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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第八八話 無理な誘いはNG


 …どうしてこうなったの?

 私の心境を簡潔にまとめるならきっとその一言で事足りると思う。


 現在の状況を語るためには到底そんな短い文言では足りないんだけど…少なくとも私では、この現状を客観的に把握してみろと言われたら出来る自信が無い。

 だって、困っている人がいたと思って何気なく近づいてみたら…いきなり歩み寄られてモデルに興味はないかと新手の詐欺のような言葉を向けられてきたのだ。


 本音を言ってしまうのなら、今のやり取りでかなり警戒心が一気に高まってしまった。

 それと同じくらいに困惑も…ではあったけど。


「それでどうかしら? あなたなら絶対に似合うと思うの! いいえ、それどころかモデルでも大活躍間違いなしよ!」

「す、少し待ってください!? …そ、その。そもそもあなたはどちら様で…?」

「あら、これはごめんなさい。まだ名乗っていなかったわね。えぇっと…ただ、今名刺を持ってないから……あっ、そうだわ! これを見てもらったら分かりやすいかしら?」

「え、これって…?」


 これでもかとグイグイ来る目の前の女性は爛々と目を輝かせていて、そして絶対に逃がすまいと言わんばかりに私の掌を両手で握りしめていつの間にか退路を封じていた。

 先ほどまでの落ち込み様とは一転し、全身から溢れ出すくらいに熱量を感じさせるこの人の勢いには圧倒されるけど…それ以上に聞いておかなければいけないことが一つ。


 …まぁモデル云々の勧誘もそうなんだけど、大前提としてこの女性は誰なのか?

 そういうナンパだったり勧誘的なことは今までに何度かされたことがあっても…そういうのは大抵、相手の身分を尋ねればボロが出てくることが多かった。

 言い方はアレだけど、私の身体つきを見て狙ってきた人達が声を掛けるきっかけとしてそういった立場にあると称して近づいてくることも少なからずあったのだ。


 この人は女性だから、多分そういう目的ではないんだろうけど…だとしてもここまで圧倒される勢いのまま迫られると押し切られそうになる。

 だからその流れを一度断ち切るためにも正体を尋ねようとして──少し悩む仕草を見せていた女性が、鞄から取り出してきた一冊の見覚えがある()()を目にした瞬間にこの場の空気は変わった。


「こういう雑誌って見たことない? あなたくらいの女の子の中では有名だと思うんだけど!」

「あっ…はい。一応読んだことはあります。でも、これが何か…?」

「あらそう! なら話は早いわね。それだったら…()()を見てもらえれば分かってもらえるかしら?」

「え…………えっ?」


 そこで示されたもの。

 それは私も何度か見たことがある、同級生くらいの女子なら一度は目にしたことがあるだろうと言えるくらいに有名なファッション雑誌だ。


 脈絡もなくそんなものを取り出してきたこの人の動向はよく分からなかったけれど、まぁ実際に何回か読んだことがあるのは事実なので誤魔化すこともせず素直に頷いた。

 すると…どうしてか。

 私のその返答を聞いてさらに笑みを深めた女性はそのまま雑誌を開き、とあるページを見つけるとそれを開いた状態でこちらに向けてくる。


 ただ、そこで見せられたものはどうやら最近話題のファッションデザイナーについて特集するインタビュー記事のようだった。

 しかしこれだけならそこまでおかしな点も無い。これだけの範囲に収まっていれば。


 …だけど、そこにあった一つの要素が私の意識を根こそぎ引き寄せてしまう。

 それは少し見てしまえばすぐに分かるものであって、何よりも明確な点。


 ──至近距離で開かれた見開きページに堂々と、今すぐ目の前に立っているこの人と()()()な女性の姿が。

 いや、どう見ても同一人物としか判断できない人にまつわるインタビュー記事が一ページ丸々載せられていたのを認識して思わず混乱してしまいそうになる。


 それでもそんなリアクションを見せてしまったからか、目の前の人には充分すぎる反応だったらしくとても良い笑顔を浮かべられてこう言われた。


「ふっふっふ…驚いたでしょう? こう見えても私、普段は色んな場所でファッションデザインのお仕事をしているの。それなりに有名だったりするのよ?」

「…す、凄いです。でも何でそんな人が私に…?」

「そう、そこなのよ! …実はね、これにはとても深い事情があるの──…」


 何と、驚くべきことにこの女性はその怪しさとは裏腹にかなり有名なファッションデザイナーの人だったらしい。

 言葉だけで説明されていたらそれを疑い続けていたかもしれないが、こうして実際に証拠を目の当たりにさせられてしまえばそういうわけにもいかない。


 実際この雑誌は私も何回か読んだことがあるし、特集記事の方も偽物ではなくしっかりとした本物であることは一目見ればすぐに分かる。


 だけど…そうなると尚更分からなくなってしまう。

 この人がそういう職業なのは分かったし、知名度もきちんとある凄い人なのは理解出来た。

 だったらどうして、私を見て声を掛けに来たのか?


 その一点だけがこうして説明された現在でもハッキリとしていなくて、思わず質問してしまったけどそこで返ってくるのは…どことなく深刻そうな面持ちとなったこの人の表情。

 明るい雰囲気から一変して言葉の節々からも苦々しい感情が読み取れそうなくらいで、何か一筋縄ではいかない経緯があったのかと身構えてしまいそうになる。


 …実際のところは、全くそんなことも無かったんだけど。


「今も言ったけど私はね? ずっと最新の流行だったりお洒落なファッションを取り入れたお洋服を作ってきたの。時には特定の人に合ったファッションなんてものも作って来たわ!」

「それは……流石ですね。私なんかじゃお役にも立てそうにないですけど…」

「んふふ、ありがと。…だけどね、最近は中々これだ! と思えるような()()()に出会えてないの……もちろんデザイナーとしての誇りにかけてモデルさんがいなくても最高の物は仕上げて見せるけど、それでも実際に具体的な相手を想像しての仕事とは雲泥の差が出ちゃうから…」

「な、なるほど………ん? …えっ、じゃ、じゃあもしかして……」

「ここまで言ってもらえたら理解してもらえたかしら? そう、そこで貴方よ! 貴方ほどの逸材は私の人生でもそう見たことが無いし、是非とも私のモデルになってほしいの!」

「え…えぇぇぇっ!?」


 と、そこまで短くも長く感じられた話を一通り聞いて理解できた。


 要するにこの女性は知名度も腕も凄いデザイナーさんだけど、ここ最近は自分の理想とも言えるモデルに出会えていなかった。

 だから偶然にもここを通りがかった私に目を付けて、どうにかこうにかしてその役割を担ってほしい………ということ、だよね。多分。


 ………ムリムリムリ!? 絶対無理だよ!?


「む、無理です無理です!? 私にそんな大役務まりませんから!」

「いいえ、そんなはずないわ! 私の見る目に間違いなんて無いもの! 長くこんな仕事をしてきたけど、あなたほどの宝石の原石に出会ったことは数える程度よ! …あと、すっごい可愛いから心配しなくてもすぐに業界のトップで活躍できるし!」

「モデルのトップなんて狙ってないんですけど!?」

「まさかこんなところでこれだけの素材に出会えるなんて…今日はツイてないかとも思ったけど、思わぬ幸運だったわ! …ね、ねっ! 貴方にも協力してほしいの! 一回だけでもいいから…!」

「いえ、だから私は………う、うぅ…!」


 いくらこの人がどれだけ凄い人であっても、私にモデルなんて大役は絶対出来ない。

 そもそもそんな経験をしたことも無い素人が簡単に活躍できる世界でもないことは疎い私であってもすぐに分かる。

 だからここでしっかりと断りを入れようとした、んだけど………。


 …不思議なことに、いつもならこういう場面でもキッパリと断ることが出来る私もこの女性を前にしてしまうと何故だかハッキリと断れない。

 まるで自分が苦手としている相手と対峙しているような…いや、断ることに罪悪感を覚えるほどに心を許した()()と似た雰囲気を感じているかのような。


 どちらにしてもグイグイ迫ってくるこの人の圧力と熱量を受けてしまうとどうにもたじろいでしまい、このまま言いくるめられて強い懇願を受け入れてしまいそうになる。



 ──だけどそう思った時、もう駄目かと諦めの思考がよぎった瞬間に私たち二人の間へ割り込んできた一つの人影があった。


「……おいこら、人が目を離した隙に何好き勝手やってくれてるんだ」

「あいったぁ!? ぐ、ぐおぉ…! 頭が、頭に痛みが響くぅ…!」

「………?」


 その瞬間、掴み取られていた掌に込められていた力強さは一気になくなり私の片手は解放された。

 けれどその代償と言わんばかりに、目の前の女性を全力の力ではたき落とした男の子の姿があって…そしてそれは、私にとって誰よりも頼りになる人の姿。


 だから思わず、こんな状況にも関わらず彼の姿を認識したと同時に私は喜びとどうしてここに居るのかを問う、疑問の声を上げてしまった。


「…れ、蓮くん!?」

「…美穂、本当にすまん。何か妙な真似されたりしてないよな…?」


 今しがた女性の頭をはたくという、彼らしくもない強硬的な手段を取ってきたことに驚きつつもどうしてかここに来てくれた蓮くんの存在を見て私は安堵の感情を覚えた。

 また、それと同じくらいに何故か疲れた表情と呆れ切った情緒を垣間見せる彼の面持ちを見て…さらに深い困惑を生じ得なかった。


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