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第十五話_狩りの幕開け

「フヘヘ…、アニキ!なんだか一気に面白くなってきやがったじゃないですかい?」


江戸の大通りを並んで歩きながら、シンジは隣のユウジにちぎれんばかりに尻尾を振る子犬のような勢いで話し掛けた。


「奉行の野郎も…ようやくワイ等の『本物の器』ってヤツに気付きやがったみてェだな、シンジィ!」


ユウジがニヤリと不敵に笑い、腰の刀の柄に手をかけた。

ゆっくりと引き抜くと、金属と鞘が擦れる鋭い音が鳴り、白日の下にギラリと光る本物の「真剣」が現れた。


「久し振りの本物ガチじゃぁ…。」


竹光ではない、命を奪うための鉄の輝き。

その光を瞳の奥に受け止めながら、シンジは恍惚とした表情で呟く。


「シンジィェァ!ワイはやるで?時代をひっくり返したるでェ!!」


「ワシも地獄までお供しますぜ、アニキィ!」


白昼堂々、刀を空高く掲げて「ギャハハハ!」と高笑いする二人。

当然、その数分後に通りかかった岡引おかっぴきに「不審者&危険人物」として御用となり、速攻で縛り上げられるまでが様式美であった。


◇◇◇


「え?本当にいいんですか?」


奉行所の前。

困惑する岡引が、門番に問いかけていた。


「ああ、その二人はお上(奉行)からの特命を受けた特別枠だ。縄を解いてやってくれ。」


二人の会話を尻目に、後ろで「公務執行妨害だ!」「ワイを誰だと思ってんだ!」とジタバタ暴れていたユウジとシンジの縄が解かれた。

自由になった瞬間、二人は再び刀を抜き放つ。


「だから言ったじゃねぇか!この野郎、特例のワイ等を捕まえるたぁ、その首たたっ斬ってやんぜェ!!」


ビビる岡引の鼻先に切っ先を突きつける二人だったが、いつもの門番に「おい、調子に乗るな」と諭されて、瞬時に借りてきた猫のように静かになった。


「いいかお前ら。とりあえず釈放にはなったが、身分はまだ『執行猶予付きの重罪人』だ。完全に無罪放免になったわけじゃない。あまり騒ぎを起こすと、今度こそ市中引き回しの刑だからな?」


足早に去っていく岡引を、血走った執念深い目で見送っていた二人だったが、門番の忠告には素直に「ヘイ、分かってますぜ旦那ぁ」とヘコヘコするシンジ。

一方、ユウジは鼻をほじりながら「ワイらが伝説の英雄として無罪放免になるのも時間の問題よ!」と、根拠不明の自信に満ち溢れていた。

そんな時、奉行所の重厚な門が開き、一人の女性(?)が姿を現した。

鮮やかな紅色の衣を纏い、頭には可愛らしいかんざしを刺した…おまつさんだ。


「あんら、シンちゃんにアニキさん。まだいたのん?」


慈愛に満ちた(けれど顔面がうるさい)笑みを浮かべる松乃信に、シンジが感極まった声を上げる。


「おまつさん!恩にきるッス!全米が泣いたッス!!」


薄っすらと涙を浮かべるシンジに対し、松乃信は「おほっ」と微笑む。

もちろん、その笑みは白粉がひび割れるほどキモい。


「まだ安心するのは早いわよん?アタシの顔を立ててくれた大ちゃんのためにも、早く手柄を立てて無罪放免になることを祈ってるわん♪」


ウインク一つでシンジの平衡感覚を狂わせると、松乃信は熱っぽい視線をユウジへと移した。


「アニキさんも…どうかご無事で。アタシ、あなたの帰りを指折り数えて待ってるんだからん。」


潤んだ瞳、ほんのり赤く染まる髭面…いや、頬。

その姿は、戦場へ向かう夫を見送る、けなげな江戸の乙女(強化型)そのものであった。


伊田陀鬼屋いだだきやの半蔵の首…、ワイ等にまかしておけぃ!!」


松乃信の熱視線に応えるように、ユウジは再び刀を抜き放った。

シンジも脊髄反射でそれに続く。


「おい、刀抜くのは自由になったが、町中で振り回すんじゃねぇぞ!?」


心配そうに叫ぶ門番の声を背中で受け流し、二人は夕日に向かって歩き出した。


「アタシ…、アタシ信じて待ってるからぁぁぁ!!」


松乃信の絶叫が、江戸の空に虚しく、けれど熱く響き渡った。


◇◇◇


「…で、本当にあの者たちが『伊田陀鬼屋の半蔵』を仕留められるとお思いで?」


奉行所の一室。

くつろいでいた御奉行のもとへ、一人の役人が懸念を伝えにやってきた。


「さあな。だが、あの二人…。たった一人で奉行所に殴り込みをかけるほどの蛮勇、あるいはただの無鉄砲。だが、あの常識の通じぬ狂気は、江戸を騒がす大悪党・半蔵すらも凌駕するかもしれん。」


御奉行は、真剣な眼差しで茶を啜った。


「半蔵の首を持って帰り、英雄として無罪放免となるか。それとも、半蔵の刃に沈み、人知れず塵となるか…。全ては天の配剤よ。」


江戸を揺るがす最凶の犯罪者・伊田陀鬼屋の半蔵。

対するは、江戸が誇る最弱の凸凹コンビ・ユウジ&シンジ。

誰も予想だにしない、史上最低の「狩り」が幕を開けた。


第一部_完

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