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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第七一話 不慣れなチョイス


 正直なところを述べれば予想できていたとしても、それだけは勘弁願いたいと思っていたが…彼女はやはり逃がしてくれず。


 この場に連れてこられた時点で半ば察してしまっていたが、美穂から彼女の水着を選ぶのを手伝ってほしいなどと告げられて蓮も思わず帰宅したいという思いが表に出そうになった。

 というか、既に表出してしまった。


「……それだったら、俺は適当に離れたところで待ってるから終わったら呼んでくれ。じゃあそういうことで──」

「だーめ! …せっかくここまで連れてこれたんだから、今更逃がさないよ? きっちり最後まで付き合ってもらうからね!」

「いや、逃がしてくれよ…」


 あまりにも向き合いたくない現実と直面した時、人はここまでスムーズに逃げの姿勢を取れるのかと蓮は意識の片隅で実感させられた。

 けれども美穂は彼の次の行動など見破っているかのように立ち去ろうとした蓮の腕を全身で抱き留め、身動きを封じていた。


「大体俺がついてくる意味なんて無いだろ…! どうしてここに連れてきたんだよ!」

「…だって、素直に言ったら蓮くん絶対に来てくれないし…だけど好みの水着はずっと教えてくれないからどれを着ていくかも決められなくて…こうなったら直接選んでもらうしかないなって!」

「……お前はそれでいいのか? 本当に…男子に水着を選ばせるとか嫌がるもんじゃないのかよ」

「えっ、全然嫌じゃないよ? むしろ好きな人と遊びに行くならその人好みの水着を着たいって思うのは普通のことじゃない?」

「…っ! …随分ストレートに言ってくることで」


 咄嗟に捕まえられた腕がガッチリと固められてしまったので逃げることも叶わず、また彼女の胸が当たっているので非常にマズい感触が伝わってきてしまっているのだがそれを意識する余裕も今はない。

 ただ美穂とて、何も考えずにここまで彼を連れてきたわけでは無いとのこと。


 以前にも少し言われてきた気がするので蓮も微かに記憶に引っ掛かっていたが、確かにどこかのタイミングで彼の好みに合う水着に関して尋ねられた覚えはある。

 その時の返答はどのようなものだったか…詳しいことまでは思い出せないがきっと適当にあしらっておいたはず。


 当たり前だ。蓮だって健全な男子高校生。

 そういったことを聞かれるのを嬉しくないとまで断言こそせずとも、そんなことを素直に語るなど何よりも先に彼の羞恥心が限界を迎えてしまう。


 だがその経緯があったからこそ、今度の企みとして美穂は彼が逃げる先など存在しない。

 直接水着が販売されている店舗まで連れ出してきたというわけだ。

 …本当にしてやられた気分である。


「あっ、でもでも。流石に全部蓮くんに選んでほしいとは言わないよ? どっちかと言うと、今日は私が選んで試着してみた物を蓮くんに見てもらって評価してほしいって感じかな!」

「それでもとんでもなくハードルが高いことには変わりないんだが…そもそも俺がここにいること自体違和感が凄すぎるぞ。…変な目で見られそうだ」

「大丈夫だって! ほら、周りにも意外とカップルで来てる人たちとかいるでしょ? こういうところも案外男の人がいても付き添いだって店員さんは理解してくれてるんだよ」

「……はぁ、仕方ないな」

「ふふふ、これでもう打つ手は無いって理解してくれた?」


 それでも美穂なりに配慮はしてくれたらしく…果たしてこれを配慮と呼んでよいのかは甚だ疑問であるが、一応の気遣いは感じ取れる。

 流石に蓮が彼女の着る水着を一から十まで、全て見繕うのではなく彼女が選んできた水着を批評すれば良いとのことだ。


 ならば助かった。

 元々女子が好むファッションという分野に関してはセンスなどというものが欠如している蓮であるため、最初から最後まで選ぶとなっていれば間違いなく取り返しのつかない失態を犯すところだった。

 まぁだからと言って評価することに自信があるわけでは決してないが、彼が自ら選べと頼まれるよりは数十倍マシな選択肢である。


「じゃ、私も少し良さそうな水着を取って来たいから…良ければ蓮くんも、私に似合いそうな水着があったら渡してくれたら着てあげるからね? ちょっとくらいえっちなやつでも気にしないよ…?」

「…っ、そんなもの選ばないっての…!」

「あ~…今もしかして、私がえっちな水着を着たところ想像してた? 蓮くんったら……もう、駄目だよ!」

「いいから早よ行け!」


 なので渋々ではあるし、何だか美穂に良いように言いくるめられている気しかしないがこの状況を受け入れる他に選択肢はない。

 彼が弄ばれているこの状況のどこが面白いのやら、さりげなく自分の身体を主張してきた美穂の言動に呆れながらも…蓮は溜め息を吐いて彼女の動きを見守り役へと徹した。




「うわぁ…これとか凄くない? ほとんど紐だよ、紐! こういうのを着たら蓮くんも喜んでくれる可能性が…?」

「絶対に無いからやめろ。…どうしてそういう肌面積が広いものばかり手に取るんだか」

「ま、いくら何でもこれはやめておくよ。…純粋に私もここまでいくと恥ずかしいし、大体良いと思ったやつは取れたからね。じゃあ今から試着してくるからそこで待ってて!」

「…はいはい」


 店内のうろうろと見て回っていた美穂もそれなりの時間を要すれば大まかには試着する水着の選別が完了したようだ。

 なので張り切った様子で近くにあった試着室へと駆けこんでいく後ろ姿を確認し、やっとの思いで解放された蓮の方は…ひどく疲れ切った雰囲気を滲ませて壁にもたれかかる。


 いや、まだ体力に関しては余力も残されているが精神の方は既にボロボロの満身創痍状態だ。

 何せここまで、事あるごとにこの水着はどうかと蓮のリアクションを求めてくる美穂の問いかけに返答していき、どう答えるのが正解かも分からない中で女子の水着を選ぶという慣れないシチュエーションに叩き込まれていたのだ。


 しかも美穂はどういうわけか、そのチョイスがまた独特で…簡潔に言ってしまえばやたらと布面積の小さな水着を手に取ってくる。

 彼女ほどの肉感的に過ぎるスタイルを誇った少女がそのようなものを身に纏えばどうなるかなど、火を見るよりも明らかだろうに迷いもなくそれを選んでこちらに見せつけてくる始末。


 …ただ、流石に人も多く集まるプールでそんなものは着れないし万が一着ていったとしても悪目立ちするのは確実。

 更に考えれば余計なトラブルに巻き込まれるリスクが高まるのでそれは止めておけと忠告し、彼女もそれについては同意見だったようで素直に退いてくれた。


 紆余曲折がありすぎたので、ここに至るまでに大幅な消耗を蓮も強いられたわけだが…非常に残念なことにこれで終わりではない。

 むしろここからが本番と言っても過言ではなく、これから現在進行形で水着を着用している美穂に感想を伝えなければならないのだ。


 …どうしてこうなるとはもうここに至るまでに数えきれないほど内心で繰り返し呟いたものだが、それでも今更どうにもできない。


(美穂のやつ…最初からこのつもりだったんだろうな。…でもまぁ、言われた通り周りからも変な目で見られてるわけでは無いのが救いか)


 男が一人、このような場所で突っ立っていれば懐疑的な視線を向けられても仕方ないと思っていたものの意外にもそんなことは無かった。

 つい先ほどまで美穂と共に連れ添っていたことを向こうも周知しているからなのか、少し離れたところにいる店員も他のお客も蓮のことを特におかしな扱いでもするかのように見てくることは無し。


 それも辺りを見てみればよく分かるが、彼だけではなく店内にはカップルで来ているのだろうと思える男女の組み合わせが他にもいるのでそちらと似たようなものだと思われたのかもしれない。

 実際のところは付き合っても何でもない、ただの友人同士なのだがそんなこと周りは知る由もないので…ともかく突き刺さる視線に晒されなければもう何でもよいとさえ思った。


(それに美穂のことだ。…どうせ次は肌が広く出てる水着を見せてこっちを動揺させようって魂胆なんじゃないのか? …はぁ、また次も疲れそうだな)


 目の前に広がっている光景とこれから目にする景色を思えば、他人から羨まれる状況であることは疑いようもないだろう。

 しかし実際にこんな現場に立ち会ったからこそ蓮も理解できたことだが、傍から見れば羨ましく思えるような状況下であってもその渦中に置かれてみると楽しみよりも疲弊が勝ってくるのだ。


 付け加えるなら慣れないことをしたせいで蓄積した羞恥心も併せて発揮されているため、彼の胸中は次にどのような苦難が待ち構えているものかと戦々恐々させられるばかり。

 …無駄なことかもしれないのは百も承知であるが、だとしても今度はもう少し平常心を保てるようにしておきたいと心の内で強く願った。


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