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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第八五話 お目覚めはどう見える?


「…………ん、んんっ。……はれ? わたひ、にゃにして──…」

「おっ、起きたか美穂。随分ぐっすりだったみたいだな」

「………れん、くん…? あ…わたし、いつの間にか寝ちゃってたんだ…」


 美穂が蓮も気が付かぬ間に睡眠時間へと移行していた後。

 あれから彼が万が一にも風邪を引いてしまわないようにとブランケットを持ってきたりしていたわけだが、それ以外には特別変わったこともせず。


 過剰に気を遣いすぎても今度は美穂を心地よい睡眠から覚まさせてしまう可能性もあったので、今回は配慮も程々でいい。

 そう思い掛けていたブランケットも途中ではぎ取られるようなこともなく、むしろそれでますます寝息を深めていたことから選択肢としては間違っていなかったと思いたい。


 しかしそんな時間もこの時をもって一区切りとなったらしく、ちょうどキッチンから飲み物を取りに戻っていた蓮がソファを通りがかったタイミングで美穂が微かに身体をもぞもぞと動かし始める。

 どう見ても意識が目覚めかけている段階。


 今回の美穂もその例に沿っており、ゆっくりと身体を起こしつつもまだはっきりと目が覚めたわけでは無いのか若干呆然とした目つきで辺りと蓮をジッと見つめていた。


 …それとこれは完全なる余談であるが、寝起きの美穂という珍しい姿を目の当たりにしたことに若干蓮も不思議な気分となったそうな。


 気分がポヤポヤとしているのか、気のせいか彼女の周辺に泡が飛んでは散っていく風景すら幻視出来てしまいそうな雰囲気。

 日頃のしっかりとした態度とはどこまでも対極的な気を緩め切った美穂の状態に、上手く言葉では表現できないが少々グッとくるものを感じた。


 まぁ、そこは良いだろう。

 ともあれ美穂が寝入ってから経過したのはおよそ一時間弱程度ではあったものの、それでも彼女からしてみればまとまった睡眠時間を確保できたと言えたのだろう。


「……んむぅ…まだちょっと眠い、かも……でもこれ以上お昼寝したら夜に寝れなくなっちゃうし、早く起きないと…」

「別に寝てても良いんじゃないか? 時間が遅くなってきたら俺も起こすし、せっかくの休みなんだから美穂もさっきみたいに気兼ねなく眠っても大丈夫だぞ」

「だけど蓮くんの前でずっと寝てるのは、だらしないし……………蓮くんの、前で……まえ、で……………えっ?」

「ん?」


 だからようやく彼女にも落ち着ける時間を得られたことは蓮にとっても喜ばしいことであって、眠たげに目元を擦っていた美穂にまだ寝ていても構わないと伝えておいた。

 しかし彼女は彼女で持ち合わせた責任感の強さゆえか、まだ眠そうにしていながらも賢明に意識を起こそうとしている。


 ………ただ、そんな最中にあって。


 目元を擦り、少しずつ意識もはっきりとしてきたのだろう。

 微睡みによって曇りがかっていた思考もそれに伴って回り始めたようで、そこで初めて焦点が合ってきた瞳を正面に向けた美穂は改めて傍にいた蓮の存在を認識し……()()()()


 ピシッ、という効果音がこれ以上なく当てはまりそうだった彼女の態度。

 直前までの眠たげにしていた挙動から一変し、どうしてかそんな反応を見せてきた美穂は…何故か困惑と狼狽えの色を同時に表出させながらこう確認してくる。


「ちょ、ちょっと待ってね? その…一個だけ確認させてほしいんだけど」

「何だ?」

「もしかして………あ、あの。私が寝てたところ…蓮くん、見た?」

「え? …うんまぁ、見たと言えば見たかな。あぁ、でも別に変なことはしてないぞ? 強いて言うなら風邪引きそうだったからブランケット掛けたくらいで──…」

「……~~っ!?」

「うおっ!? 美穂、急にどうした!?」


 よく分からない質問内容ではあったが聞かれたのなら答えるのが筋。

 その答えに関しても要領は得ないが近くに行ったときに彼女の寝ている姿は目撃していたため、素直に明かす。


 すると……それを聞いた美穂はというと、彼女の何かが限界を迎えたかのように一瞬で顔を赤らめると突然自分の身体を傍にあったブランケットで包み込む奇行に出た。

 あまりにも唐突にそんなことを、しかも目の前でされたので傍観していた蓮も思わず動揺の声を上げてしまったがその程度で彼女の動きは止められず。


 あっという間に薄い布地で身を包み込んでしまった美穂の動向を見守ることしか出来なかった蓮であるが…その疑問に対する回答は、次に放たれてきた彼女の心からの叫びが何よりも雄弁に物語ってくれていた。


「う、うぅ~…! 蓮くんに、()()を見られたなんて恥ずかしいよ! 気を付けてたはずだったのに、油断してた…!」

「……え、寝顔?」

「…そうだよ! あんな変な顔見せたくなかったのにぃ…油断してたところ、見られちゃった…」


 未だブランケットにくるまったままの美穂が上げた心からの絶叫。

 しかしその内容というのが何とも予想の斜め上から来るものであって、自分の()()()()()()()()()が恥ずかしいとの叫びをしてきた彼女の発言に蓮も呆けてしまう。


 が、まだ事の深刻さを把握しきれていない彼としてはそれくらい気にすることでも無いと思えてしまった。


「……別に寝顔くらい良いんじゃないか? そこまで変なことも無かったし、少しくらい気を抜くのも悪いことじゃないんだからさ」

「駄目なの!! …だって私、寝てるところはあんまり可愛くないし…意識してないから涎とか垂れてたら最悪だもん…」

「そこまでか?」

「うぅ……絶対幻滅されたよ…寝てる最中はだらしなくしてるって思われた……」

「いや思ってないから。…って、聞いてないし」


 二人の間にやけに温度差が存在してしまっている今回の一悶着ではあるが、彼が思っている以上に美穂はこのことを重く考えてしまっているようだ。

 別に眠っていたところを目撃されたくらいで蓮が彼女に幻滅することなどあり得ない上に、むしろそうして気の抜いた姿を見せてくれた方が微笑ましさを覚えるので良いくらいなのだが。


 それでも今の彼女は想像以上に気分を沈めてしまっており、蓮の励ましの言葉さえも届かず布の塊の向こう側でめそめそと落ち込んでしまった。


 ……仕方ない。こうなったらただ呼びかけるだけでは美穂も調子を取り戻さないだろうし、ここは蓮の方から全力で慰めに行くしかない。

 そう決断し、現在進行形で暗い雰囲気を纏っている彼女の下へ近寄り静かに声を掛ける。


「──ほれ美穂、いつまでもそうやってくるまってたら暑いだろ? 俺はその程度で幻滅なんてしないから安心しろって」

「蓮くん……でもでも! …私の寝顔、変だったでしょ? 無理に気を遣わなくても──」

「いや誤魔化しとかじゃなくてさ。本当におかしなところなんて無かったから。むしろ美穂の寝てるところなんて…素直に可愛いと思ったよ」

「……へっ!?」


 こんな状態の美穂へ普通に言葉を掛けたところで、まともに取り合ってもらえないことは目に見えている。

 であれば蓮がするべきことは今彼女が落ち込んでしまっている原因そのもの。


 彼に自分のだらしない一面を見せてしまったと思い込んでいる美穂に対し、それは全くだらしないなんてものではないと。

 最初に目撃した瞬間に思った事……要するに寝顔さえも()()()()()()()という事実を素直に明かすことで安心してもらうしかない。


「そもそもの素材が美穂は良いし、どんな状態でも似合ってるのは間違いないだろ。むしろ油断してるってことはそれだけこっちに気を許してくれてることの証拠とも思えて嬉しかったよ」

「ひゃ、ひゃひ…っ!?」

「だから心配しなくても、どんな姿だろうがその程度で美穂に幻滅なんてしない。せいぜい新鮮なところを見れて珍しいと思うくらいで──…」

「──ま、待って待って!! それ以上は止めて!?」


 だから彼の方も、普段は口にするのも少々わざとらしいかと思いあえて言葉にはしていなかった本心を隠さず暴露した。

 たとえどのようなシチュエーションや状況であろうとも、美穂がどんな過ごし方をしていようとも。


 常に隣でその姿を見てきた蓮にとっては少し気を緩めた場面を見せられたくらいで失望することなど無い。

 それどころかさらに彼女の持つ魅力が増していくだけだと熱弁しようとしたところで…焦ったような声を美穂が上げる。


「……その、もう蓮くんが私のことをどう思ってくれてるのかはよく分かったので。これ以上は十分なので……」

「そうか? 必要ならもう少し言うぞ?」

「………それは、また今度聞かせてください。今は……しんじゃうので」

「また大げさな評価になったな…ま、美穂が調子戻ったならいいか」

「……蓮くんの意地悪」

「…何で?」


 布地の向こう側から、頼むからそれ以上はもうやめてくれと懇願されてしまったので蓮の褒め言葉は一旦中断される。

 すると美穂はどことなく熱っぽくも思える視線だけを彼に向けながらも、潤んだ瞳をもって彼の発言が過剰な威力過ぎると暗に文句を言ってきた。


 それでもこれくらいは言っておかなければ彼女には伝わらないだろうし、必要最低限の量を見極めたつもりではあったのだが…まぁ、それが美穂には少なからず効いたようだ。

 何はともあれ蓮の主観を無事に伝えられたのなら言う事もない。


 …最後にムスッとした口調で彼女から意地悪などと評価されてしまったのは、納得いかなかったが。


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