2 銀狼の略奪
その夜、アルベール率いる精鋭部隊は宿営地に到着した。焚き火の爆ぜる音と、兵士たちの低い談笑。そこへ、隊長が馬の背に「異質な荷」を乗せて帰還したという知らせは瞬く間に陣中を駆け巡った。
「隊長、お戻り……。……っ、それは?」
出迎えた部下たちが息を呑む。馬から降りたアルベールの腕の中には、泥に汚れながらも、貴種特有の凛とした空気を纏ったエレナがいた。彼女はアルベールのマントにに包まれ、周囲の好機と軽蔑が混じった視線を、冷ややかな沈黙ではねのけている。
「……私の私物だ。口を慎め」
アルベールは短く言い捨て、彼女を抱えたまま自身の天幕へと向かおうとする。だが、その行く手を阻む者がいた。軍の規律を重んじる年配の騎士たちだ。
「アルベール隊長、規律をお忘れか?戦地からの帰路、正体不明の者を、それも奴隷を連れ帰るなど、軍紀に触れます。ましてやあなたは次期将軍候補__」
「__軍紀だと?」
アルベールは足を止め、男を睨みつけた。その瞳には、先ほど奴隷商人を黙らせた時と同じ、あるいはそれ以上の昏い炎が宿っている。
「文句があるなら、俺の剣をへし折ってからにしろ」
一触即発の空気が流れる。25歳のアルベールは、その溢れんばかりの才気と野心を隠そうともしない。彼にとって、てに入れたいものを手に入れることは、呼吸をするのと同じくらい当然のことだった。
エレナは、自分をめぐって火花を散らす男たちを、どこか遠い国の出来事のように見つめていた。だが、アルベールの腕の力が、まるで「誰にも渡さない」と主張するように強まったのを彼女は見逃さなかった。
「……野蛮な方。でも、嘘は仰らないのね」
エレナが小さく、皮肉を込めて呟く。アルベールはそれを聞きとがめ、唇の端を吊り上げた。
「黙っていろ。お前を救ったのは慈悲ではない。俺の『所有物』として、相当の役割を果たしてもらうためだ」
「……ええ。存じておりますわ」
媚びるどころか、鋭い言葉を撃ち返してくるエレナ。その不遜さが、アルベールの独占欲をさらに焚きつけた。
「いいか、よく聞け!」
アルベールは周囲の兵士達に向かって、雷鳴のような声をとどろかせた。
「この女は、今日この時から俺のものだ。指一本、視線ひとつでも無礼を働けば、俺に対する反逆とみなす。……たとえこの軍法が許しても、俺の銀狼が貴様らの喉笛を食いちぎると思え!」
兵士たちが戦慄し、道を開ける。
アルベールは満足げに、エレナを抱えたまま天幕の中へと消えた。
しかし事はこれでは収まらない。
数日後、彼は、主君であるゼノス陛下への謁見を控えていた。王国の絶対的な支配者であり、冷徹な知略家として知られるゼノスが、この「狼の気まぐれ」をどう判断するか。
アルベールは、椅子におろしたエレナの顎をクイと持ち上げ、その強い瞳を覗き込んだ。
「三日後、陛下にお目見えする。お前のその『輝き』が陛下を納得させられるだけの価値があるか……試させてもらうぞ」
エレナは不敵に微笑んだ。
「……没落したとはいえ、『社交界の華』と謳われた私です。王お一人の目を眩ませるなど、造作もありませんわ」
二人の間に、王徒を超えた危うい火花が散った。
あれっ?恋愛物?おっかしいな(笑)




