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第一話_世直し侍登場!

泰平の世が長く続けば、刀は錆び、武士の背筋も丸くなる。

八代将軍・吉宗公が「もはや真の侍は絶滅した」と嘆いたというのも、あながち嘘ではあるまい。

だが、そんな腑抜けた江戸の空気を切り裂くように、二人の男がやってきた。

岩山のようにどっしりと構える兄貴分のユウジと、その影に隠れて鋭い目を光らせる坊主頭のシンジ。

この二人の足跡が、のちに江戸の八百八町を(悪い意味で)少しだけ騒がせることになる。


◆◆◆


「くせぇ!平和に酔ったクソムシどもの餡子みてぇに甘い匂いがプンプンするぜぇ!」


江戸の盛り場に、坊主頭のシンジの声が響き渡った。


「あいつ、頭の剃り込み、自分でやったのかしら…。」

「見ちゃいけません。」


道行く親子連れが、腫れ物を避けるように距離を置く。

だが、彼らはそんな視線に気づかない。


「そう言ってやるな、シンジ。ワイら義兄弟の前では、将軍であろうと霞んで見えるわっ!」


「最高に渋いッス! 痺れるッス! アニキこそ天下人てんかびとッス!」


シンジは主人の帰宅を喜ぶ駄犬のように、主君…ではなく、アニキの周りをぐるぐると回る。


「…で、江戸はどこじゃい!」


ユウジが野太い声で問いかける。

180センチは優に超えるであろう巨体、岩石のような拳。

風格だけなら、戦国時代の猛将そのものである。


「え、江戸はここッスよ、アニキ!さっきの茶屋でも言ったじゃねぇですかい。」


その瞬間、シンジの体が木の葉のように舞った。

悲鳴すら上げられず、シンジは口から鼻から鮮血を撒き散らしながら宙を浮く。


「シンジィィェェア!愛じゃい!ワイの溢れる愛の拳じゃい!!」


地面に勢いよく沈没したシンジを見下ろし、ユウジは天を仰いで慟哭した。

その目からは、蛇口をひねったような涙が溢れている。


「ア、アニキ…。アニキのこぶし…最高に効いたッス…。」


シンジは満足げに親指を立て、そのまま力なく目を閉じた。


「シ…シンジィィィィ!!」


ユウジは、自分が打ち抜いたばかりの弟分を、強靭な腕で抱きかかえる。

あまりの力にシンジの肋骨がミシミシと悲鳴を上げた。


「誰じゃい!誰がシンジをこんな目に遭わせたんじゃぁぁぁ!!」


返り血を浴びた鬼のような形相で、ユウジが周囲を睨みつける。

当然、お前がやったというツッコミはない。

誰も関わりたくないからだ。


「ワイは…、ワイ等兄弟は…ただ幸せに暮らしたかっただけなんじゃぁ!金と女と地位と名誉、あとできれば毎日鰻が食えるくらいの小銭、それだけあれば何もいらんかったんじゃぁぁ!!」


男の叫びは、もはや哲学ですらあった。

必死に訴えるその欲望はあまりに純粋で、そしてあまりに自分勝手だった。


「間違ってる!ワイ等みたいな善良な市民がこぉ~んなに苦しんどるってのに、将軍は何やっとんのや!怠慢じゃい!政治の怠慢じゃい!!」


周囲はもはや足早に去るのをやめ、遠巻きに見物し始めている。

「ねえ、あれって一種の芸かしら。」

「不憫なものを見る目で見なさい。」


「国取りじゃぁ!将軍殺して、ワイがこの日本ひのもとを建て直したる!金も女も地位も名誉も、全てワイらのもんや!!」


ユウジは、腰の日本刀をおもむろに引き抜く。

ギラリと刀身が西日に光る。


「世直し侍じゃい!」


「アニキィ!地獄の底までついていきやすぜ!!」


いつの間にか意識を取り戻していたシンジが、鼻血を拭いながら脇差を抜く。

いざ、江戸城へ!

二人の侍(?)が最初の一歩を踏み出した。


その時。


「はい、そこまで。御用だっ!」


六角棒を手にした十数人の岡引たちが、まるでゴミを片付けるような手際で二人を包囲した。

江戸の平和を守る組織力は、彼らの「愛」よりもはるかに強固であった。

…時代劇モノ書いてみたかったんです。

でも実はそんなに歴史に詳しくない筆者は、なんとなくな雰囲気で書くことにしました。

残念時代劇ですが、暇つぶしに読んでいただけると、とっても嬉しくて狂喜乱舞します。

現在連載中の「下等生物ウゴクンジャー」以上に「ノリと勢い」しかありませんが、大目に見ていただけると幸いです。

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