第六話_高度な計略
「ぐえっ!」
みぞおちに深々と拳を叩き込まれ、シンジの体がくの字に折れ曲がった。
太い柱に縛り付けられ、伊田陀鬼屋の物騒な面々に囲まれている絶体絶命の状況。
「また何しにきやがった!?」
口の端から鮮血を垂らしながらも、シンジはニヤリと不敵に(そして最高にキモく)笑った。
「もち、半蔵の首をGETしに決まってんじゃねぇか。」
「死に損ないが、まだ抜かすかッ!」
「フヘヘ…弱い犬ほどよく吠えるとはこのことよ!許して欲しかったら前の十手みたく、ワシらになんか貢いだ方がいいんちゃいますのん?」
この状況で尚も強気、というよりはもはや会話が成立していない。
「何ほざいてんだテメェ!」
さらに強烈な一撃が腹にめり込むが、シンジは「あふぅん」と奇妙な声を漏らすだけで、なぜかピンピンしている。
その異常な打たれ強さに、拷問していた男たちが引き気味になった時、奥の階段から石田が降りてきた。
「十手は…どこへやったんです?」
石田の柔らかな、しかし殺気を孕んだ問いに、シンジは自慢げに答えた。
「売ったんスけど、はした金でしたわ。あんなんじゃあワシらも手打ちにすることはできねぇよ半蔵の旦那ぁ。」
シンジの告白に、石田の顔が引き攣る。
自分のことを半蔵と間違えてそうなのは、この際どうでもいい。
「う、売った…? あの宣戦布告の十手を売却したと!?」
「YES!」
シンジは眩しい笑顔で続ける。
「もっかい言いますけど、あんなもん、たいした金になんねぇからダメよ。次はもっと金になるもん貢いでほしいんッスわ。旦那とワシの仲なんで、十手の件は水に流しますぜ。」
石田の時間が再び停止した。
怒りを通り越し、宇宙の深淵を覗き込むような震えた声で彼は呟いた。
「ちなみに、アナタと一緒にいたもう一人は今どこに?」
◇◇◇
「二人のうち、片割れがあの十手を売ったと吐きました。」
襖越しに、石田は半蔵へと報告していた。
「…何?」
奥から響く、地を這うような半蔵の声。
「ハイ。ですが…これはヤツらの高度な情報戦かと思われます。」
石田は、あまりのバカバカしい現実に脳が耐えきれず勝手に「高度な計略」へと変換し始めていた。
「十手一本では証拠不十分。我々を揺さぶり、更なる失態を引き出すため1人を囮として送り込んできたと思われます。」
「…なるほど。で?」
「もう片方の男を捕らえ、拷問にかけて全てを吐かせます。潜伏している『アニキ』こそが、奉行所の特命を受けた本物の手練れに違いありません。」
奥から、小さな、しかし狂気に満ちた笑い声が漏れる。
「いいだろう。少しは楽しいゲームになりそうじゃねぇか…。」
「すでに、刺客『左足の義彦』を向かわせています。」




