すべての勇者とともに
【前回までのあらすじ】
王国は、魔王が単独行動をとる日時と場所を突き止め、潜入作戦を決行した。
周囲に部下の姿はなかった。
魔王が静かにこちらを向く。
「今だ、押せる!」
レオンが剣を構え、飛びかかった。
――リナ……?
「だめだ、レオン!」
あの時は声が届かなかった。
今度こそ止める。
私は結界を反転させ、力の向きを変えた。
半透明の壁が彼を引き戻す。
「アレン、何を――」
次の瞬間、魔王の影槍が床を割って突き出た。
もし前に出ていたら、勇者は一撃で貫かれていた。
「むっ……見抜いたか……」
魔王の頬がわずかに引きつった。
レオンの背中に、リナの姿が重なった。
あの時は届かなかった声。今度は、確かに止められた。
――リナ。
【前へ出る勇気を、止める勇気で包む】
「……助かった」
レオンが短く呟く。その横顔に、強い光が宿っていた。
「おれでも見抜けなかった……」
カインが息を呑む。彼の眼力をもってしても、あの罠は看破できなかったのだ。
「……アレンのおかげだ」
リディアの祈りが震えながら重なる。
「やっぱりお前は盾だな」
ガルドが短く言った。
***
影槍を躱された直後、魔王は詠唱とともに両手を掲げた。
空気が震え、雷と炎が渦を巻き、私たちの正面へと収束していく。
「来るぞ!」
レオンが剣を構え、前衛のガルドも同じく前へと備えた。
側面ではカインが刃を構え、後衛のリディアが祈りを紡ぐ。
この部屋の構造上、横からの罠ならカインが対処できる。
皆の視線は前へ向いていた。
……背後には、何もない。
だが、その“何もない”ことが、逆に不気味だった。
手数は足りているか――。
「……ユリウス……」
私は正面に加え、後方にも結界を展開した。
仲間には告げなかった。気づいていたのは、私だけだった。
レオンたちが構える。
「来い!」
魔王の掌から放たれた雷火が一直線に襲いかかる。
私は、背後の結界に力を割いたぶん薄くなった前面を補うため、
前の結界に角度をつけて攻撃をいなした。
逸らされた雷火の衝撃が床を裂いた。
だが次の瞬間、魔王が仕込んでいた【影の矢】が、
雷火の余波に紛れて背後から発動した。
闇に溶けた矢が、音もなく私たちの背を貫こうとする。
背後の結界が火花を散らし、それを弾いた。
「なっ……!」
魔王の目が驚愕に見開かれる。
「なぜ気づいた!」
「……おれでも見抜けなかったぞ」
カインが息を呑む。
盗賊の眼力をもってしても、死角の罠は見破れなかったのだ。
――ユリウス。
【計算外は必ず起こる。だからもう一手を考えろ】
***
その頃、ようやく別部隊も魔王のもとへ来始めた。
到着したのは数十名。鎧は乱れ、呼吸は荒い。
隊列は整っておらず、顔には疲労と恐怖が刻まれていた。
そのさらに背後では、魔王軍の追撃がじわじわと迫っている。
祭壇の外から轟音が響き、退路を断たれるのも時間の問題だった。
援軍の到着に気づいた魔王は、ふたたび詠唱を始めた。
――援軍ごと叩くつもりか。
レオンもそれを悟ったように、表情を強ばらせた。
「アレン! 結界を広げて。
……このままでは彼らが挟み撃ちでやられてしまう!」
「無理だ。広げれば誰も守れない。
結界を縮め、核である私たちを守るしかない」
「だが――!」レオンの目が揺らぐ。
悔しさを飲み込みきれない顔だった。
ガルドが低く唸った。
「アレンの言う通りだ。核を守らなきゃ全滅する」
リディアも祈りの手を握りながら頷いた。
「勇者を守らなければ、意味がありません」
カインが珍しく神妙に言う。
「ここは割り切るしかない」
レオンはしばし目を閉じ、拳を握った。
やがて深く息を吐き――
「……わかった。核を守る」
――セリア。わたしは、お前が信じる私を信じるよ――
私は結界を縮め、厚くした。
守るべき核――レオン、ガルド、リディア、カイン、そして私。
次の瞬間、魔王の渾身の炎が空間を裂き、広間を埋め尽くした。
轟音と共に、後続部隊の悲鳴が木霊した。
駆け付けた者たちは炎に呑まれ、焦げた匂いが立ちこめた。
だが、結界の中心にいる私たちは耐え切った。
――セリア。
【全部は救えない。守る核を決めて】
炎が収まると、魔王は膝をつき、肩で息をしていた。
渾身の一撃が、ひるみを生んだ。
「今だ……!」
レオンが前進する。
ようやく反撃の時が訪れた。
お読みいただきありがとうございました。
次回は 11/12の朝8時ごろ を目安に投稿する予定です。よろしくお願いします。




