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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第八七話 怪しすぎる勧誘


「ん~っと、野菜は買えたしこっちもオッケー…なはず。買い忘れは無いよね? うん、多分平気!」


 今日も今日とて、気持ちのいい快晴で照らされた道から帰っていた私──鐘月美穂は、蓮くんと当番制でこなしているスーパーの買い出しで取り忘れた物が無いかチェックしながら帰路についていた。

 今晩のお夕飯を作るために必要な食材なので、一つでも失念していた物があったりしたらそれだけで予定が大きくズレてしまう。


 それは認められない。

 蓮くんの家事を任せてもらっている立場としても、何より好きな男の子に食べてもらう料理に不手際を残したままなんて私のプライドが許さないのだ。


 なのでこれでもかと確認は入念に行い、大丈夫そうだと判断できたところで再び帰り道を進んでいく。


「とりあえずメインはお肉を使って…ハンバーグとかがいいかな? それなら付け合わせでお野菜も使えるし。なら他にはサラダとかを作って……」


 その道すがら、頭の中では具体的な献立をああでもないこうでもないと試行錯誤しながら考える。

 …いつものことだけど、やっぱりこうしてご飯のことに関して考え込む時間は少し楽しい。


 他の人からすれば面倒で手間もかかる作業だと言われるかもしれない料理であっても、私にしてみれば全くそんなこと思わない。

 むしろその手間暇かけた時間があるからこそ、目の前で食べてくれた人が美味しいと言ってくれた瞬間に全ての労力が報われた実感を味わえて嬉しくなるくらいだし。


 あとは何より、蓮くんの体調と健康面を大きく左右するご飯を全部私が管理しているって事実を強く感じられるから好きっていうのもあるかな?

 …もう今となっては、自惚れかもしれないけど蓮くんの胃袋は私の料理でガッチリ掴み切ったと言っても過言ではないはず。


 もちろんだからと言ってこれからも手を抜くつもりは微塵もないし、今まで以上に気に入ってもらえるように努力は続けていくつもりだ。

 まぁそれでも、好きな相手の胃袋を掴めた功績が大きいことに変わりはないし…これでますます蓮くんは私の傍から離れにくくなったはず。


「………ふふふ、順調に外堀は埋められてきてるね。この調子なら蓮くんが私を好きになってくれるのも時間の問題かな」


 ズルいと思うならそう言えばいい。

 だけど私は生まれて初めて好きになってしまった男の子を自分の近くから逃がすつもりは毛頭ないし、そのためなら彼の一番近い場所にいるというこの状況も最大限利用してみせる。


 だから肝心の蓮くんには少し申し訳ないけど…私みたいな悪い子に狙われちゃったことは諦めてほしい。

 着々と彼自身の印象向上と同時に外堀も埋めていき、周りが入り込む余地もしっかりと潰しておいた上でこちらの好意も明確に示しておいた。


 あと残るのは、蓮くん本人の気持ちだけであって…多分それだってもう少しの辛抱だろう。

 根拠なんて立派なものはない。もしかしたらあと少しくらい時間はかかるかも。


 …でも、そんなのは些細な違いでしかない。

 もう他の子に彼を渡してあげる気は全くない上に、たとえ今更蓮くんの魅力に気が付いた子がいたとしても既に彼は私のものだからそこは我慢してもらう他ない。


 全くとんでもない女子がいたものだ。…まぁ私のことだけど。

 それでも仕方がない。むしろ責任があるとするなら私をここまで好きにさせてみせた蓮くんにこそ責任があると思う。

 なのでその責任を取って今すぐにでも私との関係を見直すべきじゃないかな?


 ……いいや、流石にそれは気が早すぎるね。

 前に少し聞くことが出来た話ではあるけれど、蓮くんは中学時代に色々と人間関係でトラブルが起きてしまい…その際の出来事で自分の価値が揺らいでしまった過去がある。

 今となってはそこから生まれた影響も落ち着きを見せて、私にも信頼感を見せてくれているけど…それでもまだ禍根が全部消えたわけじゃない。


 まだ蓮くんの中にはあの時の辛さが残っているし、きっとそれが完全に消える日はやってこないのだろう。

 …だけど、私がすることは最初から最後まで何も変わらない。


 彼がそれを辛いと思ってしまうのなら、私はその苦しみが和らいだと思える瞬間まで隣でずっと支え続ける。

 どれだけ時間がかかってしまうとしても、蓮くんがもう大丈夫だと思えるその時まで横に立ち続けて……いつか、今よりも先の関係に進んでみせる。


 そのための覚悟などとっくの昔に固め終わってしまっているのだ。

 時間はまだまだ焦らなくとも残されているのだから、ゆっくり進んでいけばいい。

 ……あんまりゆっくり過ぎても今度は私の我慢が持つかどうかの話になってきそうだけれど、そこは頑張って耐えるということで………はい。


 多分、大丈夫…なはず。うん、きっと出来るはずだよ私なら。


 …ま、まぁそんなことよりも! 今はどっちかというと()()()()()も別にあるし!

 その話題というのも、ちょうどついこの間耳にしたばかりの情報になる。


 というのも………。


「蓮くんの()()()()、かぁ…どんな人なんだろう? …聞いただけだと、奔放な人って感じだったよね」


 私がスタスタと道を歩いていく中で考えるのは、ごく最近新しく彼から聞けた事。

 蓮くんの身内…それもご両親にまつわる話であって、私にとってはかなり重要なことでもあった。


 何せ、将来的には……その、そういう仲になるかもしれないんだし?

 ちょ、ちょっと気が早いかもしれないけど…相手のご家族に関する話というのはあの時こそ平静を装っていたけれどその実内心ではかなり真剣に聞いてたりしていた。


 でもやっぱり、そんなだからこそ何よりも他を差し置いて気になるのはあの夕食の席で蓮くんが見せたリアクション。

 自分の母親のことを語る際に垣間見えた考え込む様な仕草であって、ただお母さんのことを説明するにはあまりにも奇抜な会話内容も強く記憶に残っている。


 …うーん、でも今考えてみてもどんな人なのかよくわからない。

 せっかく聞けたんだからせめて写真くらいあれば見せてもらえれば良かったのに…あの時は会話に夢中でお願いしてみることを忘れちゃってたんだよね。


 帰ったらもう遅いかもしれないけど蓮くんにお願いしてみようかな。そうしたらお顔くらいは分かるかもだしね。

 …むふふ、これも外堀を少しずつ埋めていくための作業の一環だ。


 将来的には家族となるかもしれない相手のことを知っておくのは絶対損にならないし、蓮くんを育ててくれたご両親なら尚更強くそう思う。


「あっ、だけどこの場合だと義理の家族ってことだし……お、お義母さんっていうことになるのかな? …ふ、ふへへ……悪くないかも───うん?」


 だから歩いていく道すがら、思わず考えていたことの内容も相まって我ながら気持ち悪い笑い声が零れてしまった道中。

 あと少しで帰れる場所までやってきたところで通りがかった見慣れた一つの公園にて、私は何気なくその奥に視線を向けて………ふと、一人ベンチに座っている()()の姿が目に入ってきた。


 ただ、それだけならきっと気にすることもなく通り過ぎていただけの光景。

 でも今の現実はそうなっておらず、私が見た先に座り込んでいた女性というのが遠目からでも分かるほどにお洒落な様相を呈していたからだ。


(うわぁ…! あの人、すっごい綺麗だし…服もお洒落なセンスしてるなぁ…どこかでそういうお仕事してる人とかだったりするのかな? ……でも、どうしてあんなに()()()()感じでいるんだろう?)


 私の視線の先にいる女性は少し明るめの配色をした髪を揺らし──多分、ピンクブラウンとかそっち辺りの色に染められてふんわりとした髪質を保っている髪だろうけどその下にある顔立ちもとてもよく整っている。

 大人らしいというよりは愛嬌があるっていう感じの人で、それでも私よりはずっと大人らしい落ち着きのあるオーラみたいなものが全身から漂っていた。


 …だけど、やっぱり一番に目を引くのはそのファッション。

 ノースリーブの黒ニットに合わせられた花柄のこちらもまた黒を基調としたロングスカート…足元が大きく開いてるからきっとフレアスカートだろうけど、言葉だけでまとめてしまうとシンプルにも思えるその着こなし。


 でも不思議とこの人が身に纏っているだけで自然とモノトーンの配色が人目を惹き付けるカジュアルさを見せていて、不思議と魅入られてしまいそうになる。

 センスがある人というのはああいう人のことを言うのだろうと、そう指摘されてしまえば疑うこともなく納得してしまいそうなイメージの女性だった。


 ………なんだけども、その一方であの人はどういうわけか傍目で見ていてもすぐに判別できるほどに困っていることが丸わかりな状態だ。


 どうしてそんなことが分かるのかと言われてしまえば…多分あの光景を見てもらった方が一番分かりやすいと思う。

 何せ、目と鼻の先ほどの距離にあるベンチで座り込んでいるあの女性は横に手荷物と思われる鞄を置きながらも、全力で()()()()()()()のだから。

 あんなのどう見ても困っている人の仕草以外の何者でもない。


(何かあったのかな…? …少し気になるし、あまりジロジロ見るのも悪いだろうから…ちょっぴりだけ近くに行って大丈夫そうか見たら帰ろっか)


 正直近づくのもどうかとは思ったけど、一度あんな人を見てしまったらどうしても気になってしまう。

 こういう場面に過干渉するのも良くないことは理解しているものの、私だって警戒心を忘れたわけでは無いのでほんの少しだけ近寄ってみた後にはそれ以上関わることもなく帰宅するつもりだった。


 ……あるいは、その判断が間違っていたのか正解だったのかはこの時に私には判断することも出来なかったけど。


 どちらにせよそう決めてしまったらすぐに行動に移すのが私の良さでもあるため、今回も例に漏れず帰り道のルートから逸れて公園に足を踏み入れていく。

 すると…あの女の人に近づくにつれて、少しずつ彼女が何かをぶつぶつと独り言を呟いているらしいことが分かってきた。


「………参った、参ったわ……もうこんなに探してるっていうのに、どうして理想的な子が見つけられないわけ…」


(……何だろう。誰か探してる人でもいる、って感じなのかな。だとしたら私にはあんまり関係なさそうなことだね。お邪魔しないように離れておこう…)


 ぼそぼそと喋っていたことなので確証は持てないけど、微かに聞き取れた言葉の断片と大体の雰囲気からこの人が何かを探しているらしいということは何となく掴めた。

 あまりにも悲壮感漂うリアクションだったから何事かと思っていたけど、そういうことなら私が深く介入するのも失礼だろう。


 もしかしたら力になれることがあるのかもしれないけど…こんな子供が一人いたところで何かできる保証なんてないし、下手に茶々を入れたらそっちの方が迷惑になっちゃう。

 だから気づかれてしまう前にそっとこの場を離れようとして…………不意に、パッと顔を上げて私の方に視線を向けてきた女性と偶然にも目が合ってしまった。


「…………ん? んん?」

「あっ…す、すみません。さっきからジロジロ見たりして…すぐに離れますから──…」

「───み、()()()()

「………………へっ?」


 ──その瞬間のことを、私はなんて評価すればよかったんだろう。


 一瞬視線が交わっただけの私をポカンと見つめた後、数秒間動くことを忘れてしまったかのようにこちらを凝視していた女性。

 もしや私がこちらまで近寄ってきたことが気に障り、文句でも言われるのかと思い先んじて謝罪を言おうとしたタイミングで……謎の『見つけた』という言葉を向けられるというのは。


 しかし向こうはその一言だけ呟くとそれまでの沈み込んでいた空気は何だったのかとツッコみたくなるほど俊敏な動きでこちらまで歩み寄ってきて、未だ困惑しかない私の元まで迷うことなく近寄り……こう言ってきた。


「ふ、ふふふ……やっと、やっと見つけたわ…もう逃がさないわよ」

「……え、あ、あのぉ…私に何かご用でしょうか…?」

「あっ、急にごめんなさいね! ね、もし良かったらなんだけどあなた──()()()とか、興味あったりしない?」

「……………はい?」


 ………え、勧誘?


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