第二話_ユウジの伝説(夏)
———五年前。
「シンジィィェァァァ!!!!!」
夏の猛暑の中、着物の前をはだけた、だらしない格好でユウジが呻いた。
「なんスか~アニキィィ…。」
真昼の炎天下。
なぜか二人は日陰にも入らず、太陽の真下で仰向けに寝転んでいた。
「ホンマにこれ、ビタミンD取れるんかいのぉ~?」
「間違いねぇッスわ、雑誌に書いてあったッス!」
どうやら「日光浴でビタミンDが生成される」という知識をどこかで仕入れ、実行しているらしい。
「ビタミンDって腹膨れるんかいのぉ~?」
「間違いねぇッス!レモンとかと同じ感じス! 膨れるに違ぇねぇッス!!」
完全に脳が足りていない。
あまりの空腹に耐えかね、ビタミンDを食べて(?)腹を満たそうという、人体実験に近い暴挙に出ていたのだ。
水も飲まず、カンカン照りの下で大量の汗を流す二人。
腹を膨らませるどころか、命の火が消えかかっているのは間違いなかった。
「そろそろ水が飲みとぉなってきたのぉシンジ!!」
「ヘイッ!ワシがアニキの分まで飲んできやすッ!!アニキはそこでドシっと構えとってくだせぇ!!」
「おぅ、くるしゅうない。」
シンジは立ち上がり、フラフラと川の方へ向かっていく。
空腹限界の状態で、水も飲まずに日光に当たり続けていたのだから無理もない。
熱中症一歩手前の状態だ。
◇◇◇
「脳がダリぃ〜。」
虚な目でそんなことを呟きながら、シンジはやっとの思いで川へ辿り着いた。
そのまま倒れ込むように川の端に座ると、日陰の涼しさに幸せを感じながら、冷たい水を顔に浴びる。
「えぇわ~、川えぇわ~!」
喉を潤すシンジ。
完全に息を吹き返したシンジだが、ハッとして叫んだ。
「アニキの分も飲んでかねぇと!!」
すでにお腹タプタプの状態だが、喉を渇かして待っているユウジのためにと、シンジはさらに水を啜る。
シンジがどれだけ水を飲もうと、ユウジの喉が潤うはずはない。
だがそんなことは彼の頭にも、もちろんユウジの頭にもない。
そこにあるのはアニキへの忠義と、アニキとしての威厳だけだ。
「うぷっ!待っててくだせぇアニキ!」
限界まで水を飲んだシンジが、勢いよく川から離れようとする。
だが、それが良くなかった。
濡れた川の石は滑りやすい。
熱中症一歩手前で弱った体に、傾いた体勢を立て直す力はなかった。
受け身も取れず岩に頭を強打、そのまま意識を失ってしまった。
脳も行動も救いようのない男である。
◇◇◇
陽が傾き、空が茜色に染まる頃、シンジはようやく目を覚ます。
「いてぇ、脳がいてぇよぉ…。」
這うように川を後にし、シンジはユウジの元へ向かう。
かなりの時間が経過しているようだが、ユウジはまだ同じ場所にいるようだ。
満面の笑みを浮かべ、ようやく「日向ぼっこ会場」に到着するシンジ。
「アニキ!お待たせしやしたぁ!ちょっち足を滑ら…、」
ユウジの顔を覗き込んだ彼は絶句する。
「アニキィィィィィィィ!!」
真夏の一日中、水分補給もせず「ビタミンD」だけで腹を満たそうとした漢、ユウジは…。
見事なまでに、カラッカラに干乾びていた。




