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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第八一話 守りたいという感情(※勘違い)


「う~ん……さっきみたいに水を掛け合って遊ぶのも楽しいけど、こうやって流されるのも気持ちいいかも…」

「そんなら良かった。でもそれでバランス崩して落ちたりしないでくれよ?」

「分かってるよ~…」


 美穂による水着のお披露目もあり、それまでは肌の露出も控えていた彼女もここからは遠慮も無しだと言わんばかりに可愛らしい水着姿のままプールサイドを悠々と歩いて行く。

 そこに付き添う蓮であるが、今彼らが何をしているかというと……多々ある種類の中でも最大の規模を誇る流れるプールにやってきていた。


 さほど水が流れていく勢いも強くなく、緩やかに流されるだけのもの。

 しかしその緩やかさが逆に心地よく、美穂も…ここに来る途中で見かけた売店にて浮き輪のレンタルがあったためせっかくなので借りて行こうということになり手に入れてきた浮き輪で身体を支えさせている。


「だけど良かったの? 浮き輪も私が使う一個だけじゃ蓮くんが使えないのに…」

「いいよ。俺は特に必要としてないし、無駄に二つあってもスペース圧迫するだけだからな。それよりはこうして普通に入ってた方が楽しめるからさ。美穂が使ってくれ」

「そっかぁ…ならもう少し、浮き輪で楽しませてもらおうかな…」


 ぷかぷかと流れる方向のままに揺れる浮き輪に身を横たわらせながら、優雅な時間を満喫する彼女は…されど。

 自分一人分しか浮き輪を持ってこなかった蓮の行動に申し訳なさを感じたようだが、もとよりそこは気にしていないし特に彼は必要ともしていないので問題ない。


 元々は美穂がこれを使ったらより楽しめるのではないかという思いつきから生じた発案だったために、彼女が満足してくれているのならそれで充分なのだ。


「はふぅ…だけどこうやってゆらゆら動く浮き輪に乗ってると、いつの間にか寝ちゃいそうだよ」

「…頼むから眠らないでくれよ? 流石にそれは危険だからな」

「分かってるもーん。いくら私でもここで寝ようとはしないし…それに、せっかくの蓮くんとの()()()()()なんだから、この機会を無駄にはしないよ! …ほらほら、今なら普段は服に隠れてる私の胸とかお尻も見放題だよ?」

「はしたないこと言うんじゃない。周りに人もいるってのに…」

「ふーん…? じゃあ、もし周りに人がいない状況だったら蓮くんも見てくれるって解釈でいいのかな~?」

「ぶほっ!? …どんな状況だろうと見ないっての。調子に乗るな」

「むっふふ~…やっぱりこの格好だと、多少は蓮くんも意識してくれてるみたいだね。良い傾向だよ」


 それに今は二人であてもなく水面を漂い続けているわけだが、こんな変わり映えのないシチュエーションであろうと彼女が楽しんでくれているのは手に取るように分かる。

 一目確認しただけでも心底満喫したように声を漏らし、時折近くから浮き輪を押して誘導している蓮へと楽し気に声を掛ける様子からも明らかだ。


 …まぁ、その途中で彼女が解放的な水着姿に様相を変化させたことで曝け出された暴力的な身体つきを見せつけられてきたのだが。

 たとえ場所を変えようとも、そこがチャンスだと思えば臆することなく攻め込んでくる美穂の姿勢は変わらぬらしい。


 付け加えるなら蓮の方も、日頃ならこれくらいのやり取りは軽く流せるはずなのだが…やはり普段とは異なる状況下ゆえだろう。

 認めたくはないが彼女の言う通り、いつもであれば布地の下に隠されているはずの美穂の過剰に実った膨らみが身じろぎ一つする度に誘惑してくるかのように目の前で揺れてくるため、どうしても視線と意識を手繰り寄せられそうになる。


 無論、そんな視線を向けないように努めているゆえ露骨な態度を出すことはないがそれでも多少は動揺も表に出てきてしまう。


 美穂からすれば蓮のそうした反応は願ったりなのだろうが、彼としては仲の良い相手に。

 それも少なからず近い距離にいる彼女をそんな目で見たくはないので、両者の間では必死に相反する思考の攻防が繰り広げられる始末である。


(はぁ…美穂のやつ。こんな誰が聞いてるかもわからない場所で何を言ってるんだか…実際、()()からも偶に視線は向けられてるってのにさ。無防備が過ぎる)


 ……ただ、そんな会話の一方で美穂が思い至っているかどうかはともかくとして。


 蓮は一見穏やかに見えるこの風景の片隅にて、そこかしこから降り注がれる美穂に向けられた()()()()()を見逃してはいなかった。

 しかもその向けられた目の主は大半が男のものであって、当然ながらそこに込められた感情も純粋な好奇心というよりはもっと生々しい欲に溢れた…分かりやすく言ってしまえば、美穂の身体つきを見て注がれたものだ。


 もちろんそんな視線を向けてしまう気持ちは理解できないわけじゃない。

 彼とて美穂の魅惑的なスタイルに目を向けてしまいそうになる場面など多少なりとも経験しているし、他の誰かのことを指摘できる立場にはないことも重々承知の上。


 …だとしても、こうもあからさまに彼女のことを無遠慮に見てくる者の数が多いと気分も辟易としてしまいそうになる。

 そのことを張本人に伝えるわけにもいかないし、仮に教えなくとも彼女なら自分で気が付いていそうでもあるが…気持ちのいいものではないことだけは確かだ。


 今も尚気にした気配もない態度で蓮のことだけを愛おしげに見つめている彼女の姿を見れば彼が過剰に気に病むことではないとしても、念のため頭の隅で気にかけておくくらいはしておいた方が良い。


(こんな場所だ。ただでさえ美穂は目立つんだし、開放的な空気にテンションも上がって余計なちょっかいを出さない輩がいないとも限らない。…今は俺一人なんだし、出来ることなんてたかが知れてるが守ってやらないと)


 ここに至るまでの流れからも分かり切ったことであるが、現在はこうした時に頼りになる友人の京介も近くにはいない。

 そこにないとは思いたいが美穂の凶悪な魅力に釣られて引き寄せられる輩が現れた場合に関しては、蓮の方で対処をしてやらなければ。


 彼が取れる手段が両手の指の数にも満たないとしても、彼女とこのような施設に赴く機会などそうそう無いのだから万全を期しておいて損はない。


 よって蓮も彼なりに覚悟を固め、美穂には気づかれない程度に──ただし警戒心を緩めることはせず、注意深く未だに感じ取れる肌にまとわりつくような視線に対して牽制するように彼も見つめ返していた。

 ……が、バレない様にと細心の注意を払っていたのにも関わらず肝心の()()にはあっさりとその挙動を見破られた。


「うん…? どうしたの蓮くん? 辺りをキョロキョロ見て、何か気になるものでもあった?」

「へっ? …あ、いや、気になるものがあるわけじゃないんだが…むしろ気にするべきものというか」

「なになに? 気にするべきものって………はっ! ま、まさか…他の女の人の水着に見惚れてたの!? 蓮くんが、う、浮気…!?」

「…違う。ていうか浮気って何だよ。そんな評価される謂れもないだろうに」

「駄目だよ! 見るならすぐ近くに私の水着があるんだから、こっちを見てくれたらいいのに…! よりにもよって他の人に蓮くんの目を奪われるなんて…!」

「だからそうじゃないって! …何て言ったらいいものか」


 注意のためにも周囲を見渡していた蓮の微かな変化を鋭敏に察知してきた美穂の目からは逃れられず、軽い調子で尋ねてきた美穂の言葉に蓮は──しかしながら。

 流石にこの視線を彼女に伝えるのは如何なものかと一瞬悩んでしまい、その迷う素振りが仇となってしまった。


 彼の言い淀む様子からどうやら美穂はおかしな方向に勘違いをしてしまったらしく、とんでもない言いがかりをつけられてきた。

 …そもそも付き合ってもいない関係性で浮気も何もないだろうに、その辺りの事情は彼女にとって些細なものなのだろうか。


 どちらにせよ一度そう思い込んでしまうと納得のいく事実を提供するまでこちらの言葉など聞く耳も持たない美穂のことだ。

 きっと周囲の視線に注意を払っていたと答えれば納得はしてもらえると思うが、そう伝えるのはあらゆる意味で避けたいところ。


 だが言わなければ言わなかった分だけ美穂の勘違いが加速してしまうことも事実で…仕方がないと最終的に結論付ける。

 ここは穏便に事を済ませるためにも正直に白状してしまった方が良い。


 そう判断して蓮は簡潔に、しかし彼女にも納得してもらえるよう最小限の言葉で事情を説明する。


「別に誰かを見てたわけとかじゃない。単純にこれからは俺が()()()()()()()()()()()周りを見てたってだけだよ」

「………ひゃいっ!?」

「だから他のところに視線を向けてたんだ…これで納得してもらえたか?」

「…………は、はい…れ、蓮くんが…私を……守ってくれるの?」

「そりゃそうだろ。何があるのか分かったものじゃないんだし、頼りないことは百も承知だけどさ」

「そんなことないよ!! …え、えへへ…そっかそっかぁ…蓮くんは、私のことをそんなに大切に想ってくれてたんだ…」

「……ん?」


 詳しい事情の部分を説明すれば、美穂にはおそらく納得してもらえた。

 ……ただ、どこか蓮の()()()()に致命的な誤りが発生したような気がする。


 何も間違ったことは告げていない。言ったことは全て事実だ。


 蓮は辺りから注がれている視線の類から美穂をガードしようと最善を尽くすことに決めているし、全てから守り切る保証は出来なくとも自分に出来ることは全てするつもりだった。

 ゆえにこう伝えたのだが…どことなく、お互いの認識には致命的な齟齬が生じているように思えてならない。


 彼の言葉に最大級の衝撃と困惑を与えられつつも、次第にその意味を理解して蕩け切った笑みを見せていた美穂。

 心から嬉しそうな表情を露わにする彼女の表情を前にして、蓮は何だか自分の発言の意図を誤って汲み取られてしまったような予感を感じたものの、惜しいことにその受け取られ方までは察せなかったのでまぁ構わないかとそれ以上は補足も修正もしなかった。


 そうして二人の勘違いは更に深まっていき、美穂が彼の発言の正しい意味を理解するのに数日の期間を要することになるのであった。


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