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第六話_死神と怪物

「どうお?ここのお団子、美味しいでしょん?」


団子というか、もはや大福を丸ごと口に放り込みながら松乃信は目の前の青年に妖艶(?)な笑みを向けた。

普通の人間ならその「咀嚼の光景」を見ただけで食欲を失うものだが、清十郎は違った。

彼はいつものように涼やかな微笑を湛え、串団子を一口運ぶ。


「そうですね、本当に美味しいです。」


清十郎が上品に団子を二つ食べる間に、松乃信は大福を三つ消し去るという驚異的なペース。

正直、着飾った松乃信よりも清十郎の方がよほどたおやかな美女に見えてしまう。


「ああ、そうです。この似顔絵の人のことなんですけど。」


よく噛んで団子を飲み込むと、清十郎は懐から例の似顔絵を取り出した。

少し凶悪にデフォルメされているが、紛れもなくユウジの顔だ。


「ユウジさんね!もちろん知ってるわん♪」


大福を二個同時に頬張った状態で明瞭に発音する松乃信。

その顎の筋力はすでに人外の域に達している。


「あなたとユウジさんはどういった関係なんですか?」


あくまで冷静に、清十郎は次の団子を口へ運ぶ。

一番の核心だが、探るような素振りは微塵も見せない。


「ん~、そうねん…。」


松乃信は残りの大福を一気に飲み込んだ。

喉がどうなっているのか、もはや生物学的ミステリーである。


「片想い中ってトコかしらん?キャッ、言っちゃったん!」


頬を赤らめ、乙女のポーズで悶える松乃信。

絶望的なまでのキモさである。

隣の席で聞き耳を立てていた男も、その破壊力に耐えきれず代金も払わずに逃げ出す始末だ。


「ハハ…片想いですか。」


流石の清十郎も今の一撃にはたじろいだ。

女に平気で手を上げる極悪非道な浪人―――という彼のユウジ像が、今猛烈にキモい方向へ音を立てて崩れていく。


「そのユウジさん、女の人に手を上げる卑劣な男だと聞いているんですが?」


カマをかけるように聞いた清十郎だったが、次の瞬間、彼の背筋に凍りつくような寒気が走った。

松乃信から、一瞬だけ研ぎ澄まされた刃のような殺気が放たれたのだ。


「おほ!な~に言ってんのよ子猫ちゃん。」


何事もなかったかのように笑う松乃信。

だが、清十郎はその一瞬を忘れられない。

目の前の怪人を笑顔で見据えながら、清十郎は確かに戦慄していた。


(今の殺気…この男、何者だ…?)


「ユウジさんは本物の漢よん?女に手を上げるなんて間違ってもないわん!」


恋する乙女は猪突猛進。

松乃信の中で、ユウジというクズは限界突破の美化を施されているようだ。


「本物の漢…ですか。」


「そういえば子猫ちゃん、なんでユウジさんのことを調べてるのん?」


顔を近づける松乃信。

並の男なら条件反射で抜刀するか気絶する距離だが、清十郎は笑顔を崩さない。


「深い理由はないですよ。本物の漢、という方に会ってみたいと思っただけです。」


一点の曇りもない爽やかな笑顔。

松乃信も満足げに「おほ!」と笑う。


「間違いなく惚れるわん、子猫ちゃんも♪」


「よかったら、僕をユウジさんに会わせてもらえませんか?」


清十郎は二本頼んでいた団子の最後の一粒を静かに口に運んだ。


◇◇◇


「フヘヘ…刀やぁ!ワイの聖剣が戻ってきたぁ!」


そんな事態を微塵も知らないユウジは、丁度その頃江戸の大通りを歩いていた。

新調してもらった刀をいやらしく撫で回しながら歩く姿は、不審者そのものだ。


「シンジ、今すぐ助け出してやるからな!待っておれい!」


人目も憚らず叫ぶユウジ。

意気込みだけは立派だが、彼が向かっている方向はまたしても伊田陀鬼屋とは全くの無関係な方位であった。


◇◇◇


「とは言うものの、アタシも実はユウジさんが今どこにいるのか分からないのよん」


団子屋を出て、二人は並んで歩き始めた。

爽やかな美青年と、極彩色の女装巨漢。

端から見れば脳がバグるような組み合わせである。


「まあ、近くにいればアタシの恋愛センサーがビバッと反応するんだけどねん。」


キョロキョロと辺りを見回す松乃信。

清十郎はいつも通りの笑顔を絶やさない。


「ユウジさんの知り合いの方が一緒に探してくれるだけで、僕は有難いですよ。」


「良い子ねん、子猫ちゃんは♪」


清十郎が「伊田陀鬼屋四強」の一人だとは夢にも思わない松乃信は、楽しそうに彼の頭を撫でた。


「あの、そろそろ子猫ちゃんはやめてくれませんか?僕の名前は清十郎といいます。朽木 清十郎です。」


―――朽木 清十郎。

細身の体から放たれる神速の居合は、四強の中でも最強と謳われる。

そんな怪物の頭を、松乃信は「良い子良い子」と撫で回す。

この事実を知る者がいれば、泡を吹いて倒れる光景だろう。


「分かったわん、清ちゃんでいいわねん?」


「はい、構いませんよ。」


撫でられながら微笑む清十郎。

通行人の目には、仲睦まじい(?)親子、あるいは姉妹に見えているかもしれない。

親の方が明らかにバケモノであることを除けば。


「アタシは『おまつ』でいいわん♪」


「分かりました、おまつさんですね。」


死神と怪物、なぜかやたらと意気投合していた。


◇◇◇


「ここはどこじゃあああああ!!」


その頃、ユウジは絶望の淵に立たされていた。

なぜか彼は、いつの間にか鬱蒼とした森の中にいた。

江戸の市街地からどう歩けば深山幽谷に迷い込めるのかは謎だが、とにかくユウジは叫んでいた。


「なんで伊田陀鬼屋が森になってるんじゃあああ!」


もはや救いようのない馬鹿である。


そして…。

ユウジはさらに森の奥深く―――未踏の領域へと踏み込んでいくのだった。

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