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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第七四話 男女別の場所で


 ──蓮が京介たちから誘われたプールのあるレジャー施設は、彼らの家の最寄り駅から少しばかり移動してきた箇所にある。


 家族連れで来るのにも友人同士で遊ぶためにも、広々としたスペースが確保されているので狭苦しさを感じることも無い。

 ゆえにこそ、ここは夏場になるとその人気さから人混みで溢れかえるのだが…そんな中に彼らの姿はあった。


「今日も暑いよねぇ…このままいたら溶けちゃいそうだもん…」

「大丈夫か? もし体調悪くなったりしたらすぐに言ってくれよ。その時は対応するから」

「うーん、今は平気! 気遣ってくれてありがと!」


 夏本番真っ盛りということもあって日差しが強く照り付けてくる道すがら、せめてもの対処として木陰で待機していた蓮と美穂は他愛もない会話を交わす。

 二人がここで立ち尽くしている理由はただ一つ。


 今日この時間にここで集まる約束をしていた京介と琴葉二人の姿がまだ確認できないため、彼らがやってくるまで待っているのだ。

 一応待ち合わせ時間も決めているので合流するまでさほど時間はかからないと思っておきたいが、しかしこの猛暑だと早いところ来てほしいという思いが消えてくれない。


 あいにく…いや、今日の予定を考えれば最良と言えるかもしれないが本日の天候は雲一つない快晴である。

 当然、それに伴って気温もグングンと上昇しており自宅近くからこの場まで、共にやってきていた美穂の体調が崩れないかと、蓮も不安になるばかり。


 最悪の場合は少し合流することが難しくなってしまうとしても、京介たちより先に快適に過ごせる屋内に移動してしまおうかと考えて……そこで遠くから聞こえてくる声を彼は偶然にも察知した。


「──おーい!! 待たせてすまん! 蓮たちももう来てたんだな!」

「…相変わらず声デカいな、あいつは。位置まで丸わかりだぞ」


 人の波に溢れた状況下であっても、一際張り上げられた声量の正体はあえて予想するまでもない。

 もはや方向とある程度の距離すら分かってしまうほどに存在感を放つ人物……今回の集まりを主催した者でもある京介と、その隣に寄り添うようにして近づいてきていた琴葉の姿を確認できた。


「この人混みでどうにも進みづらくてな…ちょいと来るまで時間かかっちまった。悪い」

「別にそこまで待ってないからいいって。こっちも来て間もないくらいだ」

「そんなら良かった! …にしても、蓮。お前も最初から鐘月さんと一緒にいるとは見せつけてくれるな? もう仲は隠さなくなったのか?」

「……黙っとけ。単に家で待ち合わせてから行った方が効率的だって向こうに言われたんだよ。他意はない」


 会うのはおおよそ一週間ぶりと大して日も空いていないのだが、それにしてもこの友人の軽口具合は変化がない様子。

 美穂とは自宅も近いので、だったら最初から一緒に行った方が良いという意見から流されるままにしていた彼女といる光景を揶揄ってくる始末。


 会って早々にこんな冗談が言えるのは流石と言いかけそうになるも、その一方で久しぶりに対面した女子同士の会話は平穏そのもの。


「琴葉ちゃん! 今日はお誘いしてくれてありがとうね! 目いっぱい楽しもう!」

「ん……美穂も、元気そうで何より。ところで、最近相坂君との関係はどう?」

「そっちはねぇ……えへへ。あとでたっぷり聞かせてあげる! …でもね、少しは進んだところもあるから期待してて?」

「……楽しみにしておく」


 ……平穏。いや、平穏と言って差し支えない会話内容であるはずだ。


 たとえこの頃の近況を美穂から琴葉に流出させられそうになっていたとしても。

 その過程で蓮にとって不都合な事実が公のものになってしまいそうだという懸念が浮かび上がってきてしまったとしても。


 今の会話は聞かなかったこととしてしまえば被害は事実上存在しないのだから。


「そんじゃ、こうして無事に合流も出来たわけだし早速行くか! 時間は有限だからな!」

「京介、張り切るのは良いけどあんま調子に乗りすぎるなよ。ここで怪我でもされたら面倒見切れないからな」

「分かってるって! それより早く行くぞ!」

「…絶対分かってないだろ」


 そんなことよりも、今は目の前のプールに意識を向けていた方が余程建設的である。


 …まだ来たばかりだというのにテンションが上限を振り切れているようにしか見えない京介の言葉に従うのは何だか釈然としなかったが、その意見自体には賛成だ。

 今にも調子に乗って転倒しそうな友の手綱を今日はどこまで握れるものかと心底不安になりつつも…蓮たちもまた、彼の後に続いて行った。



     ◆



「しっかし…こうして蓮とプールに来れるとは思ってなかったから、感慨深いもんだ。俺は嬉しいぞ」

「何だよいきなり……藪から棒にどうした」


 場所は移り、入り口でプールサイドに入場するためのチケットを購入し終えた蓮たちはそれぞれ水着に着替えるために更衣室へ男女に別れながら進んでいった。

 これで美穂たちと再び合流するのは着替え終えた後になる。


 彼女と離れることに対して何も思うところがないわけでは無いが…まぁ、あちらには琴葉もいるのだ。

 いざという時には頼りになる彼女も傍に居るため、妙なトラブルに発展することも無いだろうと自分に言い聞かせてこちらの着替えに意識を集中させる。


 …が、その途中で同じく水着に着替えようと服を脱いでいた京介から謎の文言が告げられてきた。

 何やら意味深な表情になりながらも蓮との遊びを嬉しく思うような発言が飛ばされてきたものの、そこに挟みこまれた言い方はどことなく腹が立つ。


「いんや、ただ少し前までの蓮ならこうしてプールなんて誘っても断られる可能性が高かっただろうからな。だから今こうやって誘いに乗ってくれたことが純粋に嬉しいのさ、俺は」

「…俺ってそんな風に思われてたのか? 別に予定が埋まっていなかったら普通に誘いにも乗るぞ」

「そうか? こっちとしては、蓮の場合は軽い寄り道とかならともかくこんな一日ガッツリと遊ぶとなったら渋るイメージがあったがな」

「まぁ……それは時と場合によりけり、だけど」

「だろ? だからこの間、泊まった時に了承をゲットできたのは結構嬉しかったのさ!」

「分からんでもないような…」


 話を聞く限り、詳しく聞く必要もないと思い今まで深く踏み込むことも無かったが京介の中で蓮という人間は誘いに厳しい相手として捉えられていたようだ。

 …もちろん張本人としてはそんなつもりなど微塵も無かったし、仮に誘いを持ち掛けられていたら即答まではいかずとも普通に考慮はしただろう。


 しかしそれとこれとはまた別の話であって、少なくとも京介が抱いていた蓮のイメージはそのようなものだったということだ。

 だからこそ今日この日、大人しく誘いを受けてくれたことが純粋に嬉しかったのだとか。


「まっ、蓮がそこまであっさり誘いを受けてくれたのは()()()()()()()()()ってのも大きかったんだろうけどさ。…分かるぜ、蓮。好きな子の水着姿なんて、是が非でも見たいものだよな!」

「ぶふ…っ!? …違うっての、勝手な妄想足さないでくれ」

「俺の前で誤魔化す必要はないんだぜ? せっかくの男二人なんだから、下手に隠さず暴露していこうじゃんか!」

「………さて、さっさと着替えを済ませて行くとするかな。美穂を待たせるわけにもいかないし」

「無視すんなよ!?」


 …なお、その後に続けて投げかけられてきた発言に関してはさして反応する義理も無かったがためにスルーした。


 何やら背後から不満気な声が叫ばれていたような気もするが、蓮に関係することでもないと判断して自分の着替えに意識を注いでいくことにしたのだった。


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