10話 足跡が交差する夜
夜霧の町は、静まり返っているようで、微かにざわめく。
有栖の靴屋の扉を押すと、倉庫の奥から靴の山が静かに光を反射する。
マダガスカルの革、古い注文票、縫い目の歪み、色の配列――
すべてが町の路地、住人の行動、過去の事件を指し示す暗号になっている。
「……全ての線が、じわじわと交錯している」
有栖は靴底の刻印をなぞりながら、ノートに複雑な線を引く。
その線は町全体を網の目のように繋ぎ、読者の頭の中でも迷宮を形成する。
森田刑事が駆け込む。
「有栖さん……複数の足跡が、今夜、倉庫と町を行き来しています!」
店の奥から、微かな足音が響く。
振り返っても誰もいないが、靴の擦れる音は確かに存在する――
犯人の影はまだ町のどこかに潜み、じわじわと圧力をかけている。
町の常連客たちも、無意識に靴の暗号に絡む形で動いていた。
一見何気ない会話、踏みしめる靴音、夜の路地での微妙な角度――
それらがすべて、読者に「何か大きな事件が背後で動いている」という緊張をじわじわ与える。
有栖は深呼吸し、暗号をさらに整理する。
過去の事件、町の人々の秘密、靴底の刻印、遠くマダガスカルの革――
全てが絡み合い、町全体が一つの巨大な迷宮となる瞬間だった。
じわじわ、読者の心に迫る緊張。
影はまだ見えないが、全ての線は徐々に収束し、静かな嵐が近づいている――。