6話 足跡は遠くマダガスカルへ
有栖は作業台に広げた靴のスケッチを眺めていた。
これまで町で積み重ねられた小さな謎――靴底の刻印、微妙な縫い目、色の配列、そして過去の注文記録――
すべてが、少しずつ線で結ばれ始めている。
「……なるほど、全部つながる」
指先で靴底の刻印をなぞると、過去の注文で使われた特定の模様や色の組み合わせが浮かび上がった。
それは、まるで遠く離れた土地の古い地図のようで、祖父の日記の中の落書きと一致する。
その地図の中に、ふと「マダガスカル」という文字列が見える――
祖父がかつて、旅行先で仕入れた珍しい革や装飾品の記録に残していたものだった。
「靴だけじゃなく、材料も手がかり……」
じわじわと有栖の中で、町の事件と過去の秘密、さらに遠く離れた場所の影が一つに結びつく感覚が広がる。
森田刑事もやってきた。
「有栖さん……犯人は町にだけいるわけじゃないんですか?」
靴の刻印、色、素材、過去の注文……すべてをつなげると、犯人が町だけでなく、もっと広い範囲で計画を練っている可能性が見えてくる。
そして店の奥、倉庫に積まれた靴の山の中から、ふと目を引く一足。
「……これは、マダガスカルの革で作られた靴……」
この靴こそ、犯人の“最初の挑発状”であり、全ての伏線を示す最後の手がかりだった。
じわじわと全てがつながる――
町の住人の足跡、靴に隠された暗号、過去の事件、そして遠くマダガスカルの革まで。
すべてが一つの物語のピースになり、読者の心にじわじわと緊張感を残す。