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第四話 初めての旅路、商隊と共に

王都を出て数日。ロイとセリナはダリオ商会の商隊に同行し、東へと歩みを進めていた。

これまで商人として生きてきたロイよりも、孤児院で育ったセリナにとっては、外の世界を旅するのは初めての経験。

見知らぬ村、野営の夜、そして仲間たちの笑い声――。

それぞれが胸に抱いた期待と不安を、焚き火の炎が照らしていた。

朝焼けの光が王都の石畳を赤く染める。

  高い城壁の東門前には、すでに数十頭の馬と十数台の荷車が整然と並んでいる。荷台には織物、保存食、香辛料、金属材――各地の市場を渡り歩く商人たちの宝が積み込まれ、冷たい朝の空気に混じって香ばしい匂いや獣の気配が漂っていた。


「これが……ダリオ商会の商隊か」

 ロイは思わず感嘆の声を漏らした。

 

重厚な荷車に、護衛の剣士や弓兵、魔法使いまで揃っている。見慣れた王都の市場とは違う、旅の緊張感と期待が一体となった光景だった。


 その横に立つセリナもまた、少し緊張した面持ちで周囲を見回していた。普段は看板娘として街中に笑顔を振りまく彼女だが、今日ばかりは冒険者のように凛とした姿に見える。



「ロイ、本当に来るとはな」

がっしりとした体格のダリオが、にやりと笑う。


「しばらく厄介になる。よろしく頼む」

「任せとけ。こっちも人手が欲しかったんだ。古くからの仲間を見捨てたりはしねぇよ。だが……」


 ダリオはちらりとセリナを見た。

「娘を連れていくとは思わなかったな」


「娘じゃないですよ!」

 セリナは顔を真っ赤にして慌てて否定した。

 ロイは苦笑しつつ肩をすくめる。


「ま、そういうことだ。気にするな」

「ははっ、まぁいい。にぎやかな方が退屈しなくて済む」


 そんなやりとりに、緊張していたセリナの肩も少しほぐれた。


門前には見送りの人々が集まっていた。


息子のアランが険しい顔をして歩み寄る。

「父上……無茶はなさらないでください」


「……ああ」

「旅がしたい気持ちはわかります。でも、どうか……生きて帰ってきてください」


 その言葉は祈りに近かった。

 ロイは少し目を細め、静かに微笑んだ。

「お前が店を立派に切り盛りしているからこそ、私は外の世界を見に行ける。誇りに思っているよ、アラン」


「……っ」

 アランは唇をかみ、目を潤ませながら深く頭を下げた。「必ず、無事に……」


 その姿を見て、セリナの胸も熱くなる。

(アラン様……本当に、ロイ様のことを心配してるんだ)


 従業員たちも駆け寄ってきた。

「いってらっしゃいませ!」

「ご武運を!」

「戻ってきたら、旅の話を聞かせてくださいね!」


 その声のひとつひとつが背中を押し、ロイは胸が詰まるのを感じた。

 この街で過ごした年月は無駄ではなかった。

 多くの人に支えられ、今こうして旅立てるのだ。


「ありがとう……必ず、戻るさ」


 短く答え、ロイは馬車へと向かった。

 セリナも凛とした姿で馬車に乗り込む。

 

その横顔は、いつもの天真爛漫な笑顔ではなく、誇りと決意を秘めた大人の顔だった。

 ロイも隣に腰を下ろし、ふと彼女の横顔を盗み見る。


「……お前、本当に強くなったな」

「え?」


「初めて会った頃は、あんなに泣き虫だったのにな」

「だ、旦那様っ! 今ここで言わなくてもいいでしょう!」

 耳まで真っ赤にしたセリナに、ロイは笑いを噛み殺した。


やがてダリオが声を張り上げる。

「よし、出発だ! 目指すは東の街、グランツェルを経て、その先の諸国へ!」


馬の嘶きと共に、荷車が軋む音を立てて動き出す。

見送りの人々が手を振り、子どもたちが駆け寄りながら「また来てね!」と叫ぶ。


ロイは振り返り、街を見つめた。

そこには懐かしい家々、共に過ごした仲間たち、そして大切な息子の姿。

「さて……どんな旅になるのやら」


声に応じるように、セリナが隣で微笑む。

「きっと素敵な旅になりますよ。旦那様と一緒ですから」


「……その呼び方はまだ慣れんがな」

ロイは少し照れたように肩をすくめ、馬車の振動に身を任せた。

「でも、悪くはない」


 馬車の振動に身を任せながら、二人の新たな旅路がゆっくりと幕を開けた。

大きな危険もなく、最初の数日は順調に過ぎていった。

それでもロイとセリナの胸には「ここから先に何が待ち受けるのか」という緊張が常にあった。

だが同時に、彼らは確かに実感していた。

――二人でなら、どんな道も歩んでいける、と。

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