに、向き直った御奉行の顔から笑みが消えた。

罪人に判決を下す時の、あの冷徹なまでの真剣な眼差しで二人を射抜く。


「その通りだ。お前たちは今、この瞬間をもって釈放する」


義吉が、皮肉な笑みを浮かべて立ち上がる。


「おひょひょ…気に入らないねぇ。何もかもあんたの盤上ばんじょうで転がされていたなんてさ。」


言葉の端々には、隠しきれない殺意が混じっている。

これでも伊田陀鬼屋の看板を背負う刺客、プライドを傷つけられた代償は小さくない。

だが、その肩を義彦の強い手が制した。


「兄さんやめましょう。これは我ら伊田陀鬼屋の利でもある…。今は大人しく、この御方に従うしかないですよ。」


そんな二人を、御奉行は感情の読み取れない瞳で見送った。


「期待しているぞ。」


◇◇◇


「なんかよぉ…さっき上の方が騒がしくなかったか?」


未だに地下牢の主と化しているシンジが、鉄格子の向こうで暇そうに座る下っ端に声をかけた。

下っ端も上の異変には気づいていたようで、不安げに頷く。


「ああ。何かあったのか…?」


「アニキか?ついにアニキが半蔵を血祭りに上げに来なすったんかぁ!?」


シンジの目が期待にキラキラと輝く。

だが、上階の騒ぎは一瞬で収まってしまった。

江戸最強の殺人鬼である半蔵が、そう簡単に討たれるとは考えにくい。


「…ちょっと、オレ見てくるわ。」


好奇心と不安に駆られた下っ端が、地下から駆け上がっていった。

静まり返った地下牢で、シンジは一人勝利の笑みを浮かべる。


「フヘヘ…アニキがついに来おった!ホンマ鳥肌もんじゃあ!」


脳内に描かれるのは、無数の敵をなぎ倒し、颯爽と牢の扉を破壊する「最強のユウジ」の姿。

暗く冷たい地下牢に、シンジの高笑いが虚しく響き渡った。


しかし、その頃シンジが全幅の信頼を寄せるユウジは…。


「痛ぇ!やめっ!そこは踏むんじゃっ!!いやあぁぁぁ!!」


江戸の町民たちに文字通りボコボコに踏まれ、土埃の中で虫の息になっていた。

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