第四話_最高級のカタギにワシはなる!
————拝啓、アニキへ…。
ワシはカタギになる決心をしやした。
不器用な自分なりに、まっとうな人間として生きていく覚悟です。
せやけど、今までただのチンピラだったワシに、まともな求人なんてあるんでしょうか?
ワシは考え、そして閃いたのであります。
…将軍。
将軍になればいいんや。
吉宗公を暗殺して、ワシが次の将軍に「就職」しやす!
そんな無垢な決意を胸に、シンジは江戸城の大手門の前に立っていた。
「フヘヘ、将軍や!ワシが今日から江戸の主、最高級のカタギじゃい!!」
ニヤリと笑い、シンジは門を守る二人の門番をチラリと見やった。
身の丈ほどもある槍を携えた屈強な武士が、微動だにせず立っている。
「夜や…。夜は警備が手薄に違いねぇ!忍び込み放題のボーナスタイムや!!」
シンジは高笑いを上げ、意気揚々とその場を後にした。
夜の「面接」に備えて…。
◇◇◇
カエルの合唱が響き渡り、あれほど青かった空が、今は吸い込まれそうな闇に染まっている。
昼間の賑わいが嘘のように大通りから人影が消え、一歩裏道へ入れば酒場から漏れる喧騒と醤油の焦げた匂いが漂ってくる。
そんな中、シンジは一歩一歩確実な足取りで江戸城へと向かっていた。
頭には漆黒の頭巾。
夜の闇に紛れるつもりなのだろうが、街灯(提灯)に照らされると「あからさまな不審者」である。
「フヘヘ…アニキ、見ててくだせェ!ワシは立派に就職してみせますぜ!!」
シンジの「カタギ」という概念が致命的に間違っていることを指摘し、止めてくれる相棒はここにはいない。
まあ、ユウジがいたとしても「愛の拳」を叩き込んで事態を悪化させるだけだろうが。
(思った通り、ガラ空きだぜェ!)
朝方には二人いた門番が、今は一人しか見当たらない。
シンジの顔に、暗殺成功…もとい、内定を勝ち取ったような笑みがこぼれる。
抜き足差し足忍びの足( のつもり)で門へと近づいていくシンジ。
手には「唐草模様の風呂敷」を握りしめている。
(ウェッヘッヘッヘッヘ!)
わざわざ門番の正面から挑む必要などないのだが、シンジの辞書に「迂回」という文字はない。
門番の方も、遠くからこちらを伺う黒頭巾の存在には気づいているのだが、あまりの挙動不審さに「これは…相手にしてもいい類の人間なのか?」と、見て見ぬふりをして戸惑っているようだ。
「…おい、何してる?」
その時、シンジの肩が背後からガシリと掴まれた。
「こんな時間に黒頭巾なんて被って。お前、盗賊か何かのつもりか?」
見回りから戻ってきたもう一人の門番である。
「チィ!見つかったか!だが、無駄無駄ぁ!!」
門番の手を力任せに振り払うと、シンジは得意そうにニヤリと笑う。
「忍法・木の葉隠れの術!ひゃあ!!」
叫ぶと同時に、シンジはその場でしゃがみ込み、広げた風呂敷を頭から被った。
うずまき模様の風呂敷が、夜の門前でモコモコと動いている。
ちなみに下半身は風呂敷に隠れず「丸出し」である。
「?」
理解の範疇を超えた行動に、門番は槍を構えることすら忘れて顔をしかめた。
「ウヒャヒャヒャ!どうだ見えまい?ワシの姿が消えて、手も足も出せまいぃぃ!!」
風呂敷の中に頭を突っ込み、完全に「外からは見えていない」と思い込んでいるシンジの声が、布越しにこもって響く。
「な、何がしたいんだお前は?」
「うへへへっ!冥途の土産に教えてやるぜ!ワシの目的は将軍暗殺よぉ!この最強の忍術でサクっと侵入したうえで吉宗の首を獲り、ワシが今日から九代目・徳川シンジになるんやぁ!!」
呆れ果て、もはや怒りよりも同情が勝り始めた門番を尻目に、シンジは風呂敷の中で勝ち誇った。
「お前等はそうやってワシが城に忍び込むのを指をくわえて見てるしかできねぇんだよ!忍法・木の葉隠れは最強じゃあ!…お、おい、何しやがる!?」
布越しに感じる、無情な縄の感触。
そして…。
シンジは「透明」のまま門番たちに手際よく縛り上げられ、三度目の御用となった。




