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名もなき盾  作者: 安楽公の罠
第4章 勇者レオン編
17/19

すべての勇者とともに

【前回までのあらすじ】

王国は、魔王が単独行動をとる日時と場所を突き止め、潜入作戦を決行した。


 周囲に部下の姿はなかった。

魔王が静かにこちらを向く。


 「今だ、押せる!」

レオンが剣を構え、飛びかかった。


 ――リナ……?


「だめだ、レオン!」

 あの時は声が届かなかった。

今度こそ止める。


 私は結界を反転させ、力の向きを変えた。

半透明の壁が彼を引き戻す。

「アレン、何を――」


 次の瞬間、魔王の影槍が床を割って突き出た。

もし前に出ていたら、勇者は一撃で貫かれていた。


 「むっ……見抜いたか……」

魔王の頬がわずかに引きつった。


 レオンの背中に、リナの姿が重なった。

あの時は届かなかった声。今度は、確かに止められた。


――リナ。

【前へ出る勇気を、止める勇気で包む】


 「……助かった」

レオンが短く呟く。その横顔に、強い光が宿っていた。


 「おれでも見抜けなかった……」

カインが息を呑む。彼の眼力をもってしても、あの罠は看破できなかったのだ。


 「……アレンのおかげだ」

リディアの祈りが震えながら重なる。


 「やっぱりお前は盾だな」

ガルドが短く言った。


***


 影槍を躱された直後、魔王は詠唱とともに両手を掲げた。

空気が震え、雷と炎が渦を巻き、私たちの正面へと収束していく。


 「来るぞ!」

レオンが剣を構え、前衛のガルドも同じく前へと備えた。

側面ではカインが刃を構え、後衛のリディアが祈りを紡ぐ。


 この部屋の構造上、横からの罠ならカインが対処できる。

皆の視線は前へ向いていた。

……背後には、何もない。

だが、その“何もない”ことが、逆に不気味だった。


 手数は足りているか――。


 「……ユリウス……」


 私は正面に加え、後方にも結界を展開した。

仲間には告げなかった。気づいていたのは、私だけだった。


 レオンたちが構える。

「来い!」


 魔王の掌から放たれた雷火が一直線に襲いかかる。

私は、背後の結界に力を割いたぶん薄くなった前面を補うため、

前の結界に角度をつけて攻撃をいなした。

逸らされた雷火の衝撃が床を裂いた。


 だが次の瞬間、魔王が仕込んでいた【影の矢】が、

雷火の余波に紛れて背後から発動した。

闇に溶けた矢が、音もなく私たちの背を貫こうとする。


 背後の結界が火花を散らし、それを弾いた。


「なっ……!」

魔王の目が驚愕に見開かれる。

「なぜ気づいた!」


「……おれでも見抜けなかったぞ」

カインが息を呑む。

盗賊の眼力をもってしても、死角の罠は見破れなかったのだ。


――ユリウス。

【計算外は必ず起こる。だからもう一手を考えろ】


***


 その頃、ようやく別部隊も魔王のもとへ来始めた。

到着したのは数十名。鎧は乱れ、呼吸は荒い。

隊列は整っておらず、顔には疲労と恐怖が刻まれていた。


 そのさらに背後では、魔王軍の追撃がじわじわと迫っている。

祭壇の外から轟音が響き、退路を断たれるのも時間の問題だった。


 援軍の到着に気づいた魔王は、ふたたび詠唱を始めた。


 ――援軍ごと叩くつもりか。

レオンもそれを悟ったように、表情を強ばらせた。


 「アレン! 結界を広げて。

 ……このままでは彼らが挟み撃ちでやられてしまう!」


 「無理だ。広げれば誰も守れない。

 結界を縮め、核である私たちを守るしかない」


 「だが――!」レオンの目が揺らぐ。

悔しさを飲み込みきれない顔だった。


 ガルドが低く唸った。

 「アレンの言う通りだ。核を守らなきゃ全滅する」


 リディアも祈りの手を握りながら頷いた。

 「勇者を守らなければ、意味がありません」


 カインが珍しく神妙に言う。

 「ここは割り切るしかない」


 レオンはしばし目を閉じ、拳を握った。

やがて深く息を吐き――

 「……わかった。核を守る」


――セリア。わたしは、お前が信じる私を信じるよ――


 私は結界を縮め、厚くした。

守るべき核――レオン、ガルド、リディア、カイン、そして私。


 次の瞬間、魔王の渾身の炎が空間を裂き、広間を埋め尽くした。


 轟音と共に、後続部隊の悲鳴が木霊した。

駆け付けた者たちは炎に呑まれ、焦げた匂いが立ちこめた。

だが、結界の中心にいる私たちは耐え切った。



――セリア。

【全部は救えない。守る核を決めて】



 炎が収まると、魔王は膝をつき、肩で息をしていた。

渾身の一撃が、ひるみを生んだ。


 「今だ……!」

レオンが前進する。


 ようやく反撃の時が訪れた。


お読みいただきありがとうございました。

次回は 11/12の朝8時ごろ を目安に投稿する予定です。よろしくお願いします。

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