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名もなき盾  作者: 安楽公の罠
第3章 勇者セリア編
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【前回までのあらすじ】

セリアの隊は拡大し、多くの人々が勇者の旗のもとに集った。

一行は新たな戦場へと向かっていた。


 セリアと共に、私たちは再び戦地へ赴いた。

彼女は仲間を大切にし、誰も見捨てない。

だがその優しさは、ときに戦場で命取りになる。

死地に飛び込む彼女を守るため、私は結界を張り続けた。


 ある戦で、魔王軍が数で押し寄せたとき、私は決断を迫られた。

全員を守ることはできない。広く結界を張れば薄くなる。

私の視線は自然と仲間の核――レオン、ガルド、リディア、カインへと向いた。

勇者を中心とした小さな輪。


「アレン!」

 セリアが叫ぶ。

「周りの兵も守って!」

「全部は救えない!」

それが、限界だった。私は叫び返した。


 その瞬間、外輪にいた兵は斬り伏せられた。悲鳴が響く。

セリアは歯を食いしばりながら叫んだ。

「アレン、みんなを守って!」


 私は結界を部隊全体に広げた。

当然、結界は薄くなる。


 乱戦の中、彼女の剣が閃き、敵を退ける。

背後から魔物が切りかかる。

ふだんなら結界がその刃を防ぎ、彼女に反撃の間を与えられたはずだった。

だが、その背に深い傷が走った。



 結界を張りながら、私は彼女の姿を追った。

セリアは痛みに耐えながら魔物を撃退し、振り返って弱々しい笑顔を浮かべて言った。


「……ありがとう。みんなを……守ってくれて」


 ふっ、と表情が緩んだ。

戦場で見るのは初めての、安らぎを帯びた笑みだった。


 戦の後、彼女は血に濡れながらも笑っていた。

「アレン……あなたの判断に、自信を持って」


 まっすぐに私の目を見つめ――静かに息を吐くように、彼女は逝った。



 ――全部は救えない。守る核を決めろ。

それが、彼女から私に残された教訓だった。


 その後、セリアは多くの民を救った功績で、聖人に推薦されたという。

彼女の名は、生前の祈りとともに広まり、勇者として称えられた。


 帰路の夜、焚き火のそばでカインが火を突きながら、ぼそりとつぶやいた。

「勇者ばかり名が残って、お前は……名もなき盾だな」


 私は小さく笑って答えた。

「それでいいさ」


 勇者を支え、死を見届けるだけの盾。

きっと、その盾があったからこそ――彼らは最後まで戦えたのだと思う。


 ――名もなき盾。

それが、私の歩むべき道なのだと。


お読みいただきありがとうございました。

次回は 11/5の朝8時ごろ を目安に投稿する予定です。よろしくお願いします。

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