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第五話_子猫ちゃんとの遭遇

「あばばばば!」


ユウジはゴミ袋のように投げ飛ばされ、奉行所の地面に勢い良くめり込んだ。


「ったく…なんでいきなり御奉行の首を取りに来るんだよ。」


突き飛ばした門番は深く溜息を吐き、奥に座る御奉行へ同情の目を向けた。

ユウジは今の衝撃で白目を剥き、放心状態である。


「『ワイの刀を盗んだだろう、ペタペタにすっぞ』と叫びながら攻めて来たので、とりあえず捕まえました。」


報告する門番の顔は、あまりの情けなさに赤らんでいる。

御奉行に至っては、眉をひそめたまま固まっていた。

流石に意味が分からなすぎる。


「…ユウジの言い分を聞いてやってくれ。」


門番はもう一度溜息を吐き、転がるユウジの腹を棒でツンツンと突いた。


「はうっ!なんやぁ!何なんやぁぁ!!!」


意識を取り戻したユウジだが、開口一番それである。

語彙力が完全に崩壊している。


「『なんや』じゃねぇよユウジ。お前、正気か? なんで奉行所に殴り込みなんてかけたんだ。」


門番が呆れ果てて問うと、ユウジは血管をブチ切れさせた顔を跳ね上げた。


「ワイの刀がないんやぁ!奉行の野郎が、ワイが寝とる隙に盗んだに違いねぇんやぁぁぁぁ!!」


「…と言っておりますが、御奉行?」


やれやれという表情の門番。

御奉行の方は、それ以上にやれやれであった。

そもそも、前に刀を(質屋から出して)渡してやったのは自分なのだ。

恩を仇で、しかも言いがかりで返された御奉行は、脳の血管が一本切れるのを感じた。


「分かった…分かったから静かにしろ。すぐに『新しいの』を渡すから待ってろ。」


真面目に話し合っても人生の時間を無駄にするだけだと判断した御奉行は、疲弊しきった声で答えた。

瞬間、ユウジの表情が花の蕾がほころぶように緩む。


「物分かりがいいじゃねぇか!アッハッハッハッハ!」


もはや救いようのない、駄目人間であった。


◇◇◇


「今度はなくしたり、質に入れたりするんじゃないぞ?」


新しい刀を渡し、御奉行が釘を刺す。

だが、受け取ったユウジはその言葉など一ミリも聞いていない。

ニヤニヤしながら、新品の刀身を愛おしそうに撫で回している。


「フヘヘヘ…刀やぁ。ワイの聖剣やぁ…!」


怒鳴る気力さえ失い、御奉行は諦めの境地に達した。


「…それよりも、半蔵の件はどうなっているんだ?」


一応、形式上の質問を投げる。


「任せておけい!今から殺しに行くトコロよ!返り血で江戸川を真っ赤に染めてやる!!」


刀を眺めてニヤつくユウジ。

御奉行は苦笑した。

聞くだけ無駄だったようだ。


「そうか…まあ、せいぜい頑張れ。ああそれと、最近、伊田陀鬼屋の刺客らしき連中が次々と捕まっているんだが覚えはないか?」


『左足の義彦』と『蝋人形の義吉』のことだ。


義彦には心当たりがあるが、義吉については掠りもしていないユウジ。


「全部ワイがやった。」


一秒の躊躇もなく、ユウジは特大のハッタリをかました。


◇◇◇


「意外と見つからないものですね…。」


その頃、町へ繰り出した清十郎は似顔絵を頼りにユウジを探していた。

半日以上歩き回っているが、全く足取りが掴めない。


「誰かに聞いた方がいいのかな。っ!?」


呟きかけた瞬間、清十郎の背筋に冷たい戦慄が走った。

彼は咄嗟に後ろを振り返る。

いつも柔和な笑顔を浮かべる清十郎が、驚愕に目を見開いた。


「あんら、な~に怯えてるのよ子猫ちゃん?」


そこに立っていたのは、本田 松乃信であった。

白粉をブチ撒けたような顔でウインクする怪人。

清十郎はその異様な外見にも驚いたが、それ以上に「この距離まで気配を全く察知できなかった」事実に冷や汗を流した。


(気付けなかった…この距離まで…?)


「な~にビビってんのよん、子猫ちゃん♪それに、その似顔絵…ユウジさんじゃないん?」


「…子猫ちゃん、ですか。」


苦笑いを浮かべ、清十郎は無理やり表情を元に戻した。


「知っているんですか? この人を。」


差し出した似顔絵に、松乃信は乙女のような仕草で頷く。


「よかった。実は僕、この人を探しているんですが…。」


笑顔で言う清十郎。

対する松乃信の顔が、艶めかしく歪んだ。


「おほ!いいわん、教えてあげる♪でもその前に…。」


松乃信は可愛らしく団子屋を指差した。


そして…………。

殺し屋の少年と、江戸の怪人は、仲良く団子屋へと消えていった。

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