表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛を信じない元令嬢は、甘えたい呪われ賢者に選ばれる  作者: antomopapa


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/18

第10話 選ぶという行為



 その日、賢者エドガーは、私を研究室ではなく庭に呼んだ。

 それだけで、少しだけ緊張した。

 研究室は「過去」を語る場所だ。

 庭は――今を生きる場所。

 そんな気がしてしまったから。

     *

 冬に近い風が、木々を揺らす。

 庭の中央で、エドガーは立ち止まった。

「……ここで、いい」

 振り返った彼の表情は、いつもよりはっきりしていた。

 目を逸らさない。

 沈黙で逃げない。

(……覚悟、してる)

 そんな空気だった。

     *

「……君を」

 彼は、ゆっくり言葉を選ぶように口を開いた。

「……屋敷から、離すこともできる」

 胸が、ひくりと鳴った。

「……王に、進言すれば」

「……別の仕事も、身分も」

 つまり。

 ――自由。

 私は、息を呑んだ。

(それを、提示するんだ)

     *

「……触れないなら」

 彼は続ける。

「……関わらない方が、安全だ」

 理屈としては、正しい。

 呪いのことを知ってしまった今なら、なおさら。

 でも。

「……それでも」

 彼は、言葉を切った。

 そして、私を見た。

「……選ぶ」

 その一言が、すべてを変えた。

     *

「……君が、ここにいることを」

 声は低いが、揺れていない。

「……命令じゃない」

「……強制でもない」

 はっきりと。

「……俺の、意思だ」

 初めて聞く、一人称。

(……俺)

 それだけで、胸が詰まる。

     *

 私は、すぐに答えられなかった。

 彼は、待った。

 待つという行為自体が、

 今までのエドガーにはなかったものだ。

「……理由は」

 彼は言った。

「……まだ、言えない」

 正直な告白。

「……でも」

 一拍。

「……失いたくない」

 それは、ほとんど、告白だった。

     *

 私は、視線を落とした。

(……また、選ばれる側になる)

 王子の時と、違うのは。

 この人は、

 私を「守るために」突き放すことも、

 「自分のために」引き留めることも、

 どちらも選べる立場にいるということ。

 そして、今。

 ――引き留める方を、選んだ。

     *

「……ただし」

 エドガーは、続けた。

「……触れない」

「……境界は、守る」

 それは、条件。

 呪いを越えないための、線。

「……それでも」

 彼は、少しだけ言葉を柔らかくした。

「……傍に、いてほしい」

 命令ではない。

 懇願でもない。

 選択の提示。

     *

 私は、深く息を吸った。

「……私も」

 声が、少し震える。

「……選びます」

 彼の目が、わずかに見開かれた。

「……ここに、残ります」

 理由は、まだ言えない。

 でも。

 逃げない、と決めた。

     *

 エドガーは、何も言わなかった。

 ただ、短く頷いた。

 それだけで、十分だった。

     *

 夜。

 私は、自室で一人、手を見つめていた。

 もう、握られることはない。

 でも。

(……選ばれた)

 命令でも、習慣でもなく。

 私は今日、

 触れられなくても、離れずにいられる関係が始まったことを知った。

 そして、エドガーは今日、

 初めて誰かを“守るために選ぶ側”になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ