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第10話 朝焼けに映る影

昨夜の魔物との戦いを経て、迎えた朝。

弓を放つロイの姿は仲間の信頼を集め、セリナの心にも新たな感情を芽生えさせていた。

旅は続く。だが、二人の関係には確かな変化の兆しがあった。

 朝焼けが空を鮮やかなオレンジ色に染めていた。

 冷え込んだ夜の気配はまだ残っているが、焚き火の跡から漂う煙と温もりが、野営地に再び命を吹き込んでいる。

 昨夜の騒ぎがまるで嘘だったかのように、商人たちは荷をまとめ、護衛の冒険者たちは武具を点検し、いつもの日常が戻りつつあった。


 荷馬車の車輪に油を差す音。剣を研ぐ金属音。馬の鼻息。

 それらが混じり合い、また新しい一日の始まりを告げていた。



 ロイとセリナもテントを畳み、荷物をまとめていた。

 セリナは布をきゅっと引き締めながら、ちらちらとロイの横顔を盗み見ていた。

 ――あの旦那様が、あんなにも勇ましく戦えるなんて。

 昨夜の矢羽根の音がまだ耳に残っている。胸が妙に熱くなり、落ち着かない。


 そんな時、大きな声が背後から響いた。

「おい、ロイ!」


 振り返れば、商隊長ダリオが大股で歩いてきていた。その隣には、昨夜一緒に戦った若い剣士エドの姿もある。

 ダリオは豪快に笑いながら、ロイの肩をどんと叩いた。


「昨日は助かったよ。あの弓の腕前、まるで熟練の冒険者じゃねぇか!」


 ロイは少し照れくさそうに笑い、肩をすくめた。


「いやいや、冒険者だなんて立派なものじゃないさ。 ただ昔、旅の護衛をしてた時に腕の立つ弓使いに少し教わってね。 荷馬車を守る合間に覚えた程度なんだ。」


「多少、だって?」

 エドが目を丸くする。

「頭や心臓に正確に当ててましたよ! あんな芸当、普通じゃできません」


 セリナも頷きながら、ロイを見つめていた。

 ――旦那様……私の知らない一面を、また見せてくれた。



「そういえばな」

 ダリオが懐かしそうに顎を撫でながら言った。

「昔、一緒に組んだ商隊のときも、馬車の上から四方八方に矢を放って盗賊を蹴散らしてくれたじゃねぇか。あの時も命拾いしたもんだ」


 ロイはわずかに苦笑して答える。

「ずいぶん昔のことだよ。あの頃はまだ体力もあったしな」


「いや、今も変わっちゃいねぇさ」

 ダリオは断言するように笑い、エドも真剣な表情で言葉を重ねた。

「昨日の矢は本当に見事でした。自分ももっと鍛えないと……そう思わされました」


 真摯な若者の言葉に、ロイはわずかに照れたように頭をかいた。



 ダリオとエドはやがて持ち場へ戻っていった。

 再び周囲は日常の音に包まれ、二人きりになったその場で、セリナは小さく息を吐いた。


 ――普段は穏やかで優しく、まるで父親のように思っていた旦那様。

 けれど昨夜の戦いで見せた姿は、それとは全く違っていた。

 強く、勇敢で、誰よりも頼れる人。


 胸の奥でざわつくものをどう表現していいのかわからない。

 ただ頬が熱を帯びていくのを止められなかった。


「どうした? 疲れてるのか?」

 ロイが心配そうに覗き込む。


「い、いえ! なんでもありません!」

 セリナは慌てて顔を背けた。頬の赤みを隠すように髪を揺らす。

 心臓の鼓動が早まり、耳の奥まで熱が伝わる。



 出発の号令が響き渡り、荷馬車の列がゆっくりと動き出した。

 商人たちは掛け声を交わし、冒険者たちは隊列を整え、馬の嘶きが空気を震わせる。


 ロイとセリナもその列に加わった。

 街道の先には新しい大地が広がっている。


 セリナは胸の奥で密かに呟いた。

 ――この旅で、もっと旦那様の知らない姿を知っていくのかもしれない。

 それは少し怖くて、けれど何より楽しみでならなかった。


 朝焼けの光が二人の影を長く伸ばし、その歩みを照らしていた。

朝焼けに染まる道を進む商隊。

その列の中で、セリナの胸は昨夜から続く鼓動を抑えきれずにいた。

尊敬から憧れへ、そして恋へ――。

小さな一歩は、やがて大きな変化へと繋がっていく。

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