最初の任務
街道を進む一行は、やがて森に飲み込まれた。
矢が飛ぶ。私は膜を一点に収束させて弾き返す。
リナは走り込み、剣を振るった。
危うい。だが、その危うさが場を奮い立たせる。
短い乱戦を制したとき、リナの鎖帷子には血の線が走っていた。
「くっ……」彼女が顔をしかめた瞬間、リディアが駆け寄る。
「大丈夫、すぐ癒すから!」
温かな光がほころび、裂けた鎖と皮膚を塞いでいく。
私は胸の奥に冷たいものを覚えた。結界はまだ未熟で、守り切れなかった。
だが彼女の癒しがあったから、戦列は崩れなかったのだ。
「大丈夫?」私はたずねる。
「大丈夫!」彼女は笑う。血の匂いの中でも眩しい笑顔だった。
「アレンがいると、ほんとに怖くない!」
その言葉に、私は喉の奥で苦く息を吐いた。
怖くない、という言葉ほど、戦場で危ういものはない。
夜。宿で私は彼女の鎖帷子を縫い直した。
糸ではなく魔力の縫い目で、編み目を補強する。
「器用だね、アレン」
「無駄に手先は器用なんだ」
「無駄じゃないよ」
静かな声。私は縫い目を結びながら、小さく笑った。
魔力の縫い目の縁は薄く伸ばせば刃にもなる。
縫い目を締めるときは、指先を切らぬように気をつけろ——師の言葉を思い出す。
カイン「それにしてもよく考えると結界って便利だよな。さっきだって、あれがなきゃ俺も串刺しだった」
アレン「便利って言葉で片づけるな。広げすぎればすぐに破れる。だから一点に絞るんだ」
ガルド「……なるほど。盾みたいな役割か」
アレン「そうだ。ただ、名も残らない盾だ」
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次回は 10/13の朝8時ごろ を目安に投稿する予定です。よろしくお願いします。




