第九話_忽然と消えたハッピーセット
————拝啓、アニキへ…。
今、自分は伊田陀鬼屋の地下室で絶賛拘束中ッス!
でも心配しないでください。
ここ、たまに飯が出るんスけど、アニキと道端の草を分け合って食ってた頃より遥かに栄養価が高い生活を送れてるッス…。
正直、ちょっと帰りたくない気分満載ッス。
でも、やっぱり暇なんスよ!
牢屋にいた時と変わんねェッス!
あと、風の噂でアニキの活躍を聞きやした。
『蝋人形の義吉』を瞬殺したとか…。
マジで、正直渋すぎッス!!アニキは江戸中の渋みを一人で背負ってると言っても過言じゃあねぇッス!!
でも…でもねアニキ。
何でいつまで経ってもワシを助けに来てくれないんスかぁぁぁ!?
◇◇◇
シンジがそんなポエミーな手紙を脳内再生しているころ…。
「ボクちゃんじゃない!ボクちゃんが誘拐したんじゃないんだぁぁぁ!!」
両肩を屈強な岡引に組み伏せられ、義吉は天を仰いで絶叫していた。
だが、十数人の泣き叫ぶ子供と、証拠の蝋燭を手にしていた彼に弁明の余地など一ミリも残されていなかった。
「ユウジィ!お前、ボクちゃんをハメたなぁ!呪ってやる、末代まで呪ってやるぞぉぉ!!」
神社の階段を引きずられながら、ユウジが消えていった森へ向かって呪詛を吐く義吉。
だが、その声も虚しく夕闇に吸い込まれていく。
「往生際が悪いぞ、変態野郎!」
岡引の非情な打撃が義吉の首筋に決まり、彼は白目を剥いて連行されていった。
「…あんだよ、うるせェな。せっかくの『運の子』タイム(排便)が台無しじゃねぇか。」
不機嫌極まりない顔で茂みから這い出してきたユウジ。
小屋に戻ろうとするが、先ほどまで聞こえていた喧騒が嘘のように静まり返っている。
「あれ?」
嫌な予感が、ユウジの脳を駆け巡った。
彼は小屋の扉を蹴破るようにして飛び込む。
「…い、いねぇ!全員、誰一人として残ってねぇ!!」
小屋はもぬけの殻だった。
十数人の「身代金候補」たちは、跡形もなく消え去っている。
「ワ、ワイの金蔓が…。江戸一番の富豪になる夢の詰め合わせセットが、ワイのハッピーセットが全員消えよったぁぁぁ!!」
ユウジはその場に膝をつき、己の不運に慟哭した。
その目には、悔しさのあまり薄っすらと涙さえ浮かんでいる。
「…あの変態野郎。ワイが信頼して見張りを任せたのに、全部持ち逃げしやがったな!」
義吉が捕まったことなど知る由もないユウジの中で、義吉は「裏切り者の泥棒」にランクアップしていた。
「もう我慢なんねぇ!クチャクチャや!あの野郎を八つ裂きにして、クチャクチャの挽き肉にしてから、お好み焼きの具材にしてやんよぉぉぉ!!」
誰もいない神社の小屋に、理不尽極まりない漢の咆哮がこだました。




