表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

第二話 便乗の策

王都での日々に区切りをつけ、ロイとセリナは旅立ちの道を模索していた。

しかし二人きりの旅は無謀――息子アランの言葉が現実味を帯び、彼らの胸を重くする。

そんな中、古い友人である商人ダリオとの再会が、新たな選択肢をもたらした。

商隊に便乗できるという提案は、二人の未来を大きく動かすことになる。

ロイは暖炉の前で腕を組み、ため息をついていた。

「……どうしたもんかなぁ」


 年齢的にも、立場的にも、ふらりと二人きりで旅に出るのは無謀だとわかっている。だが、このまま王都に縛られて朽ちていくのは、どうしても嫌だった。

 パチパチと薪がはぜる音が、妙に胸に響く。

 

 旅立ちたい気持ちは、何度自分に問い直しても揺るがなかった。

 けれど、息子アランの「商隊じゃなきゃ駄目だ」という一言が、まるで鎖のように心を縛りつけている。


 年齢も立場もある。若い頃のように二人きりでふらりと旅に出れば、それは無謀にしか見えないだろう。

 しかし、このまま王都に縛られ、時間に押し流されて朽ちていく未来を想像すると、どうしても耐えられなかった。



「ロイ様、そんな顔してても、解決しませんよ」

声をかけてきたのはセリナだった。看板娘として忙しく働くはずの彼女が、手を止めてまっすぐロイを見つめている。


「どうせアラン様のことを考えてたんでしょ?」

「……まあな。あいつの言うことは正しい。だが、俺はどうしても――」


ロイが言葉を探していると、セリナは軽く笑みを浮かべて言った。

「一人じゃ無理。でも、商隊に紛れてならいいんでしょう?」


セリナの言葉にロイは目を丸くした。

「お前……それを思いついていたのか?」

「ええ。私たち二人だけで旅なんて、心配させるに決まってます。でも商隊の護衛や荷馬車に便乗すれば、“見送り”になるだけです。アラン様も反対しにくいはず」


ロイは思わず吹き出した。

「……参ったな。俺より先に先を読んでるじゃないか」

「ロイ様がちょっと抜けてるだけです」


セリナはわざとらしく頬を膨らませる。だが、その瞳は楽しげに輝いていた。

彼女のこうした仕草を見ると、いつも心が軽くなる。



その時、偶然にも店の扉が開いた。

「おう、ロイ。まだ商売してるか?」

入ってきたのは、隣町トラヴィスから来ている同業者――ベルン商会のダリオだった。四十半ば、がっしりとした体格の大男。声も態度も大きく、だが憎めない笑顔を浮かべている。


「ダリオじゃないか。珍しいな、王都まで出てくるなんて」

「うちの倉庫に積みすぎた麻布をさばきに来たのさ。だが王都の連中は欲深い、値切りがきつい。やれやれだ」


 二人は古い付き合いだった。幾度も商談で駆け引きをし、時に競い合い、時に協力してきた仲。

 だからこそ、久々の再会に自然と笑みがこぼれる。


世間話が一段落したところで、ロイはふと切り出した。

「なあダリオ、次はいつ出発するんだ?」

「明後日だな。この先のグランツェルまで一気に行くつもりだ」

「……もし良ければ、俺とセリナも同行させてもらえないだろうか?」


その一言にダリオは目を細め、じっとロイを見つめた。

「王都の店を畳んでまで旅に出るつもりか?」

「畳むわけじゃない。息子に任せるだけさ。俺は――少し世界を見て回りたい」


すると、ダリオは大声で笑った。

「ははは! らしいな。ロイ、お前は昔から“面白い方”に転がる奴だった」

「で、どうなんだ?」

「構わんさ。護衛も雇ってある。荷馬車の一つぐらい、余裕がある」


ロイの胸に安堵が広がった。その横でセリナが小さくガッツポーズをしている。


「これでアラン様にも説明できますね」

「そうだな。商隊に紛れて旅を始めるなら、あいつも納得するだろう」


ロイはセリナの横顔を見やり、心の中でつぶやいた。

――やれやれ。結局、俺よりもしっかりしてるのは、この娘の方かもしれんな。


二人の新しい旅路は、こうして現実味を帯び始めたのだった。

商隊に同行することが決まり、旅路への第一歩を踏み出したロイとセリナ。

長年の夢を叶えるための旅は、決して平坦ではないだろう。

だが、支えてくれる仲間がいることは、何よりも心強い。

――やがて二人の物語は、商隊の行く先と共に、新たな展開を迎えていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ