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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第七五話 どちらが的外れ


 道中の過程で一悶着こそあったが、ひとまず水着に着替え終わった蓮はそれに続いて支度を済ませた京介を待ち、更衣室から揃って移動する。

 その途中で極寒のシャワーに身悶えしかけるというハプニングこそ起こりかけたものの、ギリギリのところで堪えることに成功するとそのまま屋内から外に出た。


「へぇ…これは想像以上の規模感だな。予想してたよりもずっと広かったよ」

「そうだろ! やっぱりここのプールは他と比べても段違いの迫力なんだよ!」

「…何で京介がそこまで胸を張ってるのかは知らんが。まぁ驚かされたのは確かだな」


 すると、そこで目の当たりにした光景。

 入り口付近の外から眺めただけでは少々分かりづらかったが、こうして実際に中に入って見てみるとその景色はまさに圧巻の一言だ。


 事前に調べていた情報と京介から聞かされていた話で様々な種類のプールで賑わっていることは理解していたつもりだったが…これほどまでとは思っていなかった。

 パッと確認しただけでも何よりも真っ先に目に付く巨大なウォータースライダーがあったり、それとは対照的に緩やかな流れで満たされた流れるプールがあったりと。


 他にも多種多様な水場で溢れたこの場所は、まさしく夏に赴くのなら最高の環境と言っても差し支えないだろう。

 ゆえに普段はこうした場に来ることも少ない蓮も、思わず感嘆の声を上げてしまったくらいなのだから。


「ところで…美穂たちはまだ来てないのか」

「俺たちの方が先に出てきたみたいだな。ま、ここで待ってれば琴葉たちが出てきたらすぐに分かるだろうし、気長に待ってようぜ。女子の支度は時間がかかるもんだ」

「そうするか。にしても凄い盛り上がりようだな…」


 しかし蓮が眼前の様相に感心している一方で、彼らにはもう一つ気にするべき事項が存在している。

 それは現在進行形で姿を現していない、先ほどまで隣にいたはずの少女──美穂がまだいないことであり、同様に琴葉の姿も確認出来ない。


 夏休みというタイミング的な関係もあってそこら中に家族連れを始め蓮たちと同じように友人同士で来ている者だったり、果てには恋人と思わしき男女で歩いている者も…いたりと。

 やはりこういった場所だからか、その客層も年齢問わず様々な人が訪れていることを見て取れる。


 そんな状況下なので彼女達二人を見逃してしまった可能性を否定は出来ないが、それでも時間的に考えればこちら側が先に出てきたと思っていいだろう。

 京介の言う通り、女子の支度は男子のそれと比較しても手間暇がかかるものだろうしここで待つのが最善か。


 なのでずっと立ち呆けているのも何となく微妙な気がしたため、一度近くの地面に座り込もうとして腰を落ち着けて…不意に、隣にいた京介が何故かにやついた笑みを浮かべてこう呟いてくる。


「──何だぁ? そんな正面をジッと見つめたりして…まさか、誰かの水着姿に見惚れでもしたのか?」

「…なわけあるか。単純に人で賑わってるなと思って見てただけだっての」

「面白味が無い答えだったか…まぁ蓮が他の人に見惚れるとかありえないのは分かり切ってたけどよ。お前が見たいのは常に鐘月さんのみず──…ふべっ!? 何ではたいた!?」

「いや、なんかふざけたこと抜かしてきたから。報いだ、甘んじて受け入れろ」

「容赦なさすぎだろ! 暴力反対!」


 が、その発言が大人しく聞くほどの価値もないことだと悟ると瞬時に蓮は京介の頭を渾身の威力ではたいてやった。

 …全く、何を言おうとしていたのやら。


 とんでもなく見当違いなことを口にしようとしていたことはとりあえず察したものの、そこに加えて激しい風評被害も上乗せされかけたのだからこのくらいの対応は至極当然である。


「いったた…本気で力込めやがったな。…しっかし、今のは冗談としても俺としては正直鐘月さんのリアクションの方が心配というか──」

「美穂が? どうしてだよ、心配になる要素ないだろ」

「……確かにそうなんだけどな。こう…蓮の今の姿を見て、色々大変なことにならないかと」

「…なんだ。つまりそれは、美穂が俺の恰好を見ておかしなことになるってことか」

「オブラートに包み隠さず言うならそうなる」

「いや……無いだろ、それは。どう考えたら俺のどこにそんな反応する要素があるっていうんだ」


 ただ、そんな折にふざけ始めた京介がぽつりとこぼした一言には思わず首を傾げてしまった。

 何やら彼曰く、現在の蓮を見た美穂の反応が気になるとのことだったが…そう言わんとしていることはまるで理解も出来ない。


 おそらく言いたいこととしては蓮の水着姿を見た彼女が何かしらのリアクションを示すということだと予想はできるものの、それだけはありえないと断言してしまってもいい。

 そもそも、確かに蓮はこのプールサイドという環境に合わせて水着を着用してきているがそれだって特に目を見張るようなものでもないのだ。


 身に纏っている水着自体も探せばそこらにありふれているようなシンプルなデザインであり、また蓮自身も他人の視線を惹き付けるような魅力を持ち合わせているわけもない。

 さらに言うなら身体の線も細い傾向なため、頼りがいのある筋肉とは無縁なもので…言ってて悲しくなってくるがそれが現実。


 誰から見てもパッとしない蓮の様子など目にして何が楽しいのかと、本気であちらの言いたいことがよく分からない。

 ……少なくとも、蓮一人だけはそう思っていた。


「俺みたいに地味な奴なんて見ても面白くないに決まってる。よりにもよって美穂がそんなことなるはずないだろ」

「……うん、まぁ蓮がそれで良いなら良いけどよ。こっちは下手に手も出さないし」

「あぁ、そうしてくれ」


 これが男子の立場にあって、女子の水着姿に見惚れるというのならまだ分かる。

 抱く心情の種類がどうあれこういった場では男よりもむしろそちらの方が見た目としては圧倒的に華やかで、人目を惹き付けるに違いない。


 もちろん、だからと言って不躾にジロジロと視線を向けたりすれば相手にも失礼なのですることはないが…つまるところ、蓮が意識を引き付ける要素は皆無だということ。

 なので京介から言われたことは全く持って的外れなことで、何を言っているのかと呆れるばかり。



「──…別に、蓮が目立たなくても関係ないと思うがな。どっちにせよ鐘月さんの目から見た印象が全部なわけだし、その時は………よし、とりあえず本人が気が付くまでは言わずにおいてやろう。俺は知らん」


 …蓮のそんな思考こそがまるで的外れなことには最後まで思い至らず、隣でぶつぶつと怪しげな独り言を呟き続けていた京介の発言は聞く価値無しと判断していた蓮の耳には届かない。


 結局、そのまま時間はあっという間に過ぎ去っていき──幾ばくかの時が経った頃。


 ふとした瞬間に背後から聞こえてきた喧騒に混じって出てきた彼女らの姿を、彼らは目にすることになる。


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