7話 影が交差する夜
町は夜霧に包まれ、街灯の光が濡れた路面にじわじわと反射する。
有栖の靴屋の扉を押すと、いつもの静けさの奥に、何か異様な緊張が潜んでいるのを感じた。
倉庫で見つけたマダガスカルの革の靴――
それは過去の注文と微妙に重なり合い、町の住人の足跡と一部繋がる。
「……つまり、犯人は町の誰かを巻き込みながら、自分の計画を遠隔で操っている」
指先で靴底の刻印をたどる有栖の手が、微かに震える。
その夜、町の路地で複数の人物の足音が重なった。
一見普通の主婦や教師、学生までもが、無意識に靴の暗号に絡む形で動いている。
森田刑事が小声で囁く。
「……有栖さん、町全体が巻き込まれています……」
有栖は、靴の暗号を一つずつ紙に写しながら、じわじわと繋がる線を見つめる。
過去の事件、古い注文記録、住人の行動、遠くマダガスカルの革……
すべてが一つの巨大なパズルを形作る瞬間だ。
そして、倉庫の隅で微かに揺れる影――
「……まだ、誰もここには気づいていない」
犯人の二重構造、町の全体を巻き込む計画、靴に隠されたメッセージ――
じわじわと、不穏が町全体を包み、読者の心に静かに緊張を積み重ねる。