名もなき盾
戦の後、私は旅に出た。
勝利の凱旋の輪の中にはいられなかった。
あの歓声は、勇者レオンのためのものだ。
彼の名は石碑に刻まれ、歌に残り、人々に語られる。
それでいい。そうあるべきだ。
私たちは各地の丘を巡り、それぞれの墓を訪れた。
まずレオンの墓へ。
「お前がくれた勇気で、終わらせることができたよ」
信じて託してくれたあの瞬間が、最後の一撃を導いた。
次にセリアの墓へ。
「君が『選んでいい』って言ってくれたおかげで、大事な人たちを守れたよ」
全部を救えなくてもいい――その言葉が、苦しい選択を背中から支えてくれた。
ユリウスの墓へ。
「お前が足りない一手を補ってくれた」
慎重であれと刻んだその教えが、私を生かし続けた。
最後にリナの墓へ。
「今度は止めて守れたよ」
届かなかった声は、もう届いた。あの時できなかったことを、今は果たせた。
花を置き、祈りを捧げ、ただ静かに立ち去る。
王都は平和を取り戻し、人々は新しい日常を紡いでいた。
彼らにとっての勇者は、リナであり、ユリウスであり、セリアであり、レオンだ。
私はただ、その傍らにいた一人の結界術士にすぎない。
だが、それでいい。光は歴史に残り、影は地に溶ける。名が残らずとも、歩んだ軌跡は確かにあった。
昔カインが私に言ったことがある。
「勇者ばかりが名を残す。お前はまるで――名もなき盾だな」
私は苦笑し、頷いた。
そう呼ばれることに、もはや迷いはなかった。
私の役割は、名を残すことではなく、光を支えることだったのだから。
草原を渡る風が頬を撫でる。
私は立ち止まり、空を仰ぐ。勇者たちの笑顔が一瞬だけ浮かび、そして消えた。
それでも、私は歩き続ける。この世界に影がある限り、盾として。
――これが、『名もなき盾』の物語だ。
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