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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第八〇話 お披露目された肌色


 …辺りに人の気配も感じられない死角となっていたスペースに連れ込まれ、一体何をするのか勘ぐりつつも彼女の動向を見守っていた蓮だったが。

 まさかの唐突に過ぎる美穂の、水着姿をここでお披露目するという宣言に度肝を抜かれながら…されど、心の準備も整えていなかった身ではあからさまに動揺してしまう。


 しかし肝心の美穂はそんな彼の挙動にも構うことなく自分で口にした宣言を全うし、徐々に下ろされていくファスナーが完全に解放され……同時に、それまで彼女の肌を日光からも人の視界からも遮っていたラッシュガードも一気に脱いでいく。

 すると、そこで露わになった彼女の様相は───彼の拙い想像など容易く上回っていくほどに、魅力で溢れすぎていた。


「……どう、かな。私の水着…蓮くんから見て、正直な感想が欲しいんだけど…」


 …正直、白状してしまえばずっと気になってはいた。


 元を辿ってしまえば蓮自身が意図していなかったとはいえ要望したことであるし、周囲の目にむやみやたらに彼女の肌を晒させたくはない…なんて気色の悪い我儘を健気にも体現してくれたのが今の彼女なのだ。

 だが、その一方で美穂がどんな水着を今日選んできたのか。


 先日付き添った買い物でも様々なタイプの水着を試着し、落ち着いたものから派手なもの、果てには少々過激すぎるものまで見てきたが…この日に彼女がどんな水着を選んだのかはついぞ分からなかったのだ。

 ゆえにこの瞬間、突発的にお披露目された美穂の水着姿を眼前にして蓮は…思わず声を失ってしまう程驚くのと同時に、情けないことだが間違いなく見惚れてしまっていた。


 ──そんな状況下で、美穂がチョイスしてきた水着はというと…簡潔に言ってしまえば全体が淡い水色で彩られたビキニだった。


 けれどもビキニとはいえどそこまで露出の激しいものでなく、胸元には可愛らしいフリルの装飾が施されているため本来なら強調されていただろうスタイルもある程度は隠されている。

 …とはいっても美穂の豊満な肢体を完全に忍ばせることは出来ず、凶暴さをこれでもかとアピールする胸や臀部の存在感は依然として迫力が凄まじいが。


 それでも過度な露出や過剰なサイズ感でもない。

 美穂自身のスタイルの良さは十全に発揮されているが、ギリギリのところで控えめな印象も強調出来ているという奇跡的な着こなし方。


 つまるところ、彼女が買い物をしていた時に蓮が最初に試着風景を見せられたあの水着を選んできていたらしい美穂の姿に…視線を完璧に奪われてしまっていた。


「れ、蓮くん? どう…? そろそろ感想をくれると嬉しいな~、って…」

「………あ、そう、だな…」


 …その水着自体は、以前に一度見せられたから既知のものであるはずだ。

 加えて今も尚求められている感想についても、前は初見だったゆえに気が動転しかけたもののそれなりの内容を返せたはず。


 だというのに…ここがプールという非日常的な空間だからか。それとも流石の美穂も水着をお披露目することに多少の羞恥心を感じるかのような表情を見せているからなのか。

 目前にした彼女の水着姿を見て、文字通り思考が空白となりかけた蓮は不思議と──この時思っていたことを、素直にそのまま伝えてしまった。


「……可愛いし、綺麗だと…思う。似合ってるよ…すごい」

「…ほ、本当? 嘘じゃないよね?」

「いや…俺も気の利いたことを言えたら良かったんだけどさ。何というか…その、予想以上に美穂の雰囲気と合ってたから…こんなことしか言えなくて。…ごめん」

「…………ふ、うふふ…えへへぇ…そっか」


 伝え方はぎこちない上に、褒め方にしても表現がありきたりで短すぎる。

 人によってはこれで叱られてもおかしくない言葉だったろうに…しかし美穂が取るリアクションは異なっていて。


 彼の口にしてきた褒め言葉がどのような形であれ、それが本心からの言葉であると確認をするとおそらくその思いが伝わったのだろう。

 もう一度確かめるように告げられた蓮の発言を前に、今日一番の勢いでだらしない笑い声を漏らし始めた美穂は心底嬉しそうに笑顔を浮かべている。


「良かったぁ…! 蓮くんに可愛いって言ってもらえたなら、この水着を選んできて本当に良かったよ…!」

「…その、下手な褒め方で悪い。ただ、これくらいしか今は言える自信がなくてな…」

「ううん、全然いいの。…むしろそうやって伝えてくれるのは、蓮くんがそれだけ私に見惚れてくれたから、だよね?」

「……そうなる」

「だったら問題ないどころか最高の結果だよ! 最後の最後までこれを着ていくかどうか悩んだけど…蓮くんの意識を釘付けに出来たなら間違ってなかったみたいだね」


 自分の本心を赤裸々に暴かれていくのは非常に居心地を悪くさせるが、美穂の言う事も正しいだけに否定が困難だ。

 実際蓮は明かされてきた彼女の水着を見て数秒は言葉を忘れるほど見惚れていたわけで、その可憐さを前に魅了されてしまっていたのだから。


「けどそれなら…どうしてこんな隅の方にまで来たんだ? 物陰に来てまでするほどの事じゃないと思うんだが…」

「…! あ、あのぉ…そ、それはね…?」

「うん?」


 が、そうなるとまた別の疑問も湧いてくるわけで。

 この場で美穂がしたかった事については今しがたお披露目されたことからもハッキリしたものの、何故わざわざプールサイドの隅──しかも柱の陰という目立たない箇所にまでやってきたのか。


 その点だけが未だ不明瞭であったため、美穂に尋ねてみると彼女は分かりやすく狼狽えたように視線を泳がせ始めてしまう。

 明らかに動揺したような素振りであるが、どうしてそんな反応になるのか。そこに対する答えは内から湧き出る羞恥心を必死に抑え込むようにして発言してきた美穂より語られる。


「…そ、その…やっぱりこの水着だけは、蓮くんに一番最初に見てもらいたかったから。だから他の人の目があるところで見せるのは…少し嫌だったの」

「…っ!」

「……う、うぅぅ…! それが理由なの! 恥ずかしいこと言わせないでよ、もう…!」


 ──そこで伝えられた本心は、蓮にとっても予想外の衝撃をもたらすもの。


 まさか彼も、美穂が真っ先に蓮へと自分の水着を披露したいと思っていたからこのような場所まで連れてこられたのだと告げられてしまえば平静を保つことも難しくなる。

 …形や種類はどうあれ、大なり小なり好意的に思っている相手から言われたのなら尚更の事。


 もちろんそう言った彼女の方も無傷とはいかなかったらしく、己の発言を顧みて悶えるように赤らむ頬を掌で包み隠していたが…そうしているよりも気分を切り替えた方が良いと判断したのだろう。


「むうぅ…でも、これ以上余計に恥ずかしがっててもせっかくの時間が無駄になっちゃうし…ひとまず蓮くんには可愛いって褒めてもらえたからそれで良しとしておこう!」

「…なんかすまんな、ほんと」

「別に蓮くんが謝ることじゃ…これに関しては私がしたかったからやったことだもん。それより、早く二人で遊ばない? ここにずっといても暑いだけだし──あっ、もちろん蓮くんが私の水着姿を独占してたいって思ってくれてるなら、私はそれでもいいよ~?」

「……さて、早いところ行くか。美穂が熱中症になったら洒落にならないからな」

「あ、無視しないでよ! もう!」


 羞恥心に苛まれていた気持ちを振り払うように声を上げた美穂はそのリアクションを経たことで吹っ切れたらしく、すっかりいつもの調子を取り戻す。

 この状態に恥じらいを感じているよりも楽しむ方向に舵を切った方が得だと思ったようで、蓮を揶揄うような発言を口角を上げながら呟いていた。


 それと同時に彼を誘惑でもしているつもりなのか、今お披露目されたばかりの水着に包まれた彼女の豊満なスタイルを強調する動きと共に艶めかしい声色が飛ばされてくるも…そこについては大して反応もせず。

 大げさに返事をすれば余計な地雷を踏みぬくだけだと蓮も理解しているため、後ろから美穂に文句を言われつつも二人は自然とこの場での披露会を終わらせていった。


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