自己紹介
2026/1/8 修正
「っ__!!!!」
腕の痛みを覚えて飛び起きた美夜は、真っ先に己に腕が付いていることを確認した。
「ある……」
バクバクと鳴る心臓は先程まで見ていた夢のせいだろう。
それはまるで誰かの追体験のような感覚だった。
あの息苦しさも、足が縺れる感覚も、喉の奥に感じた血の味も、腕が引きちぎられる痛みも、その時に感じた感情も、全てがリアルに感じられた。
けれどきっと、あの時化け物を退けることが出来なければ美夜は夢の通りの末路を追うことになったのだろう。
「あぁ、嫌だ…」
思わず漏れた言葉と共に下げた視線の先で、美夜は自分が布団を掴んでいることに気付いた。
真っ白でシンプルな布団は、美夜の部屋にあるものとは全然違う。
見上げてみれば、真っ白な天井に蛍光灯がむき出しで光っている。薄いピンク色のカーテンで仕切られている為周りは見えないが、どことなく見覚えはある気がした。
「ここは…」
「起きた?」
シャッと軽快な音を立ててカーテンが開かれた。
開けた人は、この学校の指定ジャージを着ていた。短髪の長身で、一見すると少年のようにも思えるが、声から女の人だと分かる。
ジャージには名前が刺繍されており、谷本と書かれている。
「あなたは…」
「アタシは谷本茜。ジャージ見たら分かると思うけど、この学校の三年生」
「私は、佐藤美夜です。一年生です」
「美夜だね。よろしく。先ずはお互に現状を知りたい。体調に問題ないようなら、話し合いの為に少し移動してもらいたいんけど、動ける?」
「大丈夫です」
「場所はすぐそこで、アタシの他にも二人いるんだ」
彼女の言葉通り、ベッドから降りて数歩ほど歩いた所にソファがあり、そこから二人分の頭が見えていた。
「お待たせ。見張りありがとう。何か変わった様子はあった?」
「特には」
「問題ありません!!」
声を掛けられた二人はそれぞれ制服と野球部のユニフォームを着ていた。
そのうちの一人を美夜は一方的にだが知っていた。クラスは違うが同じ一年生で声がデカイ事で有名な野球部の男子だ。
「ちょっ!静かにしないと、」
「あっ…!す、すんませっ……!」
制服姿の男子生徒に怒られた彼がパッと口元を抑えて頭を下げた。
その姿に、制服姿の彼は先輩なんだろうと思った。
「良かった。とりあえず美夜が起きたから連れてきた。話し合いをしようと思ってさ」
「ここ、座って」と指定されたのは、茜の隣だった。
二人の男子生徒と向かい合う形で腰を下ろす。
「ん?お前…。もしかして、三組の佐藤か?」
「えぇ、佐藤美夜って言うの。君は確か…、ゆうって呼ばれてる人だよね?一組の」
「おう!俺は田中雄也!お前、もう大丈夫なのか?!一体あそこで何があったんだ?!」
先輩に怒られたこともあってか声は抑えているようだが、元々声が通るのだろう。
起きたばかりの美夜には少々堪える声音であった。
「雄也は落ち着いて。先ずは自己紹介をしよう。美夜は起きたばかりだし、アタシ達も落ち着いて話せなかったからね」
手を叩いて注目を集めた茜が立ち上がって自己紹介を始めた。その姿は実に自然で、彼女は人の前に立つのが慣れているのだろうと感じた。
「改めてまして、アタシは谷本茜。この学校の生徒で三年生。クラスは三組。陸上部の部長をしてる。後は……、アタシは一階の女子トイレに居て、その時は異変には気付かなかった。部活中だったからグラウンドに向かう為に昇降口に向かって、その時にはもうこの学校に閉じ込められていた。そのタイミングで弥生と雄也に会って、化け物に遭遇した。
……こんな感じで名前、クラス、ここに閉じ込められる前にしてたことや、居た場所、経緯なんかを語って言って欲しい」
そう言って茜が見たのは男子制服を着た生徒だ。恐らく同学年か二年生なのだろう。
運動部特有の年功序列の制度を感じた。
「あ、えっと…じゃあ。僕は二年二組の坂口弥生。卓球部だけど、幽霊部員。僕が居たのは二階の男子トイレ。図書室に用があって残ってたんだけど、トイレを済ませて帰宅の為に昇降口に向かった。結果は谷本さんと一緒。付け加えるなら、逃げた先は食堂で、あの化け物は火に怯えて逃げていったように思う」
坂口弥生と名乗ったその人は、黒縁のメガネを掛けており、隣にいる野球少年に比べると随分と華奢に見える。
彼が開示した情報の中に知っている情報があり、思わず美夜の声が漏れる。
「もしかして、鞄の?」
「えっと、リュックの持ち主のことなら僕だね。化け物から逃げる時に邪魔だったから投げ捨てたんだ。それと、多分君の鞄だと思うけどそれも持って来てるから、後で返す」
「良かった…」
美夜は鞄の持ち主が見つかったことと、鞄の中に入っている大事な物の事を思い出し安堵の息を吐いた。
「次は俺だな!一年一組、田中雄也!野球部所属!今はベンチだが、いつかはエースとして甲子園の球場に立つのが夢っす!プロを目標にしてるんでバットとボールは常に装備してるっす!あ、俺が居たのは一階の男子トイレっすね!グラウンドに近い体育館のトイレは改装工事中で行けなかったんで。そんで部活に戻るために昇降口に向かってお二人と合流したって感じっすね!」
プロとバット・ボール装備の関連性は分からなかったが、確かにその手にはバットが握られており、野球一筋という自己紹介だった。
「最後に私ですね。一年三組所属、佐藤美夜と言います。部活に入っておりません。私は17時のチャイムが鳴るまで教室にいて、チャイムが鳴ってから慌てて昇降口に向かいました。しかし扉が施錠されていた為、鍵を開けてもらうために職員室へと向かいました。あ、その途中で鞄を拾って、誰の物か確認する為に中身を見ました」
「ごめんなさい」と持ち主である先輩へと軽く頭を下げて謝ると、「緊急事態だし、しょうがないよ」と快く謝罪を受け入れてくれた。
「それで、職員室には誰もいなくて、ノートでクラスと名前が分かったので弥生先輩を探しに二階に上がりました。その途中で化け物の声を聞いて二階の音楽室に隠れようと思ったのですが間に合わなくて、持っていた鏡が割れたのでその破片で攻撃しました」
美夜の言葉に、三人が反応する。
「良く無事だったね」
「あれに立ち向かったのか…」
「お前、すごいな!!」
「無我夢中だったので…」
三者三様の感想を貰い、その時のことを思い出して今更ながら震えてきた腕を摩る。
全員の自己紹介が終わると、話は自然とどうしてここへ集められたのか、という話題になる。
「……しかし、美夜が教室に居たということは、この不可思議な現象はトイレが起点ではないということが分かった」
「それに、トイレだとしても男子と女子、一階と二階で場所が違いますからね」
「じゃあ学校自体がそのきてん?なんじゃないっすか?」
「いや、それなら僕たち四人だけが閉じ込められるって可笑しいだろ?教室を使って部活してるとこもあるんだし」
起点となる共通点を探すために、会話は続く。
「他にアタシ達自身に共通点があるかとも思ったが…」
「ないですね。部活も年齢も学年も性別も違いますし」
「そこなんだよな…。この学校の生徒ってことしか共通点がない。後は家庭環境とかか?ちなみにアタシは四人家族で下に弟がいる」
「僕は上に兄が二人います」
「この時点で違うっすね!俺は一人っ子っす!三人家族!!」
「私の家は母と私だけですね」
「じゃあ趣味?アタシは走ること」
「僕は……、小説を読んだりとか」
「俺は野球!」
「私は鏡で自分を見ることです。……うーん、アウトドアとインドアとで見事に分かれましたね」
「いや、それはいいんだけど、自分を見ることってなに?」
「自分を見つめ直しながら自分のことを褒めたり、今日の私も素晴らしいって自画自賛しながら過ごす時間を持つことです」
「ワハハ!噂通りの佐藤さんって感じだな!」
「わぁ…。一年の間では有名なんだ」
その後も色々と話してみたが、四人の共通点は一向に見つからなかった。
【人物紹介】
田中雄也
一年一組。
野球部。
坂口 弥生
二年二組。
卓球部幽霊部員。
谷本 茜
三年三組。
陸上部部長。




