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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第六七話 見ていられず


 ──彼女の纏う雰囲気が激変してしまってから数日が経ったが、未だ好転するような兆しは見えない。


 それどころか日を経るごとに美穂の落ち込み様は酷くなるばかりで、それに伴って共に食べる夕食の量さえも日に日に減らされていた。

 …にもかかわらず、運動だけは毎日欠かさず継続している。


 口にする食事は減るばかりなのに、身体を激しく動かす運動量はまるで減衰しない。

 こんなことを続けていればどうなるかなんてことは…誰であっても予測できたことだろう。


「……じゃ、じゃあ…きょ、今日も行ってくるね…」

「…美穂。本当に一回しっかり休め。もうふらふらなんだぞ、お前」

「だ、大丈夫だよ……これくらいはやらないと…」


 相変わらず日課となってしまっているらしいランニングに出向こうとしていた美穂だが、その足取りはおぼつかないなんてものではない。

 日々の食事さえもままならなくなったせいで身体に力が入れられず、こうなると体調面でも悪影響が出てきたところで何ら不思議ではない。


 それなのに…彼女はまだ意地を張って平気などと言う。

 心なしか血色も悪くなってきていて、顔から血の気が薄くなっているようにも見えるというのにそれでも頑として認めるつもりがないのだ。


 ただそんな無茶を押し通せる時間は──ここまでだった。


「もう少し……もう少しだから………ひゃっ!?」

「…だから言っただろ。もう美穂は限界なんだよ、全く」


 心配の色を強く示す蓮を押しのけ、再び彼女が外に向かおうとしたところで足をもつれさせてしまったのか。

 もはや真っすぐに立つことさえ困難となっている今の彼女ではバランスを保つことも出来ず、床に身体を強打しそうになったところで…その横から彼女をふわりと支えた蓮の手によって受け止められる。


 こうなることを確信していたわけではないが、彼も美穂の姿を見ていつか倒れてしまいそうだと思っていた。

 ゆえに、そうなるかもしれないと考えていた推測が曲がりなりにも現実のものとなってしまったものの…不幸中の幸いか、それを想定していたことで対応に動くことが出来ていた。


 そしてそれと同時に、たとえ偶然だろうと彼女が倒れるようなことになってしまえばもうただ見ているだけの姿勢に徹することなど出来やしない。


「あ、ありがとう……でも私は平気だから、少し身体を動かすくらいなら…」

「それを俺が許すと思ったのか? 駄目に決まってる。──ほい、ちょいと失礼するぞ」

「ふぇ? ……ひゃ、ひゃんっ!」


 今までは美穂にも蓮に踏み込まれたくない理由があるのかと思い遠慮していた部分があった。

 しかしそれもそろそろ我慢の限界である。


 今日に至るまで数日、彼女の事情に配慮して下手に踏み込もうとするのは止めていたがこうなったらそうもいかない。

 なのでここまで来てもまだ外に行こうとする美穂の執念に呆れつつも、拒否権など認めない強引な押し切り方で彼女の小さな身体を両腕で抱きかかえる。


 いわゆるお姫様抱っこ的な抱え方をしたわけだが、美穂はまさか自分が抱きかかえられるなど思ってもいなかったのか何とも可愛らしい悲鳴を上げてされるがままになっていた。

 …だが、こうして持ち上げてみると初めて分かるが美穂はとにかく軽いように思う。


 実るところはこれでもかと豊満なものを持っている美穂であるものの、その大元となる身長や背丈は低めの傾向にあるがゆえのことなのだろう。

 さほど鍛えているわけでも無い上にインドア派であるために筋力もさほどではない蓮であっても軽々と感じられるほどには彼女の身軽さは凄まじい。


 まぁ、許可も無しに肌に触れてしまったことに関しては後ほど謝らねばなるまいが…今はそんなことを気にしている場合ではない。


「は、放して蓮くん!? こ、こんな持ち上げ方されるなんて…は、恥ずかしいよ!!」

「申し訳ないが却下だ。…ほれ、そうやって暴れられるとこっちの負担が増えるからできれば大人しくしてくれると助かる」

「うっ……で、でも私重いでしょ? ……今の蓮くんにだけはそう思われたくなかったのにぃ…」

「いや? むしろ軽すぎて驚かされたくらいだな。ちゃんと毎日食べてるのか不安になるくらいで…って、今は食べてないんだよな。しっかり食べて体力は付けてくれ」

「………ごめんなさい」


 いくら美穂であっても流石にこの姿勢は羞恥心を刺激されるものがあったらしい。

 彼に直接抱っこをされるという状況を客観視したことで恥ずかしくなったのか…何にしても彼女にしては珍しく顔を赤くし、どうにかして逃れようと蓮の胸をポコポコと叩いてくる。


 けれどもその抵抗もまともに力が込められていないので大した威力にはなっておらず、強いて言うなら腕の中で激しく動かれるとバランスを崩しかねないのでやめていただきたいと思ったくらいだ。

 するとそのことを指摘された美穂は蓮の負担になるという言葉が効いたのか、それ以降は落ち着きが無さそうに視線を彷徨わせながらも…大人しく彼に身を委ねていた。


 その隙に彼もすっかり弱ってしまっている美穂を身体を休めることが出来る場所へと。

 近い場所だとソファの上が適しているかと判断したのでそこまで美穂を運び、万が一にも怪我をさせないようにそっと下ろしてやる。


「よっこいせ…っと。しばらくはここで休んでな」

「……うん、分かったよ」


 元々体力の方も限界に達していたのだ。

 休むというよりもそれ以外に選択肢が存在していない彼女は返答するよりも前にソファで横にされ、感謝を告げると軽く息を吐き出していた。


「何か食べるか? 軽くつまめるものなら探せばあると思うけど」

「…ううん、それは平気。今は食べ物を食べたいっていう気分じゃないし…」

「そうか……なぁ美穂。どうして今日までそんな無茶な生活をしてたんだよ。今まではそれでも見逃してたけど、流石にこうもなると見過ごせない。頼むから教えてくれ」

「……無理、だよ。だって蓮くんになんて…尚更言えないことだもん」

「…っ」


 前と比べて弱ってしまっている美穂の体調を回復させるためには、とにかく適当なものを食べてもらうしかない。

 栄養を摂取しなければ身体も不調を訴えるばかりなので、その一心でそう提案したのだが…やはり受け入れてもらうことは出来ず。


 それどころかこんな状態になっても蓮の問いかけに対し、フルフルと首を横に振って理由は語れないと──特に()()()()()()()と告げてくる美穂の言葉に、彼も少し思うところはあった。


「美穂、俺ってそんなに信用ないか? まぁ他と比べて頼りない人間だっていうことは自分でも自覚してるけどさ…」

「…! ち、違うよ!? 蓮くんが頼りないなんてことは絶対になくて…その、これは私個人の問題というか…」

「それだったらこっちも聞かせてほしいんだ。…もう美穂が一人で悩んでるところなんて見たくないし、お前が倒れるようなことなんて絶対に御免だ。だから…教えて欲しい」

「う、うぅ……!」


 ただ今回ばかりは美穂の強情な態度に蓮も怯んではいられない。

 彼女に困っていることがあるのなら力になってやりたい。


 これまで支えてもらってばかりだったこの身で、少しでも支えてくれていた美穂の手助けをしてやれるのなら…そうしたいと。

 以前までの彼であれば考えもしなかっただろう意思の強さを滲ませて彼女の瞳を真っすぐに見つめていれば、彼女も狼狽える素振りを露わにしていた。


 押し切るなら、ここしかない。


「だ、だってぇ……蓮くんにこんなこと言うの恥ずかしいし…それに絶対笑われるし…」

「笑うことなんてしないよ。…俺が人の悩みを笑うようなやつじゃないって、美穂が一番よく知ってるだろ?」

「それはそうだけど…!」

「もちろん無理に話してくれとは言わない。ただ俺が美穂の力になってやりたいと思ってることだけは知っておいてほしいんだ」

「ぐ、ぐうぅ……わ、分かった。分かりました! ……い、言うからこれ以上言い聞かせるのはやめて!」


 ──あくまでもこちらの取る姿勢は冷静に、それでいて静かに言い聞かせるように。


 自分は美穂の味方であることを強く主張して粘り強く説得していると、ようやっと彼女も観念してくれたらしい。

 いよいよ蓮の顔を見れなくなってきたのかその頬を微かに赤くしながらも、やけくそ気味に事情を話すと言い切ってきた。


 これでようやく美穂の態度が急変した経緯を知ることが出来る。

 実際には数日程度だったがやけに長く感じられた気まずい時間もやっと終わらせられる。


 そう思い安堵の息を吐きかけ、しかし根本の問題が解決したわけではないのだからまだ気は抜けないと意識を引き締め直した蓮に…彼女はぼそぼそと掻き消えそうな声量で囁いていた。


「…だ、だからその…………ってたの」

「うん、何だ?」


 意を決した表情を浮かべながら呟かれた美穂の説明を聞き逃すまいと蓮も耳を傾けていたが、一度はボリュームが小さすぎたので聞き返してしまった。

 だが次こそはしっかりと聞き取ろうと聴覚に全神経を注ぎ込み、再度繰り返されてきた彼女の言葉を聞く。


 ──しかしながら、そうして美穂が放ってきた根本的な原因は……かなり予想外な角度から飛んできた内容であった。


「な、何度も言わせないでよ………す、少し()()()()()()()()()()んだってば!!」

「………ん?」


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