陽だまりの声
【前回までのあらすじ】
勇者リナとユリウスを喪い、一行は再び王都へ戻った。
それぞれの胸に、守れなかった者たちの記憶を抱えながら――。
勇者を二人失った私たちに、人々の視線は厳しかった。
特にユリウスの死の後は、陰口が絶えなかった。
「また勇者が死んだらしいぞ」
「灰にして返すやつらしい。……アッシュ、だとよ」
酒場の片隅で、その声を耳にした。
勇者を灰にする者――アッシュ。私の名ではない。
だが確かに私たちを指していた。
勇者は死に、私たちは生き残った。裏方の役割は称えられず、ただ死の影をまとわりつかせていた。
無言で杯をあおるガルド。
軽口を言おうとしたカインは一瞬口を開きかけて、結局飲み込んだ。
リディアは祈りのように指を組み、ただ俯いていた。
誰も何も言わなかった。否定も、慰めもなかった。
重苦しい空気が、私たちの卓を覆っていた。
胸の奥が冷えた。リナも、ユリウスも、私の手の届かないところで死んでいった。守ると誓ったはずだった。
私の存在は勇者の死を呼ぶのか――そんな囁きが、胸の奥に芽生えつつあった。
そのとき。
「飲みすぎはよくないですよ」
ほがらかな声が、私たちの卓に差し込んだ。
振り向くと、赤毛を背に流した少女が立っていた。
長い髪が灯りに揺れ、陽だまりのような笑みを浮かべていた。
彼女は陰口を叩いた客の肩にそっと手を置き、微笑みながら言った。
「怖いのは分かるわよ。でも、その怖さごと、私が受け止めるから安心して」
場の空気が変わった。陰口を叩いていた客はばつが悪そうに視線を逸らし、ざわめきはしぼんでいく。
彼女は私の方へ歩み寄り、穏やかに声をかけた。
「あなた、結界士のアレンね?」
不意に名を呼ばれ、私は一瞬身を強張らせた。
「ああ……そうだが」
「なら、私と一緒に来てほしいの」
一瞬ためらう私を見て、彼女は続けた。
「アッシュ? そんな呼び方は関係ない。私は君を必要としてる」
その一言に、胸の奥で何かが解けるようだった。
失った光を、もう一度信じてみよう――そう思えた。
ユリウスの冷たい理性に触れ、いつしか心まで凍っていたのかもしれない。
けれど、目の前の少女の笑みは――あの太陽のようなリナを思い出させた。
あたたかさが、胸の奥に少しずつ戻っていくのを感じた。
お読みいただきありがとうございました。
次回は 10/29の朝8時ごろ を目安に投稿する予定です。よろしくお願いします。




