表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/57

第十一話_誘惑殺の凛(1)

「いったぁ~…。」


腰を押さえて倒れたのは、紫と白の着物を鮮やかに着こなした美女。

上を見上げた彼女の視界には誰もいない。

不思議に思って倒れた自分と同じ高さまで視線を下げると、そこには虫の息になっている大男がいた。


「…え?」


予想外のことで一瞬戸惑った女性だったが、相手が自分よりもダメージを負ってしまったことを理解して我にかえる。

着物に着いた砂をサッと払うと、肩で息をしながら起き上がれていない男に近寄る。


「あの…大丈夫ですか?」


覗き込むと、男の血走った目が勢いよく開かれた。


「このクソカスがぁ!前見て歩かんかぃ!!」


唾を飛ばして逆上する男。


「なっ、何よ!アンタだって前見てなかったじゃない!」


被害者の女性も負けてはいない。

十七、八歳ほどの、キリッとした大人の美しさを漂わせた娘だ。


「あんだとテメェ?ペタペタにされっぞ!?」


「ぺ、ペタペタ?意味分かんないわよ!」


ユウジがのそのそとは立ち上がり、二人は大通りの通行人が物珍しそうに見守る中で睨み合った。


「こっちは着物だって汚れちゃったのよ?お気に入りだったのに、どうしてくれるのよ!?」


ユウジを睨み付ける女性。

…だが、そこで彼女の声が止まった。


「って…アナタ!?」


(ユウジ…!?)


似顔絵を思い出す女性――伊田陀鬼屋の途崎凛。


「なんや?ワイの顔に何かついとるんかい?!」


驚きで固まった凛に、ユウジがさらにキツイ睨みで近づいて行く。

瞬間、凛は咄嗟に両手の裾を上げて顔を隠した。


「あはっ、あはは!ごめんなさい!私が悪かったわ!」


袖に隠れたまま、いきなり態度を豹変させる凛。

あからさまに怪しいが、ユウジさんが気にするはずもない。

謝られて気分を良くしたのか、勝ち誇った笑みを浮かべた。


「ほぅ…、意外と物分かりがええようやな?本来なら慰謝料を請求するところやが、今回は許してやってもええで?」


偉そうに笑うユウジ。

その豹変ぶりも大概である。

言い返したい所だが、これ以上事を荒立てたくない凛が黙っていると、ユウジがさらに続ける。


「ホレ、死ぬほど優しいユウジさんに『ありがとうございます』はどうしたんや?ん?」


あまりの理不尽さに、顔を隠した凛が引き攣った笑い声を上げる。


「はは…ははは…。」


「ん?なんや恥ずかしいんか?『ユウジさん許して下さってありがとうございます』じゃねぇのか?」


見下した笑みのユウジさん。

常人ならプッツンきている所だが、凛は必死で耐えた。


「あ、ありが…とうございました…。」


怒りで震える声を絞り出す凛。


「くるしゅうないっ!くるしゅうない!ワイはのぉ、びっっくりするくらい心が広いからのぉ!!」


ガハハハと大爆笑するユウジの横で、凛の怒りは沸点に達していた。


「これに懲りたら、もう悪さすんじゃねぇぞ女? あ~はっはっはっはっは!」


ユウジは凛の頭をポンと叩き、鼻高々と去っていった。


「…。」


ユウジが去っても凛はしばらく動かなかった、いやあまりの怒りに動けなかったのだ。

袖の下で肩を小刻みに震わせ、ようやく顔を上げた時には、般若のような笑顔を浮かべている。


「ユウジ…殺してやるわ…!」


懐の似顔絵を強引に破り捨て、憎しみを込めて呟く。


◇◇◇


「さて…どうやってユウジに近づこうかしら…。」


着物を黄色と白の物に着替え、凛はユウジの後をつけていた。

ユウジは相変わらず子供を見つけては逃げられ、悔しがっている。


「次に見つけたガキは、後ろから忍び寄ってぶっ殺してやんよぉぉ!!!」


物騒な独り言を吐くユウジ。

凛には彼が何をしたいのかさっぱりだが、とりあえず行動に出た。


「スタンダードにいってみますか♪」


河原の近くで先回りした凛が、ユウジの目の前で鮮やかに転んでみせる。


「キャッ!」


「!?」


足は止めたが、心配の色は微塵もない。


「あっ、あの!! 足を捻っちゃったみたいで……」


瞳を潤ませる凛。

この美貌でそんな目で見つめられれば、並の男ならイチコロなのだが…。


「チッ!何もないところで転げるとは。これだから学のない貧民は好かん。退けぃ!ユウジ様の通り道やっ!!」


こともあろうか、ユウジはそんな凛を足蹴にすると、何事もなかったように通り過ぎていった。

助ける気ゼロ、というか人としての常識を疑う行為。


「な、なんなのアイツ…。」


ユウジの予想外の行動に怒りを通り越して驚いている。

事前情報では奉行所から派遣され、義吉を実力で退けたうでに、義彦を知略で罠に嵌めた凄腕…。

これまでの行動を見るからにその片鱗は皆無である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ