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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第七六話 誰に見せたい?


「結構時間が経ったな…もうそろそろ出てくるか?」

「さぁな。こればかりは向こうを待つしかないし、連絡しようにも繋がるかどうかも分からないんだ。やっぱりここで待ってるのが一番確実だと思うぞ」

「……分かってはいるんだけどさ。なんかトラブルに巻き込まれてないと良いんだが」

「お前も心配性になったもんだな。あれか、惚れた弱みってやつか!」

「…だからそんなんじゃないっての」


 蓮たちが更衣室の出入り口付近に待機し始めてそれなりの時間が経ったが、まだ美穂たちが出てくる兆しは無し。

 最初は待っていればいずれ合流できるだろうと楽観的に捉えていた蓮も、ここまで姿を見せる気配が一向に感じられないと不安が募り始めてしまう。


 てっきり自分たちの方が先に出てきたものだとばかり思い込んでいたものの、実際のところは向こうの方がとっくに出てきていてはぐれたのでは………。

 …そう考えかけたところで、その思考を無理やり頭から追い出す。


 ここで蓮一人が無駄に焦りを蓄積させたところで意味はない上に、もし仮に美穂たちが先に外へ出ていたのなら何かしらの形で向こうからアクションはあったはずだ。

 それが無かった以上、やはり彼女達はまだあの屋内にいるのだろう。


 であればこちらは意味もなく不安を表に出すより、どっしりと落ち着いた構えで二人を待っていればいい。

 意識もすぐに切り替えることこそ困難だったとしても、一度そのように思考を変えるように努めていれば気が付いた頃にはその時もやってくるだろう。


 だから蓮も余計な方向に進みかけた脳内を整理しようと軽く深呼吸をして──唐突に背後から、透き通るような()()の声が聞こえてきた。


「──…わっ! 蓮くんこんなところに居たんだ。ごめんね、待たせちゃったよね?」

「ぬおっ!? …美穂、そこまで長時間待ってないしそれは気にしてないから、いきなり驚かせるのは勘弁してくれ……?」

「……ん、想定よりも少し時間がかかった。待たせた?」

「おぉ琴葉! 全然待ってないから大丈夫だぞ! そんなことより…その水着、よく似合ってるな!」

「…………そ、そう?」


 ──そこで後ろから、いきなり驚かすように声を掛けてきた人物。


 もはや予想するまでもなく正体など分かり切っていて、その推測通りに振り返ってみれば思っていた通りの二人が立っている。

 傍から見ても否応なしに視線を引っ張られてしまいそうな魅力を兼ね備えた美少女が二人。


 声からも察せていたようにその相手は蓮たちが待っていた美穂と琴葉であり、そんな彼女達の水着姿を初めてまともに目の当たりにして蓮は……しかし、()()()()()()に疑問符を浮かべてしまう。


 …ただその一方で、蓮たちとは異なる場所で盛り上がりを見せているカップルは何とも仲睦まじいやり取りを繰り広げている。

 それもこれもすぐ近くにいる恋人が身に纏っている水着──琴葉の場合、どうやらそのセレクトは黒を基調としていながら全体に青い花柄のあしらわれたハイネックビキニだったようだがその効果が凄まじい。


 バスト部分に大きく広げられたレース状の布地が彼女のスレンダーで均整の取れた美しい身体つきにこれ以上なくピタリと当てはまっている。

 仮にも友人の恋人であるためジロジロと見ることはないが、そうでなければ蓮とて視線を引き寄せられていたかもしれない。


 そんな琴葉は少し恥ずかしそうに視線を俯かせつつ彷徨わせていたものの、目の前にいる京介から渾身の感想を伝えられるとその頬を微かに赤く染めて喜びを表現していた。

 何とも微笑ましいカップルのやり取りの一部始終。普段なら蓮も軽く呆れつつ大人しく見守っていただろう。


 ……しかし、この時の彼にそんな余裕はなく。

 何故かと問われれば、ここにいるもう一人の少女。


 ある意味では蓮も気になりはしていた、美穂がどんな水着を着てくるのか。

 つい先日買い物に付き合わされたので大体のイメージは掴めていたとしても、実際に彼女がどれをチョイスしてくるかということまでは蓮も知らされていなかった。

 ゆえに今日この時、美穂がどんな水着姿を選んでくるのか。僅かな期待ととんでもないことをしてくるのではないかという恐怖心が入り乱れる中、目にしたものは…それら全ての想像をあっさりと裏切るもので。


「ふふふ…どうしたの、蓮くん? そんな固まっちゃって、やっぱりこれは予想してなかったみたいだね」

「…そりゃあ、美穂のことだからてっきり──」

「──水着を着てくる、って思った? もちろんそれは間違ってないけど…少しだけ不正解だったかな。まぁ私も、()()を着ようと思ったのはほんとついこの間のことだったからね」


 ──この賑やかさと一種の解放感で満たされたプールサイドにおいて、美穂はその美しい肌のほとんどを()()()()()()


 というのも、その上半身の大半を覆い隠すようにして着込まれた衣類。

 簡潔に言ってしまえば日焼けから肌を守るために使われる、白の()()()()()()()を着用していて艶めかしい素肌がしっかりと保護されていたのだ。


 間抜けにも彼女のことだから大胆な水着を選んできやしないかと肝を冷やしていただけに、この結果はあらゆる意味で蓮の想像を超えてきていた。

 しかし美穂も美穂で、この意外な選択肢にはきちんと理由があると言う。

 そしてその理由というのが……何ともいじらしい、こんなこと。


「もちろん水着は着てるよ? この下に、ではあるけどね」

「そりゃまた…どうしてそんなことを? いや、美穂がそうすると決めたなら俺がとやかく言う事でも無いけど」

「だって蓮くん言ってたでしょ。他の人に私の水着姿を見られるのは嫌だ、自分だけのものにしたいって!」

「……そこまで言った覚えはない。捏造しないでくれ」

「あれ、そうだっけ? まぁそんなわけだから、今日は他の人に見られないよう水着の上からラッシュガードを着て来たんだ! …これなら蓮くんのお望み通りだもんね?」


 …どうやら、彼女がこんな格好で出てきてくれたのは全て蓮のためだったらしい。


 確かに、つい先日美穂に連れられて赴いた買い物では多少誇張もされていたが意味合いとしては似たようなことも口にした記憶がある。

 だがそれは彼からしてみればあまりにも身勝手な我儘でしかなく、考慮するまでもなく呆れられて当然の意見。


 ゆえにこそ美穂もさして気に留めることはなく、あの場では妙案を思いついたと言ってくれていたが実際には特に何かあるはずもないと思い込んでいた。

 けれども美穂自身はそのように捉えておらず、ひたすらに彼の他愛もない言葉を真剣に受け止めてくれていたのだ。


「一応ちゃんと確認はしてきたけど、ここのプールってラッシュガード着たままでも遊べるらしいから安心してね! どう? 納得はしてもらえた?」

「あ、あぁ…少し驚きはしたけども。…それを聞いて少し安心したというか」

「なら良かった! ──あっ、でもね…もう一つだけ安心しておいて?」

「…ん?」


 流石美穂と言うべきだろう。

 ここに至るまでに事前の手抜かりも無いらしく、諸々のチェックも同様に既に済んでいるとのこと。


 準備を万全にした状態で当日を迎えるのは彼女らしくも思えるが、その点も美穂の魅力の一つである。

 自分の功績を讃えるように胸を張る姿さえも微笑ましく見えてきそうなもので…されど。


 次の瞬間、何かを思い出したように掌をポンと叩いた美穂はにっこりと笑みを浮かべて彼の耳元に近づき、そっと囁くように──こう告げる。


「……今は私もこれを着たままだけど、また少し後になったら──この()()()もちゃんと、蓮くんに見せてあげるからね。期待してて…?」

「…っ!?」

「ふふっ、それじゃあ…今日はいっぱい楽しもっか!」

「…そういう不意打ちは、程々にしておいてくれ」

「え~、何のことか私には分からないなぁ?」


 …彼一人にだけ聞こえる程度の声量で伝えられてきた言葉には、とてつもない威力が込められていて。


 今まさに美穂が着用しているラッシュガードの下…おそらくそこにあると思われる水着を、どこかのタイミングでお披露目してくれると宣言してきた彼女の声に心臓の鼓動を掻き乱される。

 同時に、今しがた示していた胸元を指で指して視線を誘導されかけ…何とかギリギリのところで踏みとどまった。




「──…うん、美穂も楽しそうで何より。……相坂君は、大変そうだけど」

「あれはあれで楽しそうだからいいんじゃないか? それにほれ、今の一瞬でこっちのことなんて完全に忘れられてるみたいだぞ。もう完璧に二人だけの世界って感じだし…周囲への被害も甚大だな」

「……美穂ってば、流石に夢中になりすぎ…」


 と、そんな一部始終を繰り広げていた裏で何やら一組のカップルにはコソコソと語られていたようだったが…そこに意識を向ける余裕など、この時の蓮にあるはずもない。

 普段なら確実にツッコミを入れていただろう会話内容にも気を配る意識が残されていなかったのは、それだけ彼も美穂との時間に集中力を割いていたことへの裏返し、だったのかもしれない。


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