4話 靴に隠された暗号
有栖は作業台に広げられたスケッチをじっと見つめる。
昨日の謎めいた線や数字……それが単なるデザインではないことは明らかだった。
「……やはり、これは暗号……」
指先で微かな刻印をなぞると、数字や記号の並びが、靴底の小さな凹凸と対応していることに気づく。
森田刑事が店に入ってきた。
「有栖さん、見つけました……足跡の先に、倉庫がありました」
しかし、その倉庫の中には物ではなく、靴が大量に積まれていた。
しかもどれも、微妙に歪んだ形で、底には小さな刻印が刻まれている。
「……これは、町中に残された手がかりかもしれません」
有栖の声は冷静だが、心臓の奥がじわじわと熱くなるような感覚に包まれる。
靴底の刻印を1つ1つ読み解くと、特定の人物の行動履歴が浮かび上がる。
だが、その人物は表面上、何も知らない普通の町民――
「……巧妙すぎる……」
夜、店の外には霧がじわじわと立ち込め、街灯の光が靴屋のガラスに反射して揺れる。
有栖は暗号をノートに写しながら、微かな足音を聞いた気がした。
しかし振り返っても誰もいない。
それでも、店の奥に潜む何か――見えない視線――は確かに存在しているように感じられた。
「靴は、ただの靴ではない……」
有栖は囁く。
それは町全体に潜む秘密の象徴であり、犯人からの挑戦状でもあった。
じわじわと、事件の輪郭が、そして恐怖が、有栖の心に押し寄せる――。