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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第一章

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第九話 見てはいけない理由


「ふぅむ…こうやって改めて見せてもらうと酷さがより伝わってくるね。やっぱり普段からお掃除とかはしてない感じ?」

「そうだな。面倒っていうのもあるけど、ここまでとなるともう手の付けようがなくなったって言う方が正しいかもしれん」

「駄目だよ、そんなのじゃ。いつも過ごす場所だからこそ綺麗にしておかないと! こういうのは溜め込むとそれだけお掃除が億劫になるものなんだよ?」

「…お前は俺の母親か」


 あの後、美穂の口から掃除をさせてもらうという宣言を食らった蓮は当然の如く思考を混乱に陥らせた。

 あまりにも荒唐無稽な内容だったためにさしもの彼でさえも理解が追い付かなかったわけだが…彼女はそんな蓮の態度など考慮してはくれない。


 あれよあれよという間に断る隙すら与えられず、気が付いた時には半ば押し切られる形で美穂を一日と経たないうちに自宅へと上がり込ませてしまっていた。



 ……それと、展開が怒涛すぎたのでサラッと流してしまっていたが大前提として何故美穂が一人でこの家まで辿り着くことが出来たのか。

 蓮が帰宅するよりも前には既に待ち構えられていたので疑問に思う事すら失念しかけたもののそれは聞いておかなければと思いそれとなく尋ねてみた。


 すると、彼女はとても呆気ない様子でこのように返事をしていた。


『え、だって昨日お邪魔させてもらったし…それに私も驚いたけど、私の家もここから少し歩いたところにあるんだよ。偶然ってあるものだよね~!』


 …と、そういうことらしい。


 つまりこれまたどんな運命の悪戯かは定かではないが彼女の自宅もここからそう遠くはないようで、最低でも徒歩圏内とのこと。

 もうここまで来たら何があっても驚くことは無いだろうとも思ってしまいそうになる。

 ともあれ、そうした事情があったのならあそこで家の前に待機していた理由も把握した。


 やっていることは完全にストーカー予備軍なのだが、それについては言及しないのが吉というものだろう。

 実態はともかくとして、少なくとも美穂も悪気があってそんなことをしていたわけではない。

 そのくらいのことは蓮も流石に察しているので下手に追及しても得はないと判断したためだ。


 あと残る疑問としてはそもそもどうして彼の家を掃除するなんて結論に至ったのかということくらいだが、こちらに関しては入り組んだ理由があるわけでも無く単純に昨晩彼の家を見て散らかりすぎているのが目に付いて印象に残ったかららしい。

 ほとんど彼一人で暮らしていると説明されても納得しきれないほどに乱れ切った部屋の有様を前に、これではおちおち休むことも出来ないだろうと思い提案してくれた…らしい。


 どちらにしても少し前から美穂の勢いに圧倒されてばかりのような気しかせずとも、こうなったら彼女が折れることもないというのは短いやり取りの中でも薄々察してきた。

 先ほどの掃除云々という発言に関しても同様だ。


「というか前提としてさ、鐘月って掃除とか出来るのか? なんかそういうイメージがいまいち湧いてこないんだが…」

「むっ、それは私のことを見くびりすぎだよ。何せ、こう見えても家事は得意中の得意なんだから! お掃除だけじゃなく、お料理からお洗濯まで何でもお任せです!」

「……! そ、そうか…」

「…? 相坂くん? どうかしたの、って…あ」


 しかしながら、蓮としてはどうも美穂から言い出しておいて何だが彼女に掃除を手助けしてもらうというのは微妙に不安が残ってしまっている。

 というのも普段関わりが希薄だからなのだろうが、彼は彼女のことをそれほど深く知っているわけではない。


 美穂が何を得意としていて、何が出来る少女なのか。そういった基本的なことも知らない間柄ではこれを任せても良いのかと悩むのは自然なこと。


 だが当人の弁によると心配は無用らしく、あくまで本人談になるが家事は大の得意らしい。

 ここが自分のアピールポイントだと思ったのか、自慢げに胸を強く叩きながらドヤ顔を浮かべる様子を見ればその発言が嘘とも思えない。


 …が、それと同時に美穂が己の手で身体を叩いたことで大きく弾んだ胸の挙動に危うく彼の視線が誘導されかけてしまった。

 ……彼女のことを決して()()()()では見ないと思っていた矢先だというのに、男の悲しい性を見せつけられた気分である。


 けれどもそれ以上に最悪だったのがおそらくはその挙動を美穂自身にも悟られたと思われることで、こんなことをしてしまえば軽蔑されてもおかしくない。

 当たり前だ。相手が誰であろうと身体をジロジロと見られて不快に思わないことなんて無いのだから。


 場合によってはこれで幻滅されても仕方がないと思い、その時はすぐに謝ろうとも思ったが…結論から述べればそんな心配は杞憂になる。


「むっふっふ~…相坂くん。今、私の胸見てたでしょ。駄目だよ? 女の子はそういう視線に敏感なんだからね?」

「……その、すまん。流石にデリカシーが無さすぎたってのは自覚してる。謝罪のしようもない…」

「あ、いや、そんな本気で怒ってるわけではないからね!? …別に私だって自分でも大きいなっていうのは分かってるし、男の子なら目をつられちゃうのはしょうがないって理解してるから謝らなくても───」

「──違う。鐘月がそう思ってたとしても()()許せないんだ。言葉ではどう言ってたとしても他人の身体を見るなんていい気分にさせるわけがないし、鐘月だってそれは同じはずだ。だからこれはしっかり謝らないといけないことだ」

「……………」


 てっきり幻滅されるかと思っていたので内心戦々恐々としていたが、そんな予想に反して彼女の顔には小悪魔めいた笑みが浮かべられている。

 まるで初々しい蓮の反応を揶揄うかのように掛けられた言葉は、特に気にしていないから問題もないとのこと。


 かねてより今のと似た反応には慣れ切ってしまっているために、今更謝らなくてもいいと。


 ……だが、その言葉に蓮は素直に甘えるわけにはいかない。甘えて良いものではない。

 何せ、いくら彼女がこんな視線に慣れていたとしても断じて心地の良い類のものではないことは確実なのだ。


 だというのに、自分の容姿が人目を集めてしまうものだから無遠慮に見られても良い…なんて理屈が成り立っていい理由はどこにもない。

 ゆえに彼は誠心誠意謝るべきところだと判断した今この時は、あやふやに場を濁すのではなくきっちりと謝罪をする。


 たとえ美穂に特別な感情を抱いていようといなかろうと、彼女の関係が希薄なものであろうとも…こちらに非があるのならいい加減に誤魔化さない。

 そう思い、正面から彼女に頭を下げていれば向こうは何故かキョトンとした顔色になっている。

 まるで、彼の放った言葉が()()()()()()だったとでも言うように。


「…そんなこと、他の人から初めて言われたよ」

「人として当たり前のことを言ってるだけだ。もちろん許してもらえるかは分からないけど…」

「──ううん、そんなに頭を下げなくていいよ。さっきも言った通り、気にしてなんて無いからもう謝るのは止めて? 相坂くんのことは許したからさ」

「……分かった。ならそうさせてもらう」


 呆気に取られたという言葉が当てはまる表情を浮かべていた美穂の顔色も、少しすれば目を丸くした反応からはにかむような微笑みに変わる。

 そうして向けられた瞳の奥に宿された感情は…どこか、今まで以上に深い()()()が込められたように見えた。


「相坂くんって…結構紳士的な男の子なんだね! ちょっとびっくりしちゃった…」

「普通の考えだと思うけどな。失礼なことをしないように気を付けてるだけだし」

「あはは! でもそういうところが相坂くんの魅力だと思うし、素敵だと思うよ? 格好いいとも思う!」

「はいはい、ありがとうな」

「あれ、もしかして本気にされてない?」


 何気なく放たれた一言から彼女が何を思ったのかは、蓮には知る由もない。

 しかし今の、たった一つのやり取りで美穂との間にほんのわずかな変化が生まれたことだけは彼も密かに感じ取っていた。


「むぅ…まぁ今はいっか。それじゃあここからお掃除に取り組んでいくけど、ちょっと汚れてもいい格好になりたいからお部屋を借りてもいい?」

「それなら二階の部屋の突き当りにある部屋を使ってくれ。…俺も適当に着替えるとするかね」

「ありがとー! じゃあ着替え終わったらお掃除開始だね!」


 されどそうこうしている間にも状況は着々と進行していき、お互いに学校帰りの状態だったのでひとまずは掃除をしても問題ない服装に着替えることから始まりそうだ。

 何はともあれ、ここまで来たのなら蓮も四の五の言わずにやるしかない。


 今日一日がこのような形になるなど早朝の時点では夢にも思っていなかったが、長年の生活で蓄積されてきた自宅の惨状を始末する時は近い。


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