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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第七九話 見せるべき時


「…ねぇ、蓮くん。私たち、行きたい場所なんて決めてなかったでしょ? どうしてあんなことを琴葉ちゃんたちに言ったの?」

「…そのことな。まぁ完全に余計なお世話だとは思ったんだけどさ…」


 蓮の機転を利かせた対応によって図らずも美穂との二人きりという状況が完成してしまったわけだが、それを喜ぶよりも前に彼女から怪訝な顔で問われる。

 当たり前だ。彼も理由があってそうしたとはいえ、彼女の立場からすればいきなり事情も知らぬまま四人から二人組での別行動となったのだから。


 よって美穂がこう尋ねてくるのは想定の範囲内であって、それに対する答えももちろん用意してある。


「勝手な判断だったし碌に相談もしなかったのは、ごめん。ただ何というか…美穂がスライダーに行くって誘われた瞬間に少し顔を曇らせてた気がするからさ」

「…っ!」

「だから、もしかしたら美穂はああいうのが苦手なんじゃないか、って思ったんだ。間違ってたらすまん。その時は俺も付き添うから、一緒に並びに行くよ」

「───……って、ないよ」

「うん?」


 思い上がりだと言われたらそこまででしかない。

 だとしても今日まで美穂と時間を共にしてきて、彼女の変化は蓮もそれなりの頻度で気が付けるようになってきていた。


 その直感に従って今回の反応を判断するのであれば、おそらくは美穂はああいったアトラクションに苦手意識を持っていると思えたのだ。

 だからあの時、少し言いづらそうに言葉を濁していたと考えれば説明もつく。

 無論、それら全てが彼の見間違い。あるいは勘違いだったならその時は素直に謝って今からでもあのウォータースライダーに並びに行くつもりだった。


 ただ…現実はそうならず、彼女のこの言葉で直感は確信へと変わる。


「…間違って、ないよ。蓮くんの言う事は当たってる。私も全く出来ないわけじゃないんだけど、ほんの少しだけ()()()()()に行くことが怖かったから…それで少し躊躇しちゃったの」

「…やっぱりか。ならああ言っておいて正解だったな」


 そう言ってくる美穂の言葉を聞き、蓮も己の考えが間違っていなかったと確信を持てて安堵の息を吐く。

 彼女から明かされるまで蓮も知らぬことではあったが、美穂はどうやら軽く高所恐怖症の面があったらしい。


 なのでスライダーの位置……その規模に比例してかなりの高所にある高台にまで上ることに思わず身構えてしまった、というのが事の真相のようだ。


「で、でも! 蓮くんまで私に付き合ってくれなくても良いんだよ? 蓮くんだってスライダーで遊んだら楽しいだろうし、私は一人でも平気だから無理に付き添わなくても──」

「…バカ、美穂を一人に出来るわけないだろう」

「ふぇっ?」


 だがそれだけ彼から考えを伝えたところで、美穂が易々と受け入れてくれるかと言えばそれはまた別の話になる。

 美穂の立場に立ってみれば自分一人のために蓮の都合を捻じ曲げたと捉えていてもおかしくはない。少なくとももし蓮が彼女と同じ状況下なら、間違いなくそう認識している。


 こちらからすれば見当違いも良いところで気にする要素など何一つ存在もしていないのだが、しかしこういうのは当事者からすると無視するのも難しかったりする。

 今回の彼女も考え方としては似たようなものであり、自分のせいで蓮に不都合を押し付けてしまったのではないか…といった思考に陥ってしまっているのだろう。


 張本人以外からすれば見当違いも良いところな思考回路ではあれど、当人にとっては大真面目。

 ゆえに美穂も己のせいで彼に迷惑をかけてしまったと、段々と沈み込み始めてしまったテンションのままに蓮へ謝罪の言葉を投げかけて………。


 …全くそんな風に捉えてもいなかった彼の方から、呆れたように溜め息を吐いてこう言われる。


「あのな、まず大前提として俺は別にどうしてもスライダー行きたかったなんて思ってないぞ。あれはあくまでも京介に誘われたから美穂にも確認しただけのことだよ」

「そ、そうなの?」

「それに、仮に行きたいと思ってたとしてもな……美穂が別行動になったら何の意味もないだろ。今日は俺一人で遊びに来たんじゃなくて、()()()来てるんだから」

「…!」


 言ってみればとても単純なことだ。

 これがもしも蓮一人での話であったのなら、確かに彼女の言う通り好きな場所に赴いていたのかもしれない。


 しかし今日はそうじゃない。

 今日一日は蓮一人で満喫しに来たわけでは無く、美穂と共にここを満喫するために来ているのだ。

 だというのに彼の要望ばかりを重視して、美穂を一人にして置いてけぼりにするなど本末転倒も良いところになってしまう。


 そんな展開は到底認められないし、認めて良いものでもない。


「だから美穂を置いてくなんてのは無しだ。元々そんなことするつもりもなかったけどな。これで分かってくれたか?」

「……うん、うん! すっごくよく分かった! ごめんね、変なこと言っちゃって? …蓮くんがそこまで私のことを考えてくれてたなんて思ってなかったから、何だか嬉しいな…」

「…まぁ、伝わったならそれでいいよ。なんか解釈が微妙に違う気もするけど…」


 蓮から美穂に言うべきことはおおよそそんな感じだ。

 …ただ、一応彼としては言葉の意味合い的に()()()()()彼女を一人にはさせられないと言ったつもりだったのだが、美穂の反応を見るにどことなく伝わり方がズレているような気がしないでもない。


 さっきまでとは打って変わってだらしなく頬を緩め、口角も上がりっぱなしになって喜びの色を全開にする彼女の態度は何とも微笑ましいものになってしまっていた。


「とりあえず分かってもらえたなら良しとしておこう。…で、この後だけど…どうするか。特にこっちは目的も無いから、美穂にリクエストがあればその通りに動くけど」

「あっ、そっか。う~ん、そうしたら……蓮くん。せっかくだし少しだけ一緒に来てもらってもいい?」

「いいぞ。どこ行くつもりなんだ?」

「それは…まだ内緒! …でも悪いことではないからね」

「…? なるほど?」


 ひとまずは経緯の説明も済んだ。

 となれば次に話題として挙げられるのはこの後どこへ向かうべきかという点であり、蓮の意見としてはこれといって目当てとするものはない。


 強いて言うなら美穂の行きたい場所に行くのがベストと考えているので、何か候補はないかと問うてみれば…意外にも彼女の方から提案された。

 曰く、一緒に来てもらいたい場所があるとのことだったが…しかし詳しい内容に関しては触れられず。


 ほんの少し悪戯心を滲ませた可愛らしい笑みではにかみ返す彼女のそう言われてしまえば追及も出来ないので、ここは美穂の言葉を信じてついていくしかないだろう。


 そう思い、蓮は特に疑いもせず歩き始めた彼女の後ろ姿に大人しく付き従っていくこととし………。


 …最初は人混みの中をぶつからないよう進んでいく美穂の動向を疑問にも思わなかったが、次第に()()()()()()()()へと向かっているような動きを見せたことを不思議に思い始めた。

 てっきり多くの人で賑わった人気のエリアにやってくるものだとばかり思っていたがそれとは正反対の方向へ進んできた美穂。


 こんな場所に来て何をするつもりなのか。

 それを尋ねても良いかどうか迷っていると…少しして満足の行くところに辿り着けたのか。


 気が付くと一目見渡した限りでは他人の目が届かない様な、ギリギリ死角となるような柱に挟まれたスペースまで美穂の手によって誘導されていた。


「──うん、ここなら大丈夫かな」

「…あの、美穂? こんな人気ない場所まで一体何を…」

「あはは…黙って来ちゃったのはごめんね? だけど、偶然とはいえこのチャンスを逃したくはなかったから…ここまで来てもらったの」

「チャンスとは…?」


 パッと見ただけではここに蓮たち二人がいるなど気が付かれることも無い。

 そもそもこんな暗い空間をわざわざ覗き込む者など少数であるだろうし、見つかる心配はほぼ皆無と言っても問題ないはずだ。


 まぁ、だからこそ蓮はこんな物陰にまで連れてこられた理由が分からず困惑しているわけだが…その理由は、微かに羞恥心でも高めたかのように頬を赤くした目の前の少女から語られる。


「あのね…さっき琴葉ちゃんと橋本君が二人であっちの方に行っちゃったでしょ? それで私と蓮くんの二人きりになって…()()はここしかないなと思ったの」

「美穂、さっきから何を──…」

「もう、全部言わないと分からない? …()()は、最初は絶対蓮くんに見せようと思ってたから──今から私の()()、見せてあげるね…?」

「ぶ…っ!?」


 ──そこで気恥ずかしそうに瞳を潤わせて、上目遣いになった美穂から宣言されたこと。


 心なしか仄かに色気すら漂わせているように見えてしまった己の意識を振り払いつつも、何をしようとしているのか予測していると…あまりにも突然に。

 自らが身に纏っていたラッシュガードのファスナーに手を掛け、ゆっくり…ゆっくりとその布地は下ろされていった。


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