第十三話_アニキの『粋』ザマ
「うわっぷ!」
地下牢から引きずり出されたシンジとユウジは、無慈悲に砂地へと放り投げられた。
そこは、眩しいほどの白い砂が敷き詰められた「お白洲」。
時代劇でお馴染みの、罪人が裁きを受ける運命のステージだ。
「乱暴すんじゃねェよ、この税金泥棒がぁ!」
両手を縛られ、芋虫のようにのたうち回りながらユウジが吠える。
それに呼応するように、隣で砂まみれのシンジも「そうだそうだ!」「パワハラだ!」と野次を飛ばす。
そんな二人を、牢番は「喋る生ゴミ」を見るような冷ややかな目で一瞥し、スッと彼らの横に控えた。
「ほう…、この者たちが例の脱走未遂を?」
前方の一段高いところから、重厚な声が響いた。
砂に顔を埋めている二人からは姿こそ見えないが、その声の「圧」だけで、自分たちの前に江戸の最高権力者が座っていることは容易に想像できた。
「誰だテメェ!今なら特別にワイの三番目の舎弟にしてやっから、この縄解きやがれ!!」
好き勝手抜かすユウジの脇腹に、牢番の容赦ない蹴りが突き刺さった。
「無礼者ッ!御奉行の御前であるぞ!!」
「ギャフン!!」
もちろん防御力皆無、豆腐メンタルのユウジはその一撃で速やかに意識をシャットダウン。
静寂が訪れた。
「ア…アニキィィィ!」
シンジも唯一の道標であるアニキが黙ると、急に心細くなって口を閉ざした。
広間に、不気味なほどの静寂が満ちる。
「御奉行。このような無礼極まる輩、生かしておくだけ米の無駄かと。」
牢番が冷たく言い放つ。
連行中に二人から「ハゲ」「根暗」と散々罵倒された彼の表情は、もはや私怨で鬼のように強張っていた。
「ふむ…確かに。脱走を企てた上にこの不遜な態度。武士の端くれを自称しながら、この志の低さ、もはや救いようのないクズよのぉ…。」
一段高い「桜」の玉座に座る御奉行が、深く溜息をついた。
「ちょ…、ちょっと待ってくだせぇ奉行の旦那ぁ!」
シンジが必死に顔を上げ、砂を吐き出しながら叫んだ。
このままでは打ち首のコース確定だ。
「ワシらはただの、道端に咲くタンポポのように善良な一般庶民ですぜ?そんな罪のないワシらを殺して、お天道様に顔向けできるんですかい!?」
もっともらしい詭弁だが、善良でもなければ罪人(未遂含む)そのものなので、弁論としては一ミリも成立していない。
「殺さないで!殺さないでくだせぇぇぇ!!」
号泣し、地面に頭を擦りつけるシンジ。
そのあまりの情けなさと、必死な「命への執着」に御奉行の心にわずかな慈悲が芽生えた。
「…む。確かに、これまでの騒ぎも実害と言えば門番のストレスが溜まった程度か。命まで奪うのは些か…。」
御奉行の心が揺れた、その瞬間。
ンジの横に転がっていた「恰幅のいい置物」がパチリと目を開けた。
もぞもぞと起き上がり、ユウジは御奉行と視線を衝突させる。
「あんだテメェ…。なんでワイより一段高い、座り心地の良さそうなトコに座っとんじゃぁぁ!」
理由がバカすぎて、御奉行も一瞬フリーズした。
「刀じゃぁ!刀持って来いシンジィェァ!目の前のあの座布団三枚くらい敷いてそうな偉そうな野郎、一刀両断にしてやんぜェ!!」
「やめてくだせぇアニキィ!そんな事言ったら、今度こそワシらの首が飛んじまう!」
「ピヨピヨうるせぇぞシンジァ!ワイは斬るんや!目の前にある『自分より偉そうなヤツ』という名の悪は、斬らずにはおれんのやぁぁ!!」
悪の根源は間違いなくユウジなのだが、彼にとって自分を縛る全ての存在は「悪」なのである。
「ハンパねぇ…この負け確の状況で吐くセリフじゃねぇ!」
シンジの脳内メモリも限界だった。
さっきまで必死に止めていたはずが、ユウジの「権力への暴言」に感動し、今や拳を握ってアニキを絶賛している始末。
「ワシも交ぜてくだせぇ!アニキの生き様、いや、アニキの『粋』様ぁ!!」
「ワイが正義やぁ!奉行ぶっ殺して、ワイが新しい法律になるんやぁぁ!!」
完全にアウトだった。
シンジの涙にわずかに揺らいでいた御奉行の慈悲は、今や完全に消滅し、代わりに「法の番人」としての怒りが燃え上がった。
御奉行は、血管を浮き出させた顔で、周囲の捕り方たちに静かに、しかし冷酷に告げた。
「死刑。」




