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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第七八話 苦手意識?


「…美穂。随分楽しそうにしてたみたいだな」

「ぴぇっ!? …れ、蓮くん? いつの間にこっち来てたの…?」

「いつって…ちょうど今だよ。気が付いてなかったのか?」

「──…だって、蓮くんの方に意識向けたら絶対…は、肌が目に入ってきちゃうし…」

「…何だって? 肌?」

「な、何でもないから!? …だ、大丈夫。少しずつ慣れてきたからあと少しで普通に出来る、はず…!」


 そこかしこに溢れた水に足を浸しながら、夏場の暑さにも負けない涼しさを提供してくれるプールに入っていくと言い表しようもない心地よさが実感できる。

 毎年こういった場所には大して興味も湧かず、わざわざ赴くのも億劫であったため敬遠してしまっていたが暑さの解消にもなるならそれは少しもったいなかった。


 …まぁ、それもこれも美穂がいなければ知らなかった事実でしかないのでこれから惜しむ心の分だけ取り戻していけばいい。

 なのでここは一度思考をリセットし、さっきまで存分に琴葉とこの場所を楽しんでいた彼女へと声を掛けに行けば…何故か肩をビクッと揺らし、驚いたリアクションを取られる。


 やはり、蓮が気づいていないだけで知らず知らずのうちに美穂の怒りを誘発してしまっていたのか。

 そう彼も懸念しかけたところで…しかし、彼女が何やらぶつぶつと呟いていた言葉。


(肌……肌? 美穂も何をそんなに困惑したみたいな──あっ、もしかして…()()が原因なのか?)


 美穂が放っていた微かな発言だけを頼りに彼女の急変した態度の要因を探ってみると…聞こえてきた単語から、一つだけ思い当たることはあった。

 それは彼女が未だ直視はせずとも、どうにかして彼の方を見ようと努力をはしているような美穂の姿勢を見て気が付いたこと。


 …彼自身、そこで再度意識するまで全く思い至っていなかったが、考え直してみると当たり前なのだが今日の彼はプールに来ていることもあって水着を着ている。

 ということは、水着以外の箇所はほとんど肌を晒していることと同義であって上半身は特に隠されてもいないのだ。


 別にだから何があるわけでも無い。男の上半身など見たところで面白さは皆無で、線も細めな蓮には注目されるような特徴も無いのだから。

 …だが、普段の私生活では服に隠されている箇所が今だけは露出していることも事実。


 ゆえに、その姿を見慣れていた美穂だからこそ今日この時。

 日頃は目にする機会もない蓮の肌に対して、過剰な反応を見せていているのでないか…そんな推測が立てられる。


「……あのさ、美穂。少しいいか?」

「…! …な、何かな? 蓮くん?」

「単なる勘違いだったら申し訳ないしすぐに否定してくれていいんだけど、多分…美穂、俺の水着から視線逸らしてるよな?」

「………………」

「…あの、そんな気まずそうにしなくていいから。てことは正解だったんだな」

「す、すみませんでした…」


 だから蓮も彼女に対して、もしも間違った仮定であったらすぐに訂正してくれて構わないと前置きを付けて尋ねてみる。

 すると返されてきたリアクションは、非常に居心地を悪くでもしたように明後日の方向に目を向けて誤魔化そうとする美穂の態度。


 もうそれを一目見ただけでも大体は察せたが、どうやら蓮の推測は大当たり。

 彼女の変化した態度の原因は、まさかありえるはずもないと切り捨てていた…蓮の水着姿を直視できない状態になっていたからとのこと。


 何というか、率直に出た感想としては彼女に限ってそんなことがあるのかといった感じだ。

 いつもはむしろ美穂の方から色々と多少なりとも過激な言動も繰り出してくるのに、そんな彼女が蓮の今の恰好を見ただけで動揺するとは微塵も思わなんだ。


「謝る必要は無いって。…でも、そんな分かりやすく動揺するほど俺には見るところも無いと思うんだが」

「そんなことないよ!! …あっ、う、うん。そのぉ…わ、私もね? 出てきたばかりの時は大丈夫だったんだよ? ただ、ね…少し時間が経って見直したら、緊張したというか…」

「どこに緊張する要素があったって言うんだ。んなもんないだろ」

「うぅ…! れ、蓮くんの恰好に…()()()がありすぎてちゃんと見れなかったの! もう、言わせないでよぉ…!」

「色気? …あるか、そんなもの?」


 しかもそこから美穂より半ば叫ぶように語られてきた事柄──蓮から感じ取れた色気によって直視が出来なかったなんて点については、そう言われた本人でさえも首を傾げざるを得ない。

 そもそも蓮は別に自分で色気などと大層な代物を漏れ出させている自覚もない上に、そのようなものを自身で出しているとも思っていない。


 これが京介のような顔立ちだけは整った男であれば話も変わってくるだろうが、あいにく蓮は彼ほど爽やかな印象も持ち合わせていないのでその線も絶無。

 むしろイメージとしては地味という表現が最も当てはまるくらいなので、色気との単語とは無縁な人間であるはずなのだ。


 …だが、事実として美穂が目を逸らしていたのはそういった事情があるからなのだと明かされた。

 簡単に納得して頷けることではないものの、彼女自身がそう白状してきたのだからおそらくは今の発言も嘘や冗談の類ではないのだろう。


「あるの!! すっごく!! …だ、だからさっきまで見慣れてなくて、目を逸らしちゃってました…」

「なるほど…そういうことだったんだな。でも今は普通に話してるけど平気なのか?」

「今は少し時間も経って、慣れてきたから…それでもまだ、ちょっと緊張はするけどね」


 ここまで自分の本心を暴露させられたからか、もうここまで来たら自棄になって彼女の本音を叫んできた。

 未だ蓮自身は彼に色気が備わっているなど信じられない思いで満たされているも、美穂からここまで強く言われれば自分でも知らぬ何かが彼女には見えている…そう思うしかあるまい。


「まぁそれなら良かったよ。てっきり美穂を何か怒らせることでもしたのかと思って焦ってたから」

「私が、蓮くんに? …それは絶対無いよ。ただ単に、私が勝手に緊張してただけなので…」

「だから安心したんだよ。…原因の部分については納得しきれないところも多かったけどさ。とりあえずそういうことだったら、ここからは俺もしっかり参加させてもらうとするよ」

「ご心配をおかけしました…」


 何はともあれ、諸々の原因に関しても決着をつけることは出来たのでここから先は蓮も見守るだけではなく彼女と共にこの時間を満喫することに意識をシフトさせる。

 ここまで微妙な時間が続いてしまった分は今から取り戻せば良いと、京介と琴葉も含めて次は何をするべきかと思考を回し始める。


 ……その意識が、ある意味ではすぐに()()()()()()()()と思い知らされるのはすぐの話だ。




「──おーい、蓮! ちょっといいか!」

「そんな叫ばなくても聞こえてるからもう少し声量落とせ。…で、何だ。京介」

「いやな。ちょいと今琴葉と話し合ってたことなんだが…」


 美穂と共に他愛もない雑談へと興じていた蓮であったが、突如呼びかけてきた迫力のある声量。

 聞き間違えることも無い京介の声掛けに、何かまた面倒ごとでも起こしたのかと勘ぐりそうになるもその辺りは実際に聞いてから判断するかと考え直して一旦耳を傾ける。


「…そこで話して決めたことなんだが、俺たち二人ともあそこのウォータースライダーに行こうと思ってるんだ」

「ウォータースライダー? あぁ、あそこにあるやつか」

「そうそう! もう見るからに派手だし、最初からどこかのタイミングで向かおうとは考えてたんだよ!」


 すると彼から告げられてきたのは、示された指の先…このレジャー施設へとやってきた瞬間から蓮も視界には捉えていた巨大な滑り台にも似たアトラクションの一つ。

 ここの目玉でもあるらしい大規模なウォータースライダーの方に向かいたいとの申し出であった。


「そんで、そっちはどうするかと思って聞きに来たんだ。見た感じ結構並ぶらしいし、それでも構わないなら一緒に滑るか?」

「ふぅむ…そうだな。美穂はどうしたい?」

「え、私? えぇっと…そう、だね」


(……ん? なんか、美穂の様子というか…言い淀んでる?)


 なので向こうも黙って向かうのは悪いと一応は判断してくれたのだろう。

 律儀に報告をしてくれたことは感心できるし、それなら蓮もさほど強く拒否もしない。


 彼自身も特別ウォータースライダーに苦手意識を持っているわけでも無いため、あちらから要望してきた事であればその案を採用するのも悪くはないと思っていた。

 しかし念のため、ここにいるもう一人の少女の意思も確認はしておこうと思い…美穂にも意見は聞いておく。


 そうすると…てっきり返ってくる言葉は明るい賛同かと思いきや、存外反応は著しくない。

 いや、一目見た限りでは単に逡巡しているようにも見えるのだが…どこか蓮には、美穂が決断を()()()()()()ように感じられたのだ。


 …確証はない。蓮の見間違いに過ぎないのかもしれない。

 それでも、一瞬であろうとも美穂がウォータースライダーの方を見て表情を曇らせたようにしたのを目の当たりにして…気が付いた時にはこう口にしていた。


「──…あ~、京介。悪い、こっちはこっちで行ってみたい場所があるからそっち優先で向かうことにする。だからスライダーは二人で楽しんできてくれ。余裕があったら行くからさ」

「え……れ、蓮くん?」

「おっ、そうだったか! なら無理に誘うことも無いな。琴葉もそれでいいだろ?」

「……ん。美穂、ちょっとだけ行ってくるから、相坂君と楽しんでて」

「あ…わ、分かった! 琴葉ちゃんも楽しんできてね!」

「もちろん……そのつもり」


 余計なお節介であったかもしれない。

 だとしても、彼女のあんな顔を見て黙っていられるほど蓮は美穂の意思を軽く考えていない。


 ゆえにこの瞬間は今でっちあげたありもしない目的地があると彼らには告げ、困惑する美穂をよそにいつの間にか京介の隣にいた琴葉からも言葉を送られつつ立ち去る二人を見送る。


 …その横で、何か言いたげにしながらもむず痒そうな表情で佇んでいた美穂には蓮も苦笑することで返答としておいた。


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