第二話_江戸一番の策士
「ゲハァァ!」
乱暴に突き飛ばされ、ユウジとシンジは江戸の土を盛大に巻き上げた。
「ったく、紛らわしい事してんじゃねぇよ馬鹿野郎!もし刀が本物だったら、今頃おめぇら打ち首だぞ!?」
奉行所の門番が忌々しげに吐き捨て、没収していた二本の刀を投げつける。
落ちた刀は、日本刀らしからぬ「カラン」という軽薄な音を立てて転がった。
「しっかし、よくできた竹光だな。遠目にゃ業物に見えねぇこともねぇ。…まあ、これに懲りたら二度と『国盗り』なんて物騒な寝言は抜かすんじゃねぇぞ?」
門番は、地面に這いつくばる情けない二人を鼻で笑うと、背筋を伸ばして定位置に戻って行った。
◇◇◇
「ア~ハッハッハッハァ!シンジィ!おんし、よぅやったのぉ!!」
奉行所から少し離れるなり、ユウジは腹を抱えて爆笑する。
その後ろで、シンジも勝ち誇ったようにニヤついている。
「へへっ、こんな事になると思って、本物の刀を質に入れといて正解でしたねぇアニキ♪」
「苦しゅうない、苦しゅうない!策士じゃ、おんしはまっこと策士じゃあ!ア~ハッハッハァ!!」
ひとしきり笑い転げた後、ふと正気に戻ったユウジが問いかける。
「ところでシンジよぉ。質に入れちまった刀、どうすりゃ返ってくるんだ?」
ぴたり、と動きが止まる二人。
江戸の乾いた風が、シンジの坊主頭を虚しく通り抜ける。
「い、嫌だなアニキ!! 金を払って買い戻せばいいだけっスよ!」
「あっ、なぁ〜んだ簡単じゃない♪じゃあ、さっさと行ってこいシンジィ!」
ユウジは「任せたぞ」と言わんばかりに、懐からずっしりと重い財布を取り出し、シンジへ放り投げた。
「ヘイ!ささっと買い戻してきやすぜ、アニキィ!」
シンジは財布を大事そうに抱え、質屋へ向かって砂埃を上げて駆け出していく。
◇◇◇
十分後。
「ア、アニキィィ!!」
道の真ん中で仁王立ちのまま昼寝をしていたユウジの耳に、情けないシンジの叫びが届いた。
振り返るユウジ。
だが、シンジの両手には刀どころか大根一本握られていない。
「刀はどうしたんじゃ、シンジィ!まさかその金で女遊びでもしてきたんじゃあねぇだろうなぁ!?」
般若のような形相で睨みつけるユウジに、シンジは必死で首を振った。
「違うんスよアニキ。質屋の野郎、これじゃあ一振も返さねぇって抜かしやがるんですわ…。」
シンジは、ユウジに渡された財布をひっくり返した。
「この量と質でもか!?」
ジャラジャラと地面に転がり出たのは、通貨ではなかった。
河原に落ちているような平べったい石に、墨で『一両』と書かれた代物である。
なかなかに達筆だが、裏を返せばただの川原の石だ。
「ヘイ。あの野郎、これを見た途端に怒鳴り散らかしやがって…。」
「なんじゃとぉ!?」
ユウジは驚愕のあまり、その場に膝をついた。
「ワイ等が丹精こめて作った『偽金』がバレたっつ〜ことか!?」
石を一つ拾い上げ、肩を震わせるユウジ。
その目には、大粒の涙が溜まっている。
「あの辛い日々はなんだったんや!一日中、冷たい河原で『小判に似た形の石』を探し歩いたワシらの苦労は!爪が割れるまで洗って、一枚一枚心を込めて『一両』って書いたあの夜の努力は…、なんだったんやぁぁぁ!!」
「アニキィ!自分、悔しいッス!ワシ等みたいな『下級武士』がどんなに頑張って内職しても報われない、この腐った世界が憎いッス!!」
白昼堂々、大の大人が二人、道の真ん中で石ころを囲んで号泣している。
通り過ぎる人々は、「関わったら呪われる」と言わんばかりの速度で波が引くように避けていった。
「天誅じゃぁ!その質屋ぶっ殺して、刀と金をガッポリ強奪いてやるわい!!」
血走った目で叫ぶユウジ。
彼は「偽金」が入った財布を地面に叩きつけ、再び腰の竹光を抜いた。
「どこまでもアニキについて行くッス!」
シンジも便乗して竹光を抜き、二人して虚空を切り裂く。
天下の往来で、狂気に満ちた目で獲物を振り回し、物騒な言葉を連呼するイカれた二人組。
そして…。
二人はまたしてもその場で岡引たちに捕縛された。




